月刊労働運動-Home> 時代を解く > | 連載 >

時代を解く3 ギリシャ情勢に何を見るか

月刊『労働運動』34頁(0305号09/01)(2015/08/01)


時代を解く 3

(写真 国民投票の結果に喜ぶギリシャ労働者)


藤村 一行(動労千葉労働学校講師)

ギリシャ情勢に何を見るか

 ギリシャは、6・30期限のIMFに対する債務(16億ユーロ=約2千億円)が返済できなくなり、事実上デフォルト(債務不履行の破産状態)に陥った。その結果、資本規制という名の銀行取引規制が始まり、年金生活者の生活資金も引き出せない状態になった。また、輸出入の停止によって医薬品などの必需品も出回らなくなったという。
 緊縮策拒否を掲げて今年1月に成立したチプラス政権は、EU債権団に対し、金融支援を継続して欲しいと求めたが、EU側はこれを拒否、緊縮策を拒否するならユーロから離脱せよと全面的屈服を迫った。追い込まれたチプラス政権は土壇場で7・5国民投票という手段に出た。

◆予想を覆し、緊縮策にノー

 国民投票の結果はあらゆる「事前予測」を越えて61・3%で圧倒的ノー(OXI=オヒ)だった。ギリシャの労働者は「俺たちのどこが悪いのか! ギリシャを搾取してきたのはEU・ドイツの資本家ではないか! 奴隷的な緊縮策は拒否する」と意志表示したのだ。
 この結果に度肝を抜かれたEU、特にドイツのメルケル首相は凄まじい形相でチプラス首相を恫喝した。その剣幕に恐れをなしたチプラスは、国民投票の結果を足蹴にし全面屈服した。 ギリシャに押し付けられた緊縮策は、公務員の賃金・退職金さらには年金のカット、付加価値税(消費税)の引き上げ、国有資産の売却、民営化の徹底推進、監視団の駐在など。破産国家として全面的にEUの管理下に入るという内容である。しかも、EU側は一時的「つなぎ」以外の債務減免は約束していない。ドイツは、ギリシャ経済の立て直しではなく、ギリシャの労働者を力で屈伏させ、丸ごと民営化をやるつもりなのだ。

◆経済破綻でも財政は黒字!

 ギリシャは2009年以来、EUとIMFによる二次にわたる「金融支援」と引き換えに緊縮策を受け入れてきた。その結果として経済は一段と悪化し、若者の失業率は50%を超えた。ところが、ギリシャの財政収支(プライマリーバランス)は昨年度は黒字である。ひどい話だ。考えられないような締め付けが行われているのだ。ギリシャは新自由主義的な効率主義に抵抗してきた国であり、労働者の誇りも高い。ギリシャ国民に問題があるのではなく、ユーロというシステム、新自由主義的な効率万能主義に問題があるのだ。ギリシャの労働者に対する非難は国鉄分割・民営化時の国鉄労働者への非難を思い出させる。
 90年代に統一ドイツができEUが発足した。そしてユーロという共通通貨の導入に進んだ。このシステムは表向きの理念とは裏腹に、ドイツの一人勝ちのシステムとなった。各国ごとの経済政策による通貨調整ができないため、ドイツが一方的に有利に黒字を稼ぐ構造なのだ。この中で、スペイン・ポルトガルなど南欧諸国も軒並み財政危機に陥っている。
 ギリシャの労働者は、チプラス政権の屈服を許さないぞと怒りの声を上げている。そのど根性は、ドイツやフランスの労働者にも確実に影響を及ぼしている。EU・ユーロ、全世界を土台から揺さぶっているのだ。