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労働組合運動の基礎知識 第13回

月刊『労働運動』34頁(0308号07/01)(2015/11/01)

労働組合運動の基礎知識 第13回

小泉義秀(東京労働組合交流センター事務局長)

マイナンバー制度導入の諸問題

マイナンバー制度が2016年1月から開始される。それに先立ち本年10月中旬から順次、全国5600万世帯に「通知カード」が配られている。戦後最大の「改革」と言われる前代未聞の膨大な作業が、郵政労働者と自治体労働者にのしかかる。
 転送不可の簡易書留で送付されるため、郵政労働者が何回もトライしても不達の場合は、各市町村へ戻る。その数は、世帯数の1~2割と言われる。年賀状の営業・販売のピークと重なるので、過重な業務量となる。日没の早い冬のこの時期の配達は、誤配や交通事故の可能性が高くなる。
 市区町村は、国から個人番号カード交付に関する細かい対処法が明確に示されない中で、専用窓口を設置し、職員を臨時採用するなどして対応に追われている。窓口では、身分証明書などで本人確認を厳格に行わなければならないため、個人番号カードの交付は大変な労働強化だ。
 マイナンバー制度は今のところ「税」「社会保障」「災害対策」の3分野に限定され、確定申告や医療保険、雇用保険の書類にマイナンバーが記載される。
 10月から郵送されている「通知カード」は12ケタの番号が記載されている。それと共に個人番号カードの申込書が同封されている。しかし、カードを申し込むか否かは任意である。だが、軽減税率が導入された場合は、カードがなければ還付されないシステムにしようとしている。そうなると当初は任意とされていた個人番号カードの保有は「実質義務化」される。将来的には、国民健康保険証や運転免許証、図書館カードまで個人番号カードと統合することも検討されているのだ。
 労働者は、アルバイト、パート、派遣社員、日雇いのアルバイトでもマイナンバーを勤務先に届ける必要があるとされている。たてまえは強制ではない。だが、事業者には書類への記載は義務付けられている。したがって事業者は、拒否された場合は提供を執拗(しつよう)に労働者に求めることになり、それでもダメな場合は提供を求めたが拒否された経緯を明記して税務署に書類を提出することになる。税務署は個人番号の記載がないからと言って書類を受理しないということはない。
 2018年度からは預貯金口座にもナンバーがふられることになり、現在は任意だが義務化が検討されている。預貯金口座に番号がふられ、預貯金の告知義務が生ずるようになると労働者の預貯金をすべて国家が把握することになる。
 マイナンバーは外国人にも発行され、マイナンバーごとに所得が管理される。永住者や日本人の配偶者など以外の滞在家族や、留学生扱いでアルバイトをしている外国人についても「不法就労」のチェックが厳しくなる。
 社会保険への加入が数%と言われる理美容師の平均年収は250万円程度。平均経常利益率は4%と言われる。マイナンバー制の導入で社会保険未加入の事業者は指導を受け、加入が義務づけられる。より劣悪な労働条件を労働者に強いるか、倒産するかの選択が迫られる。マイナンバー制の導入は、労働者にとって百害あって一利なしの攻撃である。導入されたとしても破産に追い込まなければならない。