理論なくして闘いなし第4回 帝国主義と戦争、新自由主義とのたたかい

2019年7月31日

月刊『労働運動』34頁(0317号09/01)(2016/08/01)

理論なくして闘いなし 闘いなくして理論なし
第4回
帝国主義と戦争、新自由主義とのたたかい

 藤村一行(動労千葉労働学校講師)
マルクス主義講座として動労千葉労働学校の講義の抜粋を掲載しています。

 一般的な帝国主義と戦争という話ではなく、現在われわれが生きて闘っている情勢をどう捉えるのかという観点で考えていきたいと思います。

●世界経済危機

 第一に、今現在、帝国主義の危機、戦争の危機が進行していますが、その全体構造の根底にある世界経済危機の問題から入りたい。
 16年冒頭から世界同時株安、中国も日本も世界も危機という状態が進行しました。直接的には昨年12月、アメリカの中央銀行にあたるFRBが、08年リーマンショック以来続けてきた実質上のゼロ金利状態をやめ、9年ぶりに少しだけ利上げをした。超金融緩和状態をやめたということですね。それがいろいろなことに影響を与えた。アメリカの利上げは、それによってアメリカの景気にはマイナスとなります。また世界経済全体にも大きな影響を与える。中国の経済、世界の新興国の経済にも影響を与え、石油生産国は原油価格の低下で追い詰められています。EUヨーロッパも停滞基調、デフレ基調でマイナス金利状態です。これらは、世界大恐慌から立ち直れない世界経済の状態を示しているわけです。
 日本ももちろん安倍が出てきて、3年たってもデフレ的停滞から抜け出せない。昨年の秋、10~12月はマイナス成長、今年1~3月はプラス0・5%というが、4~6月はふたたびマイナスになる可能性が高い。アベノミクスは完全に破綻しているわけです。日本の株は去年の夏をピークに2万円台から1万6千円くらいに下がった。株の買い支えに失敗して、少なくとも10兆円くらいの年金基金が吹っ飛んだ。円安と株高で何とか息をつないできたのが破綻した。安倍政権と日銀は、常識的には理解しにくいマイナス金利のショックでまた円安を狙った。円安にして日本の大企業、トヨタなど輸出企業を救済しようとした。貿易を有利にするための通貨切り下げ戦争が起きている。しかし米との関係で、マイナス金利をやっても株安、円高が進む状態。  

●日本のデフレ脱却は不可能

 安倍政権は20年度には財政を立て直す(プライマリーバランス)と言っているが、それは3%成長が前提。しかし80年代後半のバブル時代の平均が3%成長で、バブルが崩壊した90年代以降、基本的には1%、0%の状態が続いている。3%成長はありえない想定。それどころか、どんな手を打っても、0%成長近くでうろうろするしかない現実が重くブルジョアジーにのしかかっている。そのしわ寄せは全部労働者人民にかけられる。

●本質的問題は労働力の問題

 本質的な問題は、労働力の問題です。労働者の働きが悪いという意味ではなく、日本の資本主義にとって、もっと徹底的に労働者をこき使い、使い捨てにできる雇用関係、低賃金の関係、労働者の団結をいっさい許さない労使関係こそが成長の前提なのです。以前のように、労働力が有り余っていた時代とは違う。資本の蓄積運動が好循環で発展する条件が基本的に失われている。それを過剰資本・過剰生産力の状態と表現する。日本経済の成長力は客観的にみて0・4%くらいといわれている。アベノミクスは、日銀がどんどん資金を出せばみんなの気持ちが大きくなって経済は成長を始める、そのおこぼれが労働者に回ってくるなどといった。しかし成長しようにもその土台的力がない。ただ金融的世界でお金が空回りしているだけ。

●サミットで露わになった世界経済危機、とりわけ日本の危機

 安倍は、伊勢志摩サミットで、世界経済が危ないから各国で大規模に財政出動して危機に対応しようと提起した。しかし、サミットの親分連中は「財政出動は日本がやればいい」「世界経済は下振れリスクはあるが、急激に崩れるわけではない」と対応した。実は、世界経済が本当に危機だからこそ、ある程度の危機という言い方に留めたわけです。それは、ヨーロッパやアメリカの現状を見れば明らかです。伊勢志摩サミットの後、危機は深化している。イギリスのEU離脱の国民投票が6月23日行なわれます。早くもポンドが下落し、世界同時株安と金融危機の状況が生まれています。日本とアメリカとヨーロッパの中央銀行は、スワップ協定(通貨交換協定)で、ドルなどを融通しあって市場に供給するといった緊急非常体制をとっている。世界経済は、いつ何が起こるかわからない状態。その中でも日本経済は一番の危機です。
 アベノミクスの結果として、日本経済は焼け野原状態に入ろうとしています。日銀の超金融緩和によって、日本の国債市場は限界的になってきている。日本の金融資本を代表する三菱UFJが、国債を引き受ける際に特別の権利をもつプライムマリーデイラーの地位を降りると宣言した。国債を持っていたら損をするようになってきたので、もはやこれ以上引き受けられない、日銀と安倍政権がやってることはデタラメで認められないという突きつけを行った。これだけで日本の国債は暴落し始めてもおかしくない。
 何故かというと借金のために日本政府が発行した国債の3分の1は日銀が持っている。日銀は今、年間80兆円くらいの国債を買い入れている。大変な額です。その結果、2年もたてば発行済み国債の半分以上を日銀が保有することになる。そうやって国債の暴落を防いでいるだけなのです。マイナス金利にしたので、国債を保有していても最後は元利合計で損をする状態になった。銀行にとってこれ以上国債を引き受け、保有するメリットはない。というより不可能となった。これで赤信号がともったので、国債暴落も時間の問題になってきた。
 日銀自体は国家機関ではない。政府と完全に合体してしまった場合は、資本主義としては成り立たない。しかし日銀は今そういう状態に入りつつある。アメリカはそうならないように超金融緩和から出口を求める出口政策に入って金利を上げ始めた。しかし日銀はそれとは反対に、マイナス金利をやり、国債の買い入れをどんどん積み重ねている。最後は、国の借金を、市中銀行を媒介せずに日銀が引き受けて国債を塩漬けにする。そして日銀が刷ったお札を国債発行もなしに政府がどんどん使う状態に入るだろう。これをヘリコプターマネーと言うらしい。日銀にどんどんお金を刷らせて政府はそれを財政に使う。こういう状態に日本経済は入るしかない、ある意味ではすでにそうなっている。なぜなら日銀保有の国債に関して政府がそれを償還する(国の赤字を返済する)展望が一切無いからです。
 こうなったら、日本で言えば1930年代の高橋財政と同じです。戦争はいろんなことが絡みますが、経済的にいうと経済と財政が破綻的になり、膨大な財政赤字を積み重ねてその場しのぎをやる。それでも景気回復や成長などありえないなかで、軍事に金をかけ植民地侵略に出ていく。高橋財政は赤字を縮小するどころか財政など無視した軍部の独裁と戦争経済に転化していった。そして最後は敗戦によってすべてがパンクし、円は紙くずになった。
 今の日本経済はそれと似ているのです。安倍は日銀に超金融緩和を強制し、財政再建についてはでたらめなことを言っている。消費税の引き上げを再延期したのは人民に対して税負担を軽減するためではない。消費税増税で社会保険を賄うという関係がそもそも許せない話なのだが、安倍はそれすらも放棄した。ブルジョアジーのために金を出し続けないかぎり日本経済はもたないということが一切の前提になっている。たしかに今、戦前のような戦争経済ではないが、ヘリコプターマネー的な発想で国内的な公共事業や対外的なインフラ輸出、鉄道・原発と武器輸出などを推進する。これにすがることによって日本経済はやっと維持される。だとするとこれはすでに一種の戦争経済なのです。これこそが、安倍が「第二の三本の矢」で「アベノミクス」に拍車をかけるというときの基本線なのです。サミット後に、大規模な財政支出で景気対策を打つ、そのメニューにJR東海のリニアへの政府支出が入るという。これにODAによる武器輸出や大学の軍事研究などを重ねて考えると、経済的に日本はすでに一線を越えた状態に入っているように感じられます。TPPはこうしたことの条件作りのようなものです。
 ここで確認したいことは、このような日本経済の状態は早晩、全面的に破綻するということです。敗戦で全面的なインフレに突入する以前に、今の日本経済はこのままで持つはずがないということです。日銀が政府と合体して財政赤字を無視して突き進む。その全体が、大恐慌の深化に対する予防反革命でもある。しかし、今の国際的な経済関係のなかで、これは日本国債の暴落となり金利の急上昇と急激なインフレへの突入となって跳ね返ってくる。これは大変な問題です。本当に危機的状況に日本経済は入りつつあると思います。今度の消費税増税延期はこういう問題を孕んでいる。これこそ日本経済全体が破滅に向かっている重要な証拠です。
 もちろんこのことは、ブルジョアジーの破産としてただ確認していればよいわけではありません。労働者人民への犠牲としわ寄せがもっともっと進む。生きられない深刻な事態に拍車をかけていくことになる。これが労働法制改悪、全面的非正規化など労働現場で起きていることの背景であり、根拠としてあると思います。そういう意味で、一つの大きな決戦を不可避とする大攻撃にわれわれは直面している。
 世界経済に関して、今イギリス問題が大きい。しかし、イギリス問題以上に日本経済で進行していること、日本の階級闘争における資本家と労働者の関係として進行していることが実はそれ以上に大きな問題、世界経済全体の中で一番重要かつ深刻な対立点です。

●戦争問題が大きなテーマ

 世界の政治、軍事、外交、要するに戦争問題が非常に大きく前面に出てきている。ヨーロッパや中東に関してはそれははっきりしています。だが、この点でも東アジアの情勢がじつは非常に深刻です。中国の体制的危機がどう噴出してくるかわからない。朝鮮情勢と中国情勢は結びついている。安倍の戦争改憲攻撃はそれに連動し、そこに対応しようとしている。そういう東アジアの政治軍事情勢、戦争情勢が進行している中で伊勢志摩サミットは行われた。必要になったら核兵器を使うこともあると公然と宣言したのがオバマの広島訪問の意味でした。安倍政権の方から、北朝鮮や中国に必要なら核を使うと宣言したのと同じです。また同時に沖縄で元海兵隊の軍属による女性殺害事件が起きて、それに対する怒りが爆発した。それを必死に押さえ込んでやっとのことでサミットをやった。
 朝鮮半島の矛盾構造はギリギリの地点に来ているとみなければならないでしょう。(略)
 結論的にいって、伊勢志摩サミットには経済的に「明るい」要素は全然なかった。中東、東アジアの戦争情勢、中国、北朝鮮、韓国の戦争情勢のなかで、日本経済は破滅的危機に入る。本当に闘わない限り帝国主義者が絶望的な危機の中で全人民を戦争に引きずりこむ構図が浮かび上がったサミットだったと思います。

●資本と労働の関係が基本

 経済の話から経済を土台にして政治、軍事、戦争の情勢が進んでいることを確認しました。経済が土台で、政治が上層に分かれているという機械的な確認ではなく、その真ん中にあるのは資本と労働の関係なんです。要するにこの社会は資本と労働の関係で成り立っている。それが土台の経済を決め、政治や国家間の対外関係など全部を決めている。そういう意味で世界経済の危機、今進行しつつある戦争の危機を資本と労働の関係、雇用、賃金、労働現場の団結、闘い方の問題との関係でとらえかえし、そこで全部決まっていくものとして統一的に捉えていく必要があると思う。そうとらえたときに、階級的労働運動を軸に帝国主義国家との全面的な対決をやり抜くことの意味がはっきりするわけです。
 資本主義というのは泣いても笑っても何らかの形で必ず恐慌になる。恐慌の形は違っても必ずなる。これはそうなる必然性があるのです。だが、戦争はそうではない。支配階級は人民の意識をドリルで粉砕してでも屈服させようとする。しかし、そこには、一時代の全体をかけた階級的攻防戦があり、その結果として労働者階級人民が敗北した時に、全面的な本格的な戦争体制が構築され、戦争に突入していくわけです。その意味では、帝国主義戦争の必然性というのは、恐慌の必然性とはレベルが違う、帝国主義を倒そうではないかということと一体の問題として主体的にとらえなければならないものです。そういう意味での大きな階級攻防、階級決戦が今始まっていると思います。

●労働者の団結で戦争を止め、社会的生産を奪還する

 私は、その意味で「歴史は繰り返さない」といつも確認することにしています。正しく闘えば必ず、断末魔の帝国主義に引導を渡すことはできるはずだ。そういう情勢が主体的な条件として始まっている。1930年代の敗北や第二次大戦後の様々な教訓を踏まえて、今度こそは勝利しようという意識が国際的にも高まっている。そのためには、戦争に出口を求める帝国主義に対して階級的団結と労働者権力の樹立、帝国主義打倒のプロレタリア革命をリアルに問題にし、労働者人民がそれ以外にないということを経験的にはっきりつかみ取るような形で闘っていくことです。空論ではなくて労働運動の現場の力を基礎にして全世界をそこに向かって獲得していく。それと一体で日本の階級闘争のなかにはらまれている「革命のヒドラ」を解き放っていく。そういう攻防戦が始まっている。21世紀の情勢の中で本当に労働者階級の勝利を実現していかなくてはいけない時が来ていると思います。
 (今号は前半のみ。次号に続く)
 【6月18日の講演から抜粋】