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11・10韓日労働者理念交流 イ・ホジュン(西江大学法学専門大学院教授)

月刊『労働運動』34頁(0298号03/09)(2015/01/01)


11・10韓日労働者理念交流 イ・ホジュン(西江大学法学専門大学院教授)


11・10韓日労働者理念交流

セウォル号特別法、真実究明と安全社会の建設に向けた社会運動の課題

イ・ホジュン(西江大学法学専門大学院教授)

■韓国側からの基調提起

 私は西江大学の法学専門大学院で刑事法を教えています。セウォル号惨事に関しては、現在、国民対策会議の共同運営委員長を務めております。

セウォル号惨事は外注化の結果

 4月16日、大型旅客船セウォル号が沈没する事故が発生し、304人の貴い命が犠牲になりました。私たちはこれを事故とは呼ばず惨事と表現しています。その理由はいくつかありますが、三点ほどお話しします。
 一点目は、事故発生に際し、海洋警察(海警)はセウォル号周辺を回るだけで船内の乗客を一人も救助できませんでした。海に飛び込んだ人が170人救助されましたが、海警は船内には進入しませんでした。
 セウォル号には修学旅行で済州島に向かっていた檀園高校(京畿道安山市所在)の2年生が乗っており、犠牲者のうち200人以上が同校の生徒でした。生き延びた生徒たちは、「私たちは救助されたんじゃない。脱出したんだ」と語っています。
 なぜ海警は救助活動を行わなかったのか。海警の救助業務が外注化されていたからです。水難救護法が2012年改正された際、海洋事故が発生した場合、警察が直接救助に当たるのではなく、契約した民間業者が救助を行うと民営化しました。海警は事故に備えた訓練を行っておらず、装備も備えていなかった。
 二点目は、安全点検業務を企業に委ねてしまったことです。
 セウォル号は、常習的に過積載を行っており、運航会社はその危険性について警告を受けていました。しかし制裁はありませんでした。なぜでしょう。
 旅客船が出航するにあたっての安全点検業務は韓国海運組合が担当します。海運組合は運行会社が会費を出し合って運営している利益団体です。利益団体が、運航管理者を雇用し、運航管理者が安全点検を担当する。これでは点検がまともに行われるはずがありません。
 事故前日の出航に際しても、乗客が何人乗ったのか、貨物が何トン積まれたのか、正確な数字は把握されませんでした。安全点検業務は政府の義務であるのに、海運組合という利益団体に丸投げされていたのです。
 三点目は、政府の規制緩和政策の問題です。新自由主義時代で、規制緩和が世界的に行われているのはご存じの通りです。
 1993年西海フェリー沈没事故が発生し292人が死亡しました。政府は船舶の耐用年数を制限すると約束。しかし2009年に耐用年数が20年から30年へ延長されました。
 セウォル号の運航会社である清海鎮海運は、日本で18年間運航して引退した船を輸入・修理し、名前を変えて運航させることが可能になったのです。
 市民の安全や命よりも金もうけに血道を上げる資本、規制緩和によって国民の命を守る役割を放棄した政府、国民の命を守る社会システムの崩壊―これらが結びついて起こったのがまさにセウォル号惨事です。

特別法制定運動

 セウォル号の遺族が家族対策委員会を立ち上げ、市民団体がセウォル号惨事国民対策会議という連帯組織を作り、弁護士らと共に、7月9日特別法案の立法請願を行いました。
 特別法制定を求める署名を6月に開始して、10月30日現在、約530万人分の署名が集まっています。
 成立した特別法の内容について簡単にお話しします。
 真相調査委員会と特別検事を分離するという前提で、真相調査委員会は17人の委員で構成されます。17人の内訳は、与党推薦5人、野党推薦5人、最高裁推薦2人、大韓弁護士協会推薦2人、遺族推薦3人です。委員長は遺族の推薦する委員から選ばれることになりました。
 真相調査委員会には強制調査権がなく、根本的な限界を抱えた特別法です。2015年1月真相調査委員会が発足します。

安全社会にむけた課題

 安全問題について話します。
 真相究明に向けた要求も重要ですが、真相調査委員会の重要な任務の一つに、安全社会に向けた対策の立案があります。利潤より命、費用節減ではなく尊厳ある安全な暮らしの権利を実現するため安全社会を作っていく必要があります。そのための課題を設定しています。
 一つ目は、安全業務を外注化することの問題です。1993年、企業活動の規制緩和に関する特別措置法が制定され、企業の安全管理業務に関わる規制が大幅に緩和されました。企業の費用負担を軽減するため安全要員を削減し、安全点検に関わる業務を下請け業者に外注することを可能にしたのです。この特別措置法に基づく安全業務の外注化が、市民、労働者の安全を脅かしているのだと考えます。
 二つ目は、政府が責任を負うべき安全監督業務を、民間に委ねることの問題です。
 三つ目は、救助業務を民間企業に委ねることの問題です。
 実際、セウォル号事故が発生した際、海警は、清海津海運がアンディーン〔Undine Salvage〕
という民間企業と早急に契約を結ぶようせっつきました。アンディーンは救助専門会社ではなく、船舶引き揚げ専門の会社です。政府は、災難救助の義務を負っているにも関わらず民間企業の市場論理に委ねたのです。
 これら三つの点こそ、企業の利潤追求論理から市民の安全を救出する上で重要な問題です。
 規制緩和政策を全面的に再点検、批判する必要があります。
 パククネ政府は、規制のことを「がん」だと言っています。政府は国民に対し、規制緩和政
策で企業の費用負担を減らせば経営状況が良くなり、経営状況が良くなれば企業は安全部門に投資できると説明しています。これがいかにでたらめな理屈であるかはよくご存じと思います。費用の節減という資本の論理で安全問題に接近してはなりません。安全に関する規制緩和ではなく、必要な規制を強化する必要があると訴えています。
 結論的に申し上げると、安全に暮らす権利は、資本の欲望を制御する社会運動を通して実現すべき課題です。多様な社会運動の流れが存在しており、安全な社会への社会運動の流れを大きくするためセウォル号惨事国民対策会議は努力しています。
 スローガンとしてまとめると
①安全業務の外注化を禁止せよ
②企業の責任を強化し、企業殺人法を制定しよう
③無分別な規制緩和政策を廃棄せよ
④労働現場での作業中止権など労働者の安全権を保障せよ
⑤有害化学物質に関わる情報を透明化し、国民の知る権利を保障せよ、 です。
 これらはまさに、資本と政治権力に対する抵抗を通して勝ち取る以外にありません。
 セウォル号惨事国民対策会議は、様々な市民社会団体、特に民主労総など労働界との連帯を通して、全体的な市民社会運動の流れをさらに大きくし、資本の欲望を規制し、安全な社会へと進む運動を続けていきます。