労働組合運動の基礎知識 第24回 「専修大学事件」高裁判決

2019年7月31日

月刊『労働運動』34頁(0319号09/01)(2016/10/01)

労働組合運動の基礎知識 第24回

「専修大学労災患者解雇事件」差し戻し事件高裁判決について

 この判決は労災による休業期間中は解雇はできないとする労働基準法19条を空文化し、75条の解釈を逆転させる反動判決である。75条には「労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかった場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない」、第81条には「第75条の規定によって補償を受ける労働者が、療養開始後三年を経過しても負傷又は疾病がなおらない場合においては、使用者は、平均賃金の千二百日分の打切補償を行い、その後はこの法律の規定による補償を行わなくてもよい。」とある。
 専修大学の職員である男性は2002年ごろから首や腕に痛みが生じて頸肩腕(けいけんわん)症候群と診断され、07年に労災認定を受け、休職した。専修大は11年に打ち切り補償約1630万円を支払って男性を解雇。男性側が地位確認を求めて提訴した。一審・東京地裁は「打ち切り補償の適用は、使用者による療養補償を受けている場合に限られる」とし、解雇無効と判断。二審・東京高裁も支持していた。2015年5月28日、最高裁第二小法廷は、2011年10月31日付の解雇について、これを違法・無効とした高裁判決を破棄し、打切補償を支払った解雇が有効となり得るとして東京高裁に差し戻す判決を言い渡した。この差し戻し審の高裁判決が9月12日にあり、最高裁判決を踏襲し、1・2審の判決をひっくりかえす逆転反動判決を下した。

 今回の判決の反動性のポイントは、使用者が療養費を負担せず、国が労災保険を支給している場合でも打ち切り補償の規定を適用できるかどうかが争点だった。最高裁第二小法廷は判決理由で「労災保険が給付されている場合、労働基準法が使用者の義務とする災害補償は実質的に行われているといえる」と指摘。「療養開始後3年が過ぎても治らない場合、打ち切り補償の支払いで解雇できる」と判断した。判決は、労働基準法が明文で禁止する解雇を容認し、使用者が自ら災害補償責任を果たしていない場合にまで打ち切り補償を支払った解雇が認められる場合を大幅に拡大するものである。4人の裁判官の全員一致である。差し戻し審の高裁判決はこれを支持したのである。

 本件の概要は、当該の弁護団声明などで明らかにされている。専修大学が、当該に過重な業務を課すなかで、頸肩腕症候群という職業病を発症させ、男性が療養のため休業を余儀なくされたことが発端である。ところが専修大学は、当該男性の労災申請を妨害し、職場外に排除しようと退職強要や解雇通告など不当な仕打ちを繰り返した。主治医や産業医が認めたリハビリ勤務を拒否し続け、中央労働基準監督署が指導し、是正勧告をしたにもかかわらず、解雇を強行したのである。
 労働基準法を解体し、労働法制を全面改悪しようとする攻撃の中での今回の差し戻し審判決である。徹底的に弾劾したい!
小泉義秀(東京労働組合交流センター事務局長)