労働組合運動の基礎知識第32回 みなし残業代、固定残業代について

2019年7月31日

月刊『労働運動』34頁(0327号11/01)(2017/06/01)

労働組合運動の基礎知識 第32回
みなし残業代、固定残業代について



 みなし残業代、固定残業代については以前にも書いたことがあるが、労働相談等での違法な事例として多すぎるので、より具体的に書いておきたい。
 一般に、「みなし残業」とは、給与の中に一定の残業代を含んでいる給与体系を言う。みなし残業は通称で、「定額残業代」や「固定残業代」などが普通の言い方だ。
 重要なことは定額残業代でも、基準を超えたら追加支払いが必要だということである。
 定額残業代の典型例としては、月〇時間分、または〇万円分の残業代を〇〇手当として毎月支払うというもの。手当の名称は、「固定残業手当」や「業務手当」「営業手当」など、会社によってそれぞれ異なる。たとえば、月30時間という基準があれば、実際の残業時間が30時間を超えた場合に、追加で残業代を支払う必要がある。こうした手続きを怠り、40時間、50時間……といくら残業をしても追加の残業代を支払わない、というのは明らかに違法だ。 また、基本給は35万円で、ここにすべての残業代が含まれているから、これ以上はいくら働いても一切支給しない、といったやり方も認められない。定額残業代を運用するうえでも、労働者が何時間働いたのかを正確に把握していなければならない。労働時間および残業時間の把握は年俸制やみなし残業制度にかかわらず、会社の義務であり、タイムカードなどで管理および記録を行わなければならない。
 みなし残業制度とは、月の残業時間数をあらかじめ定めておき、その時間内で、実際に何時間残業を行っても(まったく残業を行わなくても)、その時間数を残業したものとみなす制度だ。これと同時に、毎月の給与支払い時にあらかじめ定めた固定残業代を支払うことになる。みなし残業制度というと、会社が本来従業員に支払うべき残業代をディスカウントするための制度と見られがちだが、実際の残業時間があらかじめ定めた残業時間数より少なければ、むしろ会社が損をする形になる。みなし残業制度を導入するために必要なことは、まず「みなし残業時間と固定残業代の額を明確に分けて記載する」ことが必要だ。みなし残業制度を導入するためには、原則として、個別の労働契約にみなし残業時間とそれに対する固定残業代の額を定める必要がある。
 「基本給 300,000円で残業代は基本給に含まれる」というのは違法だ。「基本給 300,000円(固定残業代を含む)」というのも違法。「基本給 300,000円(固定残業代30時間分を含む)」も違法。「基本給 230,000円 固定残業代 70,000円」というのもだめだ。
 みなし残業制度を導入するためには、基本給と固定残業代を明確に分け、何時間のみなし残業時間に相当するかまで、定めておかねばならない。「基本給 230,000円 固定残業代(30時間分)70,000円」「基本給 300,000円(うち70,000円分は月に30時間分の時間外勤務手当、深夜勤務手当、休日勤務手当の合計に相当し、実労働時間および手当がこれに満たない場合でも支払うものとします)」というのが正しい記載例である。

小泉義秀(東京労働組合交流センター事務局長)