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■特集 国鉄分割・民営化は破綻! 職場に闘う労働組合を!鉄道業務を外注化してはならないJR川崎駅構内事故の教訓を保線労働者に聞く

月刊『労働運動』34頁(0290号03/03)(2014/05/01)



■特集 国鉄分割・民営化は破綻! 職場に闘う労働組合を!

鉄道業務を外注化してはならない

JR川崎駅構内事故の教訓を保線労働者に聞く

(写真 2月23日川崎駅構内事故の現場)

 2月23日に起きたJR東日本・川崎駅構内事故は、安全崩壊がJR北海道だけでなくJR全社に及んでいることを示しました。事故の根本にあるものは何か、JRの保線職場で働いている国労の組合員に、現場の状況を話していただきました。

保線労働者の仕事の実態を教えて下さい

 現在、私はJRのエルダー社員としてU建設に出向し、保線作業に携わっています。エルダー社員というのは、JRを定年退職した後に再雇用された社員で、原則としてJRの関連会社に出向に出されます。
 勤務形態は変形日勤と夜勤の組み合わせです。変形日勤は午前8時15分から午後5時15分まで、間に1時間の休憩をはさんで丸8時間勤務です。JRの場合、日勤は7時間30分でしたから、1日の労働時間は長くなりました。夜勤の場合は午前0時出勤から翌日の午前10時までで、その間、午前5時から7時が休憩時間です。夜勤は月にだいたい10回入ります。保線技術センターのJR社員の場合、夜勤は月に5回程度ですから、労働条件は悪くなっています。泊まり明けの明けの日の夜に出勤する連続夜勤はきついです。これが月に1、2回は入ります。エルダー社員の場合、月給は17万円程度です。こんな労働条件なのに賃金は本当に安い。
 私がしている主な仕事は、例えばレールをたたいて締結装置はどうか、シェリングと言われる傷がレールにあるかないか、きしみや破損があるかないかを3㌔ぐらい歩いて調べるレール検査修繕業務などです。
 川崎駅事故の場合、作業がいくつもの下請け会社に分割されていたことが事故の原因になりました。私の職場でも実際に線路の補修作業をするのは2次下請けのS興業です。JRがあってU建設が1次下請け、S興業が2次下請けという関係です。バックホーというユンボを小さくしたような機械を2台、3台と使う場合は、S興業の下にさらにN総業が3次下請けとして入ります。S興業の労働者はほとんどが50歳代、60歳代です。若い人が入ってきても1年ももたない。定着しないんです。S興業の労働者は、1カ月の労働日が60日にもなる。昼夜働いて、休みもないということです。

線路閉鎖とはどのようにするのですか

 川崎駅構内事故では、線路閉鎖がとれていない京浜東北線北行に軌陸車を入れてしまったことが事故につながりました。私も軌道工事管理者として、線路閉鎖責任者になることがありますが、JR東日本には「線路閉鎖工事手続(規定)」があって、その5条と6条にどういう場合に線路閉鎖をしなければならないかが定められています。5条による線路閉鎖は、200メートルを超えるロングレールの交換とか、分岐器(ポイント)の全交換とか、破線作業と言ってレールを外して行う作業などの場合に行われ、JR社員が線路閉鎖責任者でなければいけないことになっています。6条による線路閉鎖は、レールがつながった状態でマクラギや道床を交換する、レールの締結装置を交換する、規模が小さいレール交換作業、レールの状態を検査する場合などです。6条には「その他」という項目があって、それに類似する作業もできることになっている。実際の作業の9割以上が「その他」に当たります。6条による線路閉鎖は、受託会社の社員でも線路閉鎖責任者になれることになっています。2次下請けの会社の社員が1次下請けの会社に出向しているという形をとって、軌道工事管理者になることもある。各保線技術センターの保守エリアで行われる線路閉鎖の9割以上が、受託会社の社員が責任者になって行われています。

国鉄時代以来の合理化の現状はどうですか

 国鉄時代から保線部門では下請け会社を使っていました。しかし、外注化の対象は道床交換とかPCマクラギ(コンクリート製マクラギ)の交換作業に限られていました。例えば、マルチプルタイタンパー(MTT)と呼ばれる道床突き固め装置の操作は皆、国鉄職員が行っていました。この作業は今はすべて外注化されています。
 国鉄は1981年5月に、人員削減で35万人体制にするという「国鉄経営改善計画」を打ち出しました。それ以降、保線区の作業グループは廃止され、線路の検査部門だけが国鉄に残されて、修繕作業は外注化されました。JR東日本では2000年9月に「設備メンテナンス体制の再構築」が提案されて翌年から実施されましたが、検査業務も外注化されました。保線区は保線技術センターに改組され、JRは基本的にデータ管理しかしないことになりました。その時点で、検査機器などもJRからパートナー会社に移されました。
 結局、JRに残っているのはパソコンでデータを整理・管理することだけです。例えばレールには何年にどこの製鉄会社が作ったかが刻印されていますが、何年の何社製のレールをいつ切って交換したかというデータ管理。JRの青年労働者は、実際にレールを交換した経験も、マクラギを交換した経験もありません。入社した時から、自分の仕事はデータベースの管理で、汗を流して実際の作業をするのは下請けの労働者ということになってしまっています。
 川崎駅構内事故後、JR東日本は「工事にJR社員を立ち会わせる」という対策を打ち出しましたが、実際の工事経験がない人が立ち会っても、作業を見ていることしかできません。危険を察知して止めることはできないんです。

川崎駅構内事故について話して下さい

 線路閉鎖を許可するかどうかを決めるのはJR、直接にはJRの駅です。夜間作業の場合なら、駅の信号所が終電が通過したことを確認して、線路に新しい車両が入れないように信号を操作します。
 私が線路閉鎖の手続きを取る場合、事前に「何日の何時から何時まで、どこそこでこういう工事をします。何番列車から何番列車までの間で線路閉鎖の手続きをお願いします」という申請書をJRに出す。例えば始発電車が工事現場を朝4時に通過するとすれば、遅くとも4時5分前までに線路閉鎖を解除するという計画を作ります。それをJRが承認して、JRから「申請どおり線路閉鎖の手続きを完了します」という通知が来る。
 昔はそういう手続きはすべて紙に書いてやっていました。今はATOS(東京圏輸送管理システム)が導入され、基本的にそのやり取りはパソコン端末でしています。パソコン端末はU建設にも設置されていて、パートナー会社が線路閉鎖の手続きをすることは当然のこととされています。線路閉鎖の申請があると、JRの施設指令が全体の画面を見ながら列車運行と矛盾がないことを確認し、線路閉鎖を承認します。
 軌道工事管理者として私が現場に出る時には、ハンディ端末と携帯電話を持っていきます。自分が申請してJRが承認した線路閉鎖計画をダウンロードしてハンディ端末に入れてある。線路閉鎖解除時間の10分前になると、ハンディ端末に警報が出ます。線路閉鎖解除時間の5分前には、JRの指令から「時間がぎりぎりだけど作業はどうですか」という確認が携帯電話に入ってくる。
 川崎駅事故のように、線路閉鎖されていないのに作業を始めてしまうことは、よくあります。それを防ぐため、私の所では、複数の線路がある場合、すべての線路の一番最後の列車が通過するまで、どの線路にも立ち入らせないようにしています。例えば、上り線は最終が通過していても、下り線の最終がまだ通過していない時は、上り線の線路閉鎖がとれていても、どの線路にも立ち入らせない。どうしても上り線で作業をしなければならない時は、上り線と下り線の間にロープを張って、下り線には入らせないようにしています。
 ただ、単線区間か、複線、複々線など線区の事情によって、それがやりやすいところとやりにくいところがある。緩行線の上り下り、急行線の上り下りの最終列車の通過時刻にあまり差がなくて、工事の規模が小さければ、それはやりやすい。けれど、川崎駅の場合、
東海道線の最終列車は上下線とも0時10分頃に来て、京浜東北線の最終列車は南行、北行とも1時近くに来る。約1時間の差があると、京浜東北線は動いているけれど東海道線は最終が通過したから、東海道線での作業は始めてしまおうということになりがちです。
 作業に手間取って始電間際までかかってしまうことはしょっちゅうあります。作業が終わっていなければ、列車を止めてもいいことにはなっている。レールを外す作業もあるわけだから、作業が終わっていなければ列車を止めなければいけない。止めたからといって処分されるわけでもありません。けれど、作業が計画時間内に終わらなければ、工事計画が悪かったと言われます。そのプレッシャーがあるから、早く作業を始めたいという気持ちになってしまう。
 列車のダイヤが乱れた場合は、線路閉鎖をとっているのに間違って列車が入ってくることもあります。線路閉鎖といってもバリケードでブロックしているわけではないから、絶対に列車が入ってこないとは言えません。貨物列車は長距離を走ってくるから、遠隔地で大雪が降ったとか強風が吹いたとかで大幅に遅れて、作業計画上は来るはずのない時間に来ることがある。だから作業中は、列車が進来してくる方向に赤色回転灯を立てたり、発光ダイオードで「作業中」と表示する看板を立てなければいけない。
 線路閉鎖をとった場合、見張りは立てません。ただ、隣接線がまだ動いている時は、見張りを立てます。また、田舎の線区で1時間に1本しか列車が来ないようなところでは、列車が通過したら線路閉鎖をとって作業をし、線路閉鎖を解除して次の列車を通してから、また線路閉鎖して作業を再開するということもあります。そういう場合も、見張りを立てなければならない決まりになっている。
 線路閉鎖されていないところに作業員が入らないようにするため、U建設ではOKカードを作っています。線路閉鎖が完了したら、「
何時何分、何番線の線路閉鎖がとれました。軌道工事管理者誰々」と私の名前をカードに書いて、作業責任者に渡す。それを作業責任者が作業者一人ひとりに渡して復唱する。それが終わらないと線路には入れない。

鉄道の作業は一元的だということですか

 全部の線路で線路閉鎖がとれない内はどの線路にも入らない、ということにしていたら、川崎駅事故は起こりませんでした。工事着手前の意思一致もきちんとできていなかった。
 工事に着手する前には、必ず点呼を行うことになっています。事前の点呼をA点呼、現場でもう一回する点呼をB点呼と言います。川崎駅事故の場合、責任者だけ集めてた点呼はしても、請け負い業者がいっぱいいるとそれぞれ指揮命令系統が違うから、皆がそろって点呼をすることはなかったのではないか。そのため、一つひとつを細かく確認することができなかったのだと思います。
 鉄道の作業は一元的でなければいけないんです。ばらばらに委託して、それを寄せ集めて作業するのは、根本的に無理がある。鉄道の仕事は委託しちゃだめなんです。
 川崎駅事故後、JRがしている対策は本当にでたらめです。指揮命令系統図を作って、B点呼の時、ホワイトボードに張り出して、作業員全員の名前を書かせることだけです。しかも、内部監査があるからそうするんだと言っている。まさにアリバイです。
 そういう対策をしろとJRに言われて受託会社がそうしているのであれば、JRが指揮命令しているから偽装請負そのものです。
 事故対策としてJRが受託会社にあれをやれ、これをやれと言うんだったら、JRが自分でやれよということです。JRは事故が起きても刑事責任も問われないし、労働者への損害賠償もしない。賠償するのは受託会社です。無責任の極みです。
 線路の状態を維持する作業は、鉄道業者の一括した管理責任があって初めて成り立ちます。委託した側が受託した側から成果物だけを受け取る委託契約とは根本的に違います。受託会社が補修するレールも、受託会社とJRが共同購入したという形式をとっているけれど、実際にカネを出すのは全部JRです。
 労働安全衛生法や、建設業法では、業務を委託した側の「元方事業者」は下請け労働者の労災防止に責任を負うと定めていますが、JRは1次下請けが「元方事業者」だと言い逃れて、責任を1ミリも負いません。JRの敷地、JRの作業で事故が起きても、その工事をさせることで収益を上げているJRは全く責任をとらない。こんなことが当然のようにまかり通っている現実は絶対におかしい。
 線路閉鎖工事は首都圏だけで年間約400万件あります。新宿保線技術センターだけで年間1万数千件。私が線路閉鎖責任者になる作業も年間100件近くある。JRは事故対策として「JR社員を工事に立ち会わせる」と言いますが、そんなことできるわけがない。本当にそうするとすれば、JRは数百人、人員を増やさなければならない。ならば、委託した作業も人員もすべてJRに戻すしかない。それもしないで「JR社員を立ち会わせる」というのはアリバイでしかありません。外注化した作業をJRの直営に戻せ、外注先の労働者をJRの直雇いにしろという当たり前の要求を掲げて、闘うことが大事だと思います。