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戦後労働運動史の中から 第9回

月刊『労働運動』30頁(0288号08/01)(2014/03/01)


 

戦後労働運動史の中から 第9回
 

 

労資のアベック関係について

 前回、総評結成の立役者、高野実のことを書きましたが、その高野が当時、「労資のハネムーンをなくそう」ということをよく言いました。奇妙な表現ですが、これは1947、8年ころの労働運動の隠れた大問題だったのです。激しい労資対立のうちにあった曖昧な関係、アベック関係のことです。その背景には、敗戦後の日本資本主義の再建過程そのものがありました。
 戦争で破壊された資本主義生産の再建には、国家が決定的な役割を果たしました。労働者・人民の窮乏をよそに、基幹産業の、ことに大企業に国家資金が惜しみなく注ぎ込まれたのです。47、48年、社会党中心の片山内閣、後継の芦田内閣時代の「傾斜生産方式」が有名です。産業再建の根幹として、エネルギー部門の石炭、素材部門の鉄鋼を最優先する。これについで電力、肥料、海運など。カネとモノをこれらに「傾斜させて」流し込むから傾斜生産方式。そのためのカネは、復興金融金庫なるものを作ってここから融資する。日銀が通貨をどんどん増発してこれを支えたから、戦時中からのインフレは頂点に達しました。
 もともと食えないところへインフレだから、労働者の生活は破綻します。労働争議の多発はいうまでもないけれども、一方で資本側も労働者の闘争をただ抑えればすむというものではなかった。当時、生産増大には労働者の数と長時間・高密度の労働に依存するほかはないから、その労働者たちが飢えて働く力がなくなっては困るのです。
 そこで、資本側はずるく立ち回ります。国家から引き出す資金で、労働者の賃上げ要求に対処したのです。労働組合側にもこのカラクリ、賃上げの隠れた源が国家にあることはわかっています。つまりここには、労資の国家に対する、言わず語らずの奇妙な共同闘争が存在することになったのです。
 国家資金の供給をとくに期待できるのは大企業で、激しい争議のうらに経営側と組合側のひそかな一体性が養われます。この一体性はもちろん企業主導です。戦後一貫して問題にされる企業別組合、その最深部にひそむ体質としての企業への従属性は、この時期が一つの節目をなして強まった、と私は考えます。
 こうした労資のかくれた一体性が、すなわち労資のハネムーン、あるいはアベック関係。ここに潜む労働組合の弱点はすぐに暴露され
ることになります。48年暮、占領軍は「賃金三原則」なるものを打ち出す。日本資本主義の本格的再建のために、諸企業がだらしなく国家によりすがっている体質を改善し、自立化せよと要求するとき、まず槍玉にあげたのが労働者の賃金だったのです。賃上げのための、あるいは賃上げにつながるような補助金・融資は許さない、という内容でした。労働組合はここで運動の大きな支えを失うことになります。
 これは翌49年、労働運動の大敗北につながっていきますが、このことについては次回に。
伊藤 晃 日本近代史研究者
1941年北海道生まれ。『無産政党と労働運動』(社会評論社)『転向と天皇制』(勁草書房)『日本労働組合評議会の歴史』(社会評論社)など著書多数。国鉄闘争全国運動呼びかけ人