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時代を解く(15)津久井やまゆり園事件 社会的危機の深さ示す

月刊『労働運動』34頁(0318号14/01)(2016/09/01)


時代を解く 15
津久井やまゆり園事件 社会的危機の深さを示す


 7月26日深夜2時半頃、神奈川県相模原市にある重度知的障害者のための福祉施設「津久井やまゆり園」で、園生19人が刺殺され、27人が傷を負うという衝撃的事件が起きた。犯人は職員5人を拘束衣で縛り、就寝中の園生を次々と刃物で刺し殺し、負傷させた。犯人U(26歳)は、2012年12月から今年2月までやまゆり園で働いていた元職員であった。事件直後に警察署に出頭したUは、「障害者は生きていても意味がない」と語っている。ナチス的優生思想を掲げ、障害者大量抹殺を実行した確信犯として徹底的に断罪しなければならない。実際Uは、「ヒットラー思想が(自分に)降りてきた」と語ってもいる。事件から一か月を経て、社会的波紋はますます拡大している。

※「安倍晋三様のお耳に」

 Uは今年2月、「障害者470人を抹殺する」作戦計画を「安倍晋三様のお耳に」と書いた手紙をもって衆議院議長公邸を訪ねている。3日後、職場で「安楽死を実行する」と語って退職させられた。その後Uは、妄想性障害や薬物性障害などの診断で、精神保健福祉法による緊急措置入院となった。3月冒頭に退院し「抑うつ状態」での通院に切り替わった。その4か月後に「計画」を実行に移した。Uは、「日本国のための行動だから自分は死刑にはならない」と言っている。事件の背景・根拠には、安倍政権が、障害者や要介護の高齢者は社会のお荷物という思想を強調し、政策としても実行してきた事実がある。だから安倍政権は、事件の社会的な本質を見据えて非難することができない。事件の性格を犯人個人の問題に切り縮め、保安処分や治安的対応の強化を振りかざしている。

※民営化による職場の変貌

 2012年末に園に就職した時からUはナチス的障害者抹殺思想の持主であったとは言えないだろう。働いた2年間に労働現場の重い現実に圧倒され、人間的に追い詰められ、急激にナチス的優生思想、障害者に対する差別抹殺思想で自己を満たすことになったと思われる。
 津久井やまゆり園は1964年に創設された後、様々なプロセスを経て現在に至っている。神奈川県職の福祉職場における労働運動的実践としても真摯な追求がなされてきた歴史のある職場である。(『一所懸命 ある社会福祉公務労働者の思い』太田顕など)だが、2005年の民営化によって現場は様変わりし、労働組合は力を失い、労働条件も悪化した。現在、やまゆり園をはじめ神奈川県内の四つの施設の指定業者となっている「かながわ共同会」は、深夜勤なのに平然と最低賃金での募集を行っている(15年度)。

※労働と命の尊厳を取り戻す

 新自由主義下で金儲けと効率だけの価値観が蔓延し、人間の絆と人間性が破壊されている。そこに、安倍政権による上ずった国家主義がナチス礼賛、ヒットラー賛美を伴って公然と吹きこまれている。現場の矛盾が極限的になっている時、これが、国家と社会にとって無益なもの、有害なものは抹殺してもいいという扇動としてストレートに働くのである。労働する人間、
労働者階級としての誇りと団結をもってこの現実に立ち向かうこと、これこそが社会の現実的
共同性、命の尊厳を取り戻していく道である。
 藤村 一行(動労千葉労働学校講師)