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2014年版 経営労働政策委員会報告

月刊『労働運動』26頁(0287号09面01)(2014/02/01)



2014年版 経営労働政策委員会報告
 

 


 「デフレからの脱却と持続的な成長の実現に」を徹底弾劾する
 合同・一般労働組合全国協議会事務局長 小泉義秀
 1月20日、「2014年版 経営労働政策委員会報告 デフレからの脱却と持続的な成長の実現に」が発売され、マスコミは一様に以下のように報じた。「業績好調な加盟企業に賃上げを要請し、給与水準を底上げするベースアップ(ベア)の容認方針を明記した」(1月16日産経新聞)。
 しかし、実際の内容を見てみると「ベア容認」がクローズアップされるようなものではない。非正規職化を一層露骨に促進する政策を隠ぺいするために「ベア容認」論を前面化させたのだ。
 序文で、経団連会長・米倉は「安倍政権の経済政策によって企業を取り巻く環境が大きく改善したことを受けて、今年は、長期にわたってわが国企業を苦しめてきたデフレからの脱却を実現する好機を迎えている」と書いている。本文でも「安倍政権による異次元の経済政策(三本の矢)により、わが国企業を取り巻く経営環境は大幅に改善してきている」(1頁)、「雇用情勢も全国的に改善している」(2頁)と安倍の「成長戦略」をバラ色に描こうとしている。
 しかしその後には「中小企業における業況判断や収益の改善は大企業に比べて遅れている。円安による仕入価格やエネルギーコストの上昇などにより収益が圧迫されている業種もあり、経済全体でみれば改善傾向は明らかであるものの、その動きにばらつきがみられる」(3頁)と書かれている。ここで言われていることが本当の事であり、安倍の経済政策により企業業績が改善されたと思っている輩はいない。口が裂けても雇用情勢も改善しているなどとは言えないだろう。過労死・過労自殺するまで労働者を酷使し、非正規職化を促進することにより資本が利潤をあげているのが実態だ。

長時間労働と非正規職化を労使一体で進める

 2014年版経労委報告攻撃の核心は、①原発再稼働の推進、②限定正社員の導入、③裁量労働制の導入、④「過重労働防止」に対する開き直りに象徴される。労働者を非正規職化することが「成長戦略」とする安倍政権の政策と一体だ。
 原発の再稼働については「最近の値上げは原発の早期再稼働を前提としており、再稼働が実現しない場合、さらなる値上げが行われる可能性が高いことに留意する必要がある」(9頁)と電気料金の値上げを脅しにして再稼働を推進しようとしている。
 「勤務地等限定正社員の活用」には以下のように書かれている。「正社員という呼称とその雇用・就労形態は、『時間外労働があり、勤務地や職種の変更について企業の人事権が強く、勤続を重ねるごとに高い役割が期待される期間の定めのない労働者(従来型の正社員=無限定無期労働者)』を指すことが多い。しかし、従来型の正社員と異なる就労形態を望む者も少なくない。企業としては、労働者の多様なニーズに対応しつつ、生産性を維持・向上させるため、勤務地や職種、労働時間を限定した正社員(以下限定正社員)に活用するなど、正社員の多様化を図っていく必要性が高まっている」(19~20頁)。
 昨年1年間の規制改革会議や産業競争力会議で議論されてきた「限定正社員制度」を本格的に導入・推進することを主張している。正社員については「労働契約法第16条に規定される解雇権濫用法理が適用される」(20頁)が限定正社員は正社員に対する雇用責任と同列に扱われないと解釈されていると露骨に書いている。
 さらに裁量労働制については以下の通りだ。
 「現行の労働基準法は、明治時代にできた工場法の流れを汲むため、費やした時間に比例して仕事の成果が現れる労働者の時間管理には適するが、業務遂行の方法や時間配分を自らの裁量で決定し、仕事の成果と労働時間とが必ずしも比例しない一部事務職や研究職の就労実態とは乖離している」、「働き方そのものの多様化に対応した時間管理を行うには、法律で画一的に律するのではなく、労使自治を重視した労働時間法制に見直すべきである。企画業務型裁量労働制は、実際の労働時間にかかわらず労使で決めた時間分を労働したものとみなす効果をもつ。近年、子育てや介護をしながら働く社員が増えており、限られた時間で効率的に働き、成果をあげた者を支援する意昧でも、本制度の重要性が増している」(22頁)。
 ここでのポイントは「労使自治」である。裁量労働制を法律で決めるのではなく、事業所ごとに労使委員会を設けて労使で合意して、労働基準監督署へ届けを出せば自由に裁量労働制が可能だとするとんでもない内容だ。キヤノンは1日24時間働かせて良いとする36協定を労働組合との間で結んでいる。東電や三菱重工業などの大手企業もそれに近い。36協定は青天井であり、際限がない。裁量労働制も「労使自治」となれば際限がなくなるのは明らかだ。

過労死・過労自殺をさらに促進

 過労死・過労自殺問題については完全に開き直っている。
 「現在、労働者の働き過ぎ防止が課題となっているが、もとより安心・安全な職場づくりは経営の大前提であり、企業はこれまで以上に過重労働防止に向けて取り組む必要がある。特に、36協定の設定上限時間は、労働時間の延長の限度に関する基準に適合させるとともに、特別条項付き36協定を締結し、やむを得ず月100時間以上の時間外・休日労働が発生した場合には、一定要件のもと、労働者に医師の面接指導を受けさせることを徹底すべきである」(23~24頁)。
 時間外の限度時間は1カ月45時間、1年間360時間までは良いとして、月100時間を超える特別な場合は医者に見せれば良いとしている。過労死・過労自殺についてひとかけらの反省もない。過労死・過労自殺を促進してはばからないのが経労委報告である。
 「非正規雇用の増加要因」は65歳までの雇用確保のために高齢者が増えたことと、家計補助的な女性労働者が増えたに過ぎなく、非正規が増えたからどうかしたのかという論調で書かれている(16頁)。そこには就活を苦にして自殺する青年労働者や学生の姿を完全抹殺している。経労委報告は青年・学生の過労死・過労自殺に言及できない。
 こういう経労委報告を出す事しかできない日本の資本家連中はすでに終わっている。徹底弾劾あるのみだ。