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私の職場第9回 1人から組合結成!タクシー労働者の誇りがある

月刊『労働運動』34頁(0317号08/01)(2016/08/01)


私の職場 第9回
1人から組合結成! タクシー労働者の誇りがある


河野晃興(こうのあきのり)(自交総連SKさくら交通労働組合委員長)

―どういう職場ですか。

河野 北海道の札幌にあるタクシーの職場で働いています。運転手です。タクシー会社のSKグループは600台のタクシーを持つ会社で、従業員は全体で1500~2000人です。札幌では1~2位を争う規模の会社で、小樽、余市、苫小牧にも支社があります。
 私のいるさくら交通は、札幌市内にある6ヶ所の営業所の内の一つです。72台のタクシーを保有しています。
 札幌で一番大きいグループ会社が、SKグループと北海道交運(HKグループ)です。
 以前、北海道交運で一方的な賃下げ攻撃があり、2001~2008年の7年半裁判闘争をやりました。和解して会社が全部金を払った。その一角を担った日本交通労組の支援を契機にタクシーの道に入りました。

―職場のことを話して下さい。

河野 さくら交通は、従業員が200人で、正規が50人、
非正規が130人で、アルバイトが20人です。非正規は嘱託で1年契約ですが、うち30人は62歳以下なのに本採用していません。給料は歩合制で稼いだ分からいくらという体系です。正規は売上げの61%でしたが、2008年リーマンショック頃から3年続けて引き下げ57・61%になり、年間で約1か月分減額になりました。
 正社員の賃金は、月例給が売上の48%で夏、冬のボーナスと、北海道特有の燃料手当(冬を前に10月頃から出る)を合わせて年間賃率として支払われます。この年間賃率が61%から57・61%に引き下げられました。嘱託は月例が50%で、夏のボーナスが売上によって変わる累進歩合です。売上のいい人は8%、悪い人は4%です。有給補償は3~4%出ます。正社員が57・61%に下げられたので、嘱託の賃金体系が正社員より良くなり、不満が出て、会社は正規でも売上のいい人は嘱託の賃金にする制度を導入してきました。会社としては能力給を徹底したいのです。不況になり売上が落ち込めば、どんどんパーセントが下がっていくからです。しかも1%をめぐって労働者を分断し競争させようとするので、正規にしないのです。

―組合のことを話して下さい。

河野 職場に組合は二つあります。私の組合は自交総連(全労連系)で25人、もう一つは全自交(連合系)で、以前120人くらいいたのですが、年々減って今は40数人です。私は全自交に入ろうとしたのですが、権力が会社に入って、社長が「組合に入れるな」と介入し、委員長が「入れるわけにはいかない」と言ったのです。その上で、自交総連の地連委員長と知り合いだったので、2006年入社し、2009年に本採用になってから自交総連の組合を自分一人から呼びかけて結成しました。最初はビラをまいて呼びかけ組合員4人になり、それから6人になって、ビラをまく度に1~2人必ず入るようになりました。元々あった全自交が何もやらないので、私の組合に結集してくれるようになりました。
 2011年従業員代表選挙があり私が立候補しました。当時、全自交は組合員が100人近くいて、私の自交総連の組合員は十数名でしたが、私が勝ちました。選挙は会社がうちの組合を叩き潰すつもりで仕掛けてきたのですが、逆になったのです。最初は会社が選管も準備し、私の休日に選管選挙をやろうとしたのです。当時250人従業員がいる中で、私に入った票が過半数を超えていました。第一回選挙をやって圧倒的にこちらが勝ったので、突然会社が「選挙は無効だ」と言って選挙をやり直しました。もう一回選挙やると言って、全自交の組合員の締め付けや電話などもかけまくって向こうが挽回したけれど、第二回選挙をやってもこちらが過半数を超えて勝ったのです。候補者の主張を文書で出させ、労働者がそれを読んでよく検討できるようにしたのが良かったと思います。社長は超がつくワンマン社長で周りの人に言うことを聞かせることを生きがいにしているような人ですが、以降、社長は団交に出なくなり、副社長を出すようになりました。
―組合員25人でも全自交より職場に力を持っているんですね。
河野 全自交組合員も自分の組合はどうしようもないと思っていて、組合に入っていない人も自交総連を支持している。完全に立場は逆転しています。全自交委員長はひどい人で、身体が悪いと言って1年に10日くらいしか出て来ないし、組合員から要望が出ると逆ギレするような人で話にならない。現場の気持ちがわかるのかと思います。会社がやらせている面があります。

―仕事の中身を教えて下さい。

河野 私は夜勤専門です。パターンは3つで、夜勤専門、日勤専門、隔日勤務があります。隔日勤務は2日間に渡って働いて翌日休みというパターンです。21時間勤務です。日勤は朝6時30分から17時30分まで13時間、夜勤は18時から翌朝5~6時くらいまでです。隔日勤務は、朝6時から翌朝3時までです。うちの会社は、夜勤と日勤が主で、隔日勤務は1人しかいません。繁華街は夜勤の方が稼げます。日勤と夜勤で差がつくので、稼ぎたい人は夜勤で働く。家庭の事情とかあって日勤をやる人もいます。隔日勤務の方が平等で、昔は隔日勤務が主でした。札幌の街は、すすきのがあり、夜勤が稼げるんですが、最近その差がなくなってきています。

―タクシー運転手の給料が売上高の何%とは、普通ですか。

河野 今は普通だと思います。昔は基本給と一定の歩合給もありAB型賃金といいます。A型が固定給(基本給)、B型が歩合給です。今は多くの会社が基本給は全くなしで、オール歩合給です。最低賃金は設けなくてはいけないので、それが下限になっています。北海道の最低賃金は746円で、最低賃金に時間をかけて会社は払います。
 でもそれがもったいないと、会社はタクシーが客待ちで並んでいるのを労働時間とみなさずカットするのです。厚生労働省も通達で「客待ち時間も労働時間だ」と出していますが、多くの会社で労働時間カットが問題になっています。タコメーターが動いてないタコ空き時間のカットが行われています。会社が「さぼっている」と言うので、もめたり、裁判になることがいろんな会社であります。うちの会社でも今年6月から管理職に社長直属の人間が着任し、「事故防止のため休憩を必ず取るように、休憩をとったら5分でも必ず日報に記入するように」と指導するようになりました。一方的に時間カットをすると違法の可能性があるので、本人に休憩時間として申告させてカットするつもりなのです。賃金がカットされるのは最低賃金(時間給)が補償されている労働者です。私たちの生活をなんとか支えている最低賃金さえも会社は押し下げようとします。
 私たちの仕事はどこに行けば客がつくということではなく、毎日が売上との闘いで、運転手同士が足の引っ張り合いをやることになります。同じ会社だと地域もだぶるし、無線のお客さんもだぶります。別の会社の人よりも同じ会社の人と一番争い、敵は自分の会社の労働者になってしまう。同じ会社の運転手同士が殴り合いをやることもあります。でも内心は同じ職場の仲間と競争したくないから、労働者の良心でモラルが一定保たれているのです。同じ会社の人間でも関係ないと開き直る人もいますが少数ですね。

―昔AB型だったのがB型に変わったのは何年ごろですか。

河野 うちの会社は20年くらい前です。今年から変わった会社もあります。AB型の時は退職金もありました。オール歩合に変える過程でほとんどの会社は退職金制度を廃止しています。うちも退職金制度はありません。
 拘束時間は8~13時間です。早く帰りたい人は早く帰ってきてもいいのです。夜勤の場合車庫のシャッターが開くのは朝3時です。早く帰る人は2時半にシャッター前に並んでいます。

―食事はどうしていますか。

河野 食事は、昔はラーメン屋や食堂に入った人が多かったのですが、今はほとんどいません。コンビニでおにぎりやパンを買って、客待ちしながら食べている人が多い。私もそうですが、休憩時間としての休憩時間は一切とらない状態で、13時間ほとんど車中です。駅前などで並んでいることが多く、少しずつ進んでいくので寝ることもできない。車から降りるのはトイレに行く時くらいですね。

―本州との違いはありますか。

河野 本州と違うのは、札幌の場合は冬が雪道との闘いなので、夏の3倍くらい疲れます。路面状況が変わっている、雪で埋まって動けなくなる、事故の危険性が高まるなどがあります。タクシーの車は本州に合わせてつくっていて後輪駆動(FR)です。止まる時はいいのですが、発進がしずらく雪に弱いのです。段差があるとすぐ動けなくなります。吹雪いたりしますし、凍結もあります。
 毎日が売上との闘いなので、若い人があまり来ない原因の一つです。景気がよく稼げる時代なら働けば稼げるけれど、稼げなかったらどこまでも落ちていく不安定な職場なので、やはり若い人が来ないです。

―規制緩和でタクシー台数が増えたことも影響していますか。

河野 2002年小泉政権時代に規制緩和があり、台数が増えました。札幌の場合は、MKタクシーという京都中心の企業が格安運賃で入って、良い客を全部取ってしまった。10~15%安い設定で安売り競争になります。さらに競争が激しくなるんですね。

―資本との攻防を話して下さい。

河野 最近では、スタッドレスタイヤ問題があります。雪が降らない時期になると夏タイヤに履き替えるのは当たり前です。スタッドレスタイヤは雪道用に作られているので、夏場に使用すると安全性と快適性の問題があります。だけど、会社は限界まで磨り減って履けなくなってから夏タイヤに取り替えることを今年からやろうと決めたのです。コスト削減のためです。
 しかし、夏にスタッドレスを履いて高速で行ってくれなどと言われても、事故になると大変なことになると、組合として撤回させなくてはだめだとビラで社員全員に知らせ団交をやりました。ビラをまいた時からみんなは「会社はこんなことを考えているのか、とんでもない」「来るところまで来たな、タクシー会社の資格ないな」と言っていました。お客さんの命を預かって、そんなやり方があるのかと意見が沸騰したのです。団交をやり交換させることになりました。ただ会社は、溝の深さ1・6㍉という一般車に適用する法律を根拠に「国の基準を守っているから安全なんだ。今までそれが原因で起きた事故など一度もない」などと言っています。本当に会社は、人間を、お客さんを運んでいるという意識がないのです。目先の金しか考えていない。企業経営者にはタクシー産業をやっているという誇りがないんです。
 最近、病院のタクシー待機場で組合員が花壇のブロックを引っ掛けて崩して放置してしまったことがありました。防犯カメラの映像から発覚し、会社が本人に確認したのに対して最初否認したのですが、GPSのトレースをつきつけられて本人が認め、先方に謝罪に行きなんとか丸く収まりました。これに対して会社は本来なら解雇に相当するが30日の懲戒休職処分(=停職処分)にすると言ってきました。私たちの仕事は事故などで一瞬ですべてを失う危険が伴います。一旦会社を出ればたった一人で非常に弱い立場にあります。こんなことで30日休職処分にされては安心して働けません。この処分との対決が今の最大の課題です。

―ライドシェアについては。

河野 目先の金しか考えない経営者のあり方が、「ライドシェア」(相乗り)に付け込まれていると思います。「ライドシェア」というのは、お金をとって人を運ぶのは職業運転手でなくてもいいという発想です。一般の人が車の空いている時間に小遣い稼ぎにやればいいという。スマホで、「この時間にここからここまで乗りたいけれど、空いている車ない」と一方が出して、登録している運転手が「自分はそこに行ける」というシステムを作ろうとしている。ネット会社で、楽天の三木谷、アメリカのウーバーという会社が参入しシステム利用料で金を稼いで、安全には責任もたないシステムです。トヨタがウーバーに資本参加することになり、日本でも大問題になると思います。
 タクシーの仕事は現場でトラブルの連続みたいな仕事です。交通事故の問題が一番大きいです。札幌では、夜は酔っ払いも多く、トラブルになる可能性もあります。今タクシーが動いているのは、現場のトラブルを処理しながら、不可能を可能にしている労働があるからです。ライドシェア導入に労使一体で反対という2500人くらいの集会がありました。でも使用者は楽天の発想と変わらず、命のことをどうでもいいと思っている。2002年規制緩和の時も労使一体で反対という話でしたが、結局経営者は台数を増やしました。ライドシェアもいざ始まればウーバーと提携し抜け駆けする企業が出るでしょう。

―組合の団結を話して下さい。

河野 労働者同士がバラバラになって競争させられている中で、団結をどう作るか考えています。先ほど例に上げた処分問題のように、明日は我が身という立場で、「みんなは一人のために」取り組むということではないかと思っています。タクシー運転手という自分たち労働者の気持ちを同じ目線でわかってくれるというのが大事だと思います。職場では組合員と顔を合わせる機会が少ないので、月1回、組合員全員が集まる組合会議を行っています。年1回、飲み会を旗開きとして2月にやっています。フランスのストライキは、タクシー労働者のライドシェア反対がきっかけになってゼネストまでいった。日本でもやりたいと思います。