月刊労働運動-Home> 組合の基礎知識 > | 連載 >

労働組合運動の基礎知識 第15回

月刊『労働運動』34頁(0310号06/01)(2016/01/01)

労働組合運動の基礎知識 第15回


小泉義秀(東京労働組合交流センター事務局長)

ニムのための行進曲(韓国の歌)

 11月16日、韓国での理念交流の冒頭に「ニムのための行進曲」を合唱した。初めての経験だ。私は音符と訳詩を所持して臨んだが、メロディにのせて歌うことはできなかった。民主労総の集会のビデオを観ると、必ずこの歌が出てくる。今後の国際連帯闘争の中で合唱することもあるだろう。ネットで検索するといろいろな解説や訳が出てくるが、以下の訳詩と解説が一番良いと思うので掲載する。以下は『季刊 在日文芸 民涛』(1989年2月春号 民涛社発行影書房発売)352~353頁「うたのひろば」を踏まえてのものである。
 作詞は白基琮(ペクキウアン)、作曲はキムジョンニョルで、うた劇「魂(ノク)プリ」(その日が来るまで)の最後に唄われる曲である。作詞は作家のファンソギョン氏が書いたとする説もある。「魂プリ」は80年5月光州で戒厳軍に射殺された青年と、その2年前に労働現場で亡くなった若い女性の「霊魂の結婚式」をテーマにした作品である。
 ネットの解説では、光州民衆抗争市民軍代弁人、故ユンサンウォンさんと故朴キスンさんの霊魂結婚式を背景にした歌で、1982年「光の結婚式」に歌われた。その後、この曲は 5・18の象徴と呼ばれ、ノ・ムヒョン政府時代の2004年5・18 記念式公式追慕曲に指定されて、2009年まで毎年斉唱されてきた。しかし、2009年12月、国家保勳処で5・18記念式追慕曲「ニムのための行進曲」を除いて、公式追慕曲を新たに作ると発表すると議論が広がった。結局、2010年5・18 記念式では公式式次で「ニムのための行進曲」の斉唱手順を抜いた。そのゆえ、当時5・18 関連団体代表たちが記念式をボイコットして、別に記念式を開くなど問題となった。紆余曲折(うよきょくせつ)の末、再び歌われた「ニムのための行進曲」は、「2011年5・18 前夜祭の17日でも合唱になった」とある。そうすると実在の人物を題材にしているのかと思う。
朴槿恵(パククネ)政権は国定教科書で、光州蜂起への虐殺を正当化している。「ニムのための行進曲」は朴槿恵政権と真っ向から激突する歌なのだ。

愛も名誉も名も残さず 一生を捧げようと誓い合った
同志はいまはなく 旗だけがなびき
新しい社会が訪れるまで 退きはしまい
歳月は流れても 山河は知っている
ふたたび目を覚まし叫ぶ 消えることのない喊声
先に立って進むから 生き残った者よ 後に続け
先に立って進むから 生き残った者よ 後に続け

 光州蜂起後、80年代初めに多くの闘いの歌が作られた。「ニムための行進曲」はそれらの歌の中でも高い水準を確保し、広く歌われることとなった。「ニム」は、普通「あなた」の意味であるが、「イム」と記されることもある。「あなた」ではなく、「大切な人」ぐらいの意味であろう。それは共に闘う仲間をさすかもしれないし、民族や祖国を意味するのかもしれない。80年代の民衆運動とともに生きてきたこの歌は、韓国民衆の魂の叫びとして、これからも歌いつがれることだろう。いつの日か「新しい社会が訪れるまで」(同上)。