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時代を解く 階級的決戦情勢に身構える天皇メッセージ

月刊『労働運動』34頁(0319号08/01)(2016/10/01)


時代を解く 藤村 一行(動労千葉労働学校講師)
階級的決戦情勢に身構える天皇メッセージ

階級的決戦情勢に身構える天皇メッセージ

 8月8日、天皇がNHKテレビを使って、政府の頭越しに、直接「国民に向かって」異例のアピールを発した。71年前の8月15日、敗戦時の天皇ヒロヒトの玉音放送以来の異例の事態である。天皇アキヒトは、具体的には言わないがはっきりわかる形で、平成30年(2018年)までに生前退位、皇太子への生前譲位を行ってくれと訴えた。皇位継承という天皇制の根幹にかかわる制度改正を天皇自身が公然と提起したのだ。憲法違反であるだけでなく天皇の政治的行為として驚くべき攻撃的な意味をもっている。アキヒトの行為は、天皇制の強化と継続のために「単なる象徴としてだけでなく、国民統合の象徴としての役割を果すための天皇制のあり方」を実現するという形で政治的に踏み込んだ提起を行っている。「憲法の枠内」から完全にはみ出している。しかも、安倍政権との意思疎通ができていないことをさらけ出しながら、ある種の実力行使である。なぜそういう異例の行動に出たのか。

*体制存亡の危機に直面

 結論から言うと、日本の国家・社会が大変な危機にあること、ある意味で歴史始まって以来の存亡の危機に直面しているという支配階級の自覚に基づいている。その中で天皇制もまた危機に立っている。それは、アキヒトだけでなく、日帝・支配階級の深い危機感を体現したものと言っていい。5年前の3・11東日本大震災は、日帝の体制的危機が解決不能状態であると満天下に明らかにした。その危機の中で民主党政権は倒壊し、安倍が再び登場して、ある種の挙国一致状態を作り出し「暴走」してきた。一瞬だけ、「強い日本を取り戻す」かのような幻想を生み出したが、経済や外交をはじめあらゆる意味で「日本」はどん詰まりの危機である。しかも安倍政権が危機を後戻り不可能の地点まで推し進めつつある。アベノミクスは言うまでもない。改憲攻撃は、戦後日本の「常識」を踏みにじりながら進んでいる。そして、戦争と戦争国家への暴走、「対テロ作戦」に名を借りた治安体制強化に駆り立てられている。参院選の「勝利」にも関わらず安倍政権は追い詰められており、本格的な体制危機の大波が押し寄せてこようとしている。階級的全面的な決戦状態への突入が避けられないのだ。だからこそ戦後天皇制の危機をアピールしつつ階級闘争を予防的に制圧し、支配の危機を乗り切る意識から天皇の異例の行動も出てきた。安倍政権と支配階級はこれを最大限に活用しながら、歴史的階級決戦を乗り切るために身構えている。

*天皇制は廃止・打倒あるのみ

 戦後天皇制の出発点に規定されて、天皇はヒロヒト時代の1978年以来靖国神社への参拝を拒否してきている。それは、A級戦犯と自分たちは違うことを内外、特にアメリカに対して示すためだ。だが今の天皇は、「平和主義」でも「民主的」でもない。血塗られたヒロヒトに対して、国民に敬愛される天皇像を必死で演じてきただけだ。天皇制は、「国家と国民の統合」つまり階級的弾圧のための最大の道具である。労働と生活の現場に基礎を置く労働者の現実的共同性を解体し、階級闘争を鎮圧することが天皇制の役割だ。労働者が闘いを発展させるためには、天皇制の廃止・打倒を掲げて真っ向対決するしかない。

藤村 一行(動労千葉労働学校講師)