『国鉄分割・民営化と闘って30年 労働運動の変革をめざして』を活用しよう/執筆者座談会
『国鉄分割・民営化と闘って30年
労働運動の変革をめざして』を読み、学習し、活用しよう!
国鉄闘争全国運動から『国鉄分割・民営化と闘って30年 労働運動の変革をめざして』が6月30日に発刊されました。4人の執筆者に集まっていただき、本を読み広めてもらうための座談会(7月15日)を行いました。今後、各地区・各職場で活用していただくために執筆者を講師として招き、学習会なども設定していただきたいと思います。
「今回の本で一番訴えたいことは、労働運動の変革の問題は、理屈や理論だけでは絶対語れないもので、生身の労働者が主体でやる運動だから、現実に労働者がこう闘った現実の歴史と経験の中からしか語れないと思う。動労千葉の闘いの歴史を述べるという形になっていますが、それは過去のことを述べているのではない。筆者全員がそういう観点で書いているところが、この本のいいところ、画期的なところだと思う。過去のことを述べているような形だが、今、労働運動に問われていることを訴えているということだけは、ぜひつかみとってもらいたい」
という田中委員長の言葉に、この本の真髄があると思います。
●参加者(執筆者)
伊藤 晃さん (国鉄闘争全国運動呼びかけ人・日本近代史研究者)
田中康宏さん(国鉄千葉動力車労働組合委員長)
山本弘行さん(国鉄闘争全国運動呼びかけ人・動労千葉国際連帯委員会)
白井徹哉さん(国鉄闘争全国運動事務局)
※本を読む視点
○司会 本を全国の職場に広めて活用してもらう座談会をしたいと思います。
○伊藤 2、3章はむずかしかったと思う。動労千葉がある決断をして行動していく。その活動を分析するには運動の内部に入り込むことが必要だったからです。労働運動全体をどうするのかという観点から、ここの決断はどういう意味を持つのかを考えるとき、7章で田中さんの出した教訓は生かせると思います。そうしないと2、3章の読み方はむずかしい。というのは、動労千葉が正しかったということを前提にしてはならないと思うからです。正しいとする前提をわれわれの中で考えていかなくてはならない。それが読み方としてむずかしいところです。我々の運動を批判的に考えるためにはそういう読み方をするといいのではないか。
○白井 二つくらい感想があります。
国鉄闘争、国鉄分割・民営化については、葛西敬之や加藤晋介弁護士の本など、いろんな立場から出版されていて、執筆準備で何冊か読みました。それぞれの立場は違えど、なにかしらの「真実」は反映されていると思いながら読みました。
それと同じ時代を、動労千葉は国鉄分割・民営化との30年間の闘いとして進んできた。30年間いろいろなことがあった。2010年の政治和解に対して「国鉄闘争の火を消すな!」と訴えて国鉄闘争全国運動で一緒に闘ってきた人たちが、2015年の最高裁決定という一つの到達地平のなかでこの本を出した。『国鉄分割・民営化と闘って30年 労働運動の変革をめざして』というタイトルで書籍を出版できたこと自体に歴史的な意味があると思います。今後の闘いに向けた決意と展望を示す宣言の書です。もちろん中味が大切でして、この書籍が世に出たことは大きな意義があると思っています。ぜひ読んでほしい。
もう一つは、1章、4章、7章などで書かれている内容ですが、船橋事故や三里塚ジェット燃料輸送、動労本部からの分離・独立、国鉄分割・民営化、業務外注化など動労千葉がこれでもかこれでもかという困難な課題に対して、組合員をまとめて団結して立ち向かってきた。そして「全国の労働者は必ず立ち上がる」という信念に依拠して、現実に闘いぬいてここまで来た。このことを書籍として記すことできた。これは私自身、ものすごく勉強になった。そこをみなさんにぜひ読み取ってほしいと思っています。
これは今後の労働運動再生の展望にかかわることですが、「労働者が団結して闘う」ことに対する組合員の信頼を動労千葉はつくりだしてきた。分割・民営化反対ストライキで40人の解雇者が出ても「団結さえ維持できれば大丈夫」と揺らがなかった。「団結して闘うこと」への信頼はどのようにして生み出され維持され強化されているのか。この中身を深めたいと思っています。
それを一言でいえば「反合理化・運転保安闘争路線」なのだと思いますが、〈労働者が団結して闘うことに展望があるんだ〉ということに確信や信頼感をつくりだせるかどうかは、労働運動と労働者に一番大切なことだと思う。
僕も、合同労組の役員をやって労働相談や職場の組織化にかかわっていますが、家族を守るために他の労働者を蹴落として会社の側につく労働者が百パーセント非人間的かというとそんなことはない。そういう労働者でも「団結を守って闘って仲間も家族も自分も守ることができるんだ」と信頼を寄せることができる労働運動を現実につくり出せれば状況は違ってくる。国鉄分割・民営化とその後の日本労働運動の後退によって、そういう感覚や労働組合そのものが労働者の日常生活から奪われたから、言うのは簡単でも現実の運動としては難しい。でも動労千葉は、船橋事故を出発点に現実にそういうことをつくってきた。このことをみんなに知ってほしい。
伊藤さんが1章で、船橋事故闘争を通して動労千葉が実際につくってきた反合理化・運転保安闘争をある種の「思想」として提示してくれたことは大きい。これは過去のことではなくて、外注化阻止に対する現在進行形の闘いとして動労千葉は全組合員をまとめて四苦八苦しながら立ち向かっている。その具体的中身を明らかにしている。
7章で、動労千葉の指導者という重責の中で、生々しい言葉で田中委員長が語っている中身は、これ自身が研究対象だと思います。今の日本の労働運動にとって何が大切なのかという意味を込めて、僕もこの本を勉強して深め、今後に生かしていきたい。
○田中 動労千葉が闘いを決断できたのは、執行部の意志もあるけれど、現場が闘う意志があったから決断できた。いくら笛を吹いても踊らない状態だったら全然決断できない。大きいと思うのは、この闘いをやりぬいてこの団結を守りぬくことができるとかなり確信を持ったから決断できた。自然にできたわけではない。国鉄分割・民営化の渦中も必死になって、団結を崩さないぞと組合員をオルグし決断した。それまでの過程が、反合・運転保安闘争の大きな決定的な意味だが、40人の解雇者を出すような闘争をやっても崩れない決断をやったのは、意識的な組織した運動があったからだ。ここは、なかなかわかりづらいと思います。
労働運動の現状では特にそうだと思います。かつてのように労働運動が生き生きとどの職場にもある状況ではないし、職場では恐らく一人ひとりの活動家が孤立した状況の中で必死に頑張っていて、いろいろ訴えてもなかなか響かない状況の中で理解しづらいことだと思いますが、そこをこの本の中から繰り返しつかんでいってくれたら、これからの労働運動を変革していくことに役立つと思います。
今回の本で一番訴えたいことは、労働運動の変革の問題は、理屈や理論だけでは絶対語れないもので、生身の労働者が主体でやる運動だから、現実に労働者がこう闘った現実の歴史と経験の中からしか語れないと思う。動労千葉の闘いの歴史を述べるという形になっていますが、それは過去のことを述べているのではない。筆者全員がそういう観点で書いているところが、この本のいいところ、画期的なところだと思う。過去のことを述べているような形だが、今、労働運動に問われていることを訴えているということだけは、ぜひつかみとってもらいたい。もちろんこの本が全てではない。現実の社会の矛盾の中からしか運動は生まれないわけだから、そこを本当に見すえきることが大事だと思う。もっと新 しい労働運動の課題が生まれてくると思います。
この本は2年近く繰り返し議論を積み重ねて、初めはそれぞれの筆者がレジュメを作ることから始まって、議論し、原稿化して提起し、また議論して書き直し、やっている過程そのものが、自分自身、動労千葉の労働運動の中身が何だったのかを考え直すきっかけになって、すごくありがたかったです。自分自身がやってて、普段あまり深く考えなかったようなことも含めて考えて気がつくことがたくさんありました。8人の筆者の大変な努力の結晶として生まれています。繰り返し議論をしてきたことが結晶したと思いますので、そこをつかんでくれたらいいなと僕は思います。
※国際連帯はランク&ファイルを甦らせた
○司会 動労千葉以外の人が動労千葉の闘いを普遍化して書いた本は初めてかもしれないですね。
○田中 こういう形で本になったのは初めてかもしれませんね。国鉄闘争をこれからも継続していかなくてはいけないという運動の中から出きてきた本です。そこはすごく重要な本です。
○司会 闘いはこれからだと言うのは私たちだけですからね。
○山本 昨日(7月14日)、動労千葉を支援する会の運営委員会があって、みんなで議論した。私は50年くらい前に動労千葉と出会って、動労千葉を支援する会という形で関わってきた。そういう立場でこの本を読むと、支援する会の歴史そのものです。支援する会として動労千葉の運動を共に闘ってきた。特に2、3章を読むと、非常に感慨深く立体的に闘いの過程をつかむことができた。それを4章以降で現在につなげていくという読み方ができるのではないかと思います。支援する会は1987年4月11日、分割・民営化の直後に結成された。結成のきっかけになったのは、1億円ストライキ基金とジェット燃料貨車輸送阻止の闘いの支援基金、この二つを統一して支援基金運動として始まった。自分たちで運動を作っていくと いうよりも、動労千葉を守る運動として出発した。2章、3章というのは、そういう運動をしてきた人たちにとっては重みのある、しかももう一度自分の闘いの歴史をかみしめて、4章以降に進む準備段階のような感じで読めると思います。もう一度新たに出発しようという気持ちになれるように思います。 しかし国鉄闘争を知らない人たちには、別の面からアプローチしていかないと、ちょっと読むのは大変かなと感じました。
もう一つ、昨日論議になったのは、JR総連の第34回定期大会の委員長あいさつです。30年を振り返って「労使協力関係の土台を築いた30年」と言い、最後に「初代の住田社長が『御用組合は必要ない』と言ったことをこれからも貫き通していきます」と言っている。どういう意味かという話になった。JR総連の言う「御用」の意味は「一体化する」ということで、「闘う労働組合」というのは「協力していく労働組合」ということのようだ。分割・民営化以降30年、会社に必死で協力してきた、それをさらに会社と共に続けていくという宣言なのだ。そういう彼らの30年に対し、今回出された本は強烈なカウンターパンチに なる。筆者が全国を回って論議に参加していくことが大事だと思います。
○白井 他の運営委員の人は何か感想を出していましたか。
○山本 まだ読んでいる最中ですね。2、3章を読んでいる人が多い。委員長が言うように、今の闘いにそれをどうつなげて発展的にとらえ返していくかが重要だと思います。文科省と一体化、協力する方向性は、日教組指導部も同じ。そこをどう変革していくかをこの本から学びたいという意見も出ていました。
6章については、冒頭の書き出しに金先生が書いていますが、国鉄闘争が切り開いた国際連帯だと。当時は、「国際連帯って何だ?」という感じだったんです。しかしこの13、14年の歴史は、連帯関係が強まる中で、民営化攻撃の共通性を再確認していく過程でした。日本では民営化が大きな問題だけれど、海外でも全く同じだと。
○伊藤 それは感じますね。インターナショナルというでしょう。マルクスの時代にはヨーロッパ規模のことで、それはそれでわかりやすかったはずだ。今は地球大で考えなければならないが、それがわかりやすくなっている。日本でやっていることは韓国でもやっている、そういう実感というものを一つの運動としてとらえた。それが6章の非常に重要なところだと思います。インターナショナルというのは、われわれの育った頃、50~60年前はそういう意味での実感がなかった。今は実感があるということではないでしょうか。
○山本 JR総連は大会に、韓国、ミャンマー、ハンガリー、ニュージーランドなどから来賓が呼ばれ、委員長の「労使協力関係の土台を築きあげてきた会社経営陣の皆様に感謝申し上げます」に始まるあいさつを聞かされている。来賓たちは、どういう顔をして聞いていたのでしょうか。
○田中 JR総連は、組織の維持をしなくてはいけないから、とにかく今回は根こそぎ呼んで見せる形にしたというだけです。これ自身に発展性はないですよね。
○山本 動労千葉の切り開いた国際連帯とはまったく違う。表敬訪問という形にすぎない。動労千葉の組合員は、言葉がなかなか通じなくても、民主労総の労働者と電話でいつ、どこに行くという会話をしているんだからね。動労千葉は、こういう国際連帯を築いてきたということです。
○伊藤 この本でランク&ファイルという言葉が6章に出てくる。動労千葉の運動は、ランク&ファイルの運動でしたからね。だからランク&ファイルということを国鉄闘争の国際連帯は甦らせたと思います。その連帯のスタイルが新しく作られたと思います。
○山本 ランク&ファイルというのはどういう意味かと辞書を引いたら、「兵卒」と言う軍隊用語だった。闘い(運動)は兵士がつくる、一兵卒がつくる。そういう趣旨だということがわかった。
○田中 動労千葉自身が、この国際連帯が始まって、動労千葉の運動はこれほど世界の仲間たちが受け入れてくれる、信頼してくれるということが確信になった。本当にありがたかった。どれだけ力になったか、言葉では言い尽くせない。
○伊藤 歴史上、実際に日本の運動が世界の中で評価された例が少ない。あそこではいろんなことをやっているぞということはあっても、本質的な運動、向こうの運動にとって研究する価値がある運動として日本の運動が位置づけられたことはおおよそないと思います。だから動労千葉の国際連帯の関係はとても大事なので、動労千葉はそういう運動をやってきたのだと思います。
○田中 私たちとしては当たり前だと思ってやってきた運動がこれほど評価されるのかということを通して、やっぱり必ずしも昔から当たり前とされてきた運動をやってきただけではなくて、新しいことを切り開いてきたのだということを再確認させられる面があった。民営化反対闘争もそうです。逆に、外注化反対闘争は、僕らがずっと訴えていたら、日本とはちょっと遅れて韓国で始まって、今、韓国で外注化が問題になっている。そういう点で言うと、いろんな意味で経験だとか、教訓だとか、影響を、僕らがやった闘いや訴えたことが与えていることを実感として感じます。そういう意味では、これが国際連帯の本当の姿だと感じます。
○伊藤 逆に、例えば国際連帯の中で知ったアメリカの運動から学ぶことはたくさんあると思います。互いに学び合っていくことが大事だと思います。
※反合理化・運転保安闘争
○田中 伊藤さんの書いた反合理化闘争については、戦後労働運動の中でもいろんな論争とか主張とか、いろんな勢力が喧々囂々(けんけんごうごう)論議してきたけれど、恐らくこういう形で反合理化闘争の総括と展望を提起したのは初めてだと思います。
○伊藤 いわゆる理論としてはいろんな議論がありますが、一つの運動の総括として合理化問題を考えるというのはめずらしいかもしれない。僕の1章の3節は意識的に書いたのです。運転保安闘争ということの歴史的な本質的意義を、これまでずっと経験してきた反合理化論争の中ではっきりさせておかないと、運転保安闘争の意味が埋没してしまうという気持ちが僕にはありました。だから本来ならば1章の歴史的経過の中では、ちょっと異質なことかもしれませんが、これを書いておこうと思ってました。
○田中 動労千葉の闘いの特質のひとつ、動労千葉がここまで団結を守り抜いてきた土台をつくったのは、反合・運転保安闘争なんだけれど、それがどういう意味を持ったのかというのは、動労千葉自身で訴えきれていなかった。中野顧問は、「ここに動労千葉の核心がある」と繰り返し言っていた。「反合・運転保安闘争を作ったことが、これまでの労働運動と動労千葉の労働運動の全くの違いだ」と。
○伊藤 だから僕は「どうだ中野さん、これはこんなことじゃないのか」と亡き中野さんと問答しながら書いた、というような気分です。
○司会 「安全は思想であり哲学だ」という中身を具体的に伊藤さんが書いてくれたと私は思いました。「合理化とは何か」を分析した3節はすごく意味があると思いました。
○伊藤 僕が1章を書いて感ずるのは、今、動労千葉はどんな運動をやっても、現存の運動やメディアの中では意識的に無視されるわけです。この本も他の潮流に読ませるのはなかなか大変ですよね。動労千葉を孤立させることが、分割・民営化の大きな結果になっていますね。動労千葉の言っていることが運動の中で跳ね返っていろいろ反響を呼び起こす時代、80年代まではそういう面があっただろう。それ以降の時代はずいぶん違うという気がします。われわれとしては、外注化反対闘争をはじめとして、日本ではどこもやってないことをやっているわけだから、そこで出てくる問題がいちいち議論される、反響を呼び起こしていいはずだけれど、全然議論にならない。そこをどううち破るかということですね。
○田中 曲がりなりにも労働運動が全国の津々浦々のどの職場でも生きていた時代の中での運動と、地盤沈下してしまって息も絶え絶えの状況の中で闘わざるを得ない運動は全然違う。僕らの年代でよく話になるのですが、「中野顧問の時代は、大変なこともあったけれど、よかったよ。労働運動が胸張っていい時代を経験しているじゃない」と。この本の目的は、そういう現状をひっくり返すきっかけをつかんでほしいと思って書いているわけで、それがすべてだと言ってもいいくらいなんです。すぐにはひっくり返らないとしても、そういうきっかけが動労千葉の運動の中にあると思うのです。
※労働組合の重大な転換ー新自由主義下の労働運動に何が求められているのか
○伊藤 かつては動労千葉の言っていることを考える水準がともかくもあったわけです。今度、連合の会長が安倍と会って「残業代ゼロ法案」を容認したでしょう。いろんなところから疑問が出ていますが、それが運動全体として一つの雰囲気にならない。かつてはおかしなことがあると、それはおかしいということがあちこちから出てくる。そこの違いがある。だからわれわれとしてはおかしいじゃないかという、その小さな点としてある疑問をどうやって運動としてつくるかという課題があると思います。この本を読んだから必ずそうなるとは言えないけれど、何か力になればという気持ちがあります。
○田中 今、伊藤さんが言われた連合の話も、新聞で読むかぎりの話ですが、連合がおかしくなっていると同時に、違う次元で動いている。新聞ですら、神津という会長も直前までこんな話になっているということを知らなかったと書いている。
○伊藤 神津会長自身もこんなものおかしいと俺は思っているんだと言いながらやっている。
○田中 だけどそういう流れになっているから、しかたがないとやってしまう。だから重大なことが起きているのかなと思います。UAゼンセンの逢見会長と総合労働局長と、あとごく数人だけで、政府、財界と折衝を続けていて、まったく連合の中にも明らかになっていなかったという。その逢見が今度会長になる。だから僕は、この問題は、連合が公然と憲法改正の推進の旗を振ることとワンセットで間違いなく動いていると思うんです。そうでなかったら2020年新憲法施行なんて打ち出せないと思う。だからそうしたことがどういう影響を労働者全体とか労働運動全体にもたらすのかを真剣に考えなくてはいけないと思う。こういうことが出てきた時に、旧総評系の自治労とか日教組とか、こういう人たちがそれに対して抵抗する力になり得るかと考えたら、本部段階では恐らく力にはなり得ない。だけど地方とか、支部とか、分会にいったらそうではない要素が一杯あると思う。だからそういう意味では、本当にそういうところとつながって、労働運動の変革や再生について議論をし、そういうものをつくっていくことをしなくてはいけない時に恐らく来ていると思います。そういう意味では、憲法改悪を含めて、戦争反対は戦後労働運動の最大の課題であったことは間違いないわけです。それは国鉄分割・民営化以降は揺らいでしまって、最大の課題にはならなくなっているのかもしれませんが、そういう歴史の中で労働運動が生きてきたことは間違いない。そこに全部手を着けるとなってきている時に、もう一度労働運動が勝負をしなくてはいけない時に来ていると僕は明確に思います。
もう一つは、民営化や規制緩和という新自由主義の流れが社会をめちゃくちゃにしているところも重大な課題です。そういう状況の中で、この本が出ているということもみんなに自覚してもらって、動労千葉がやってきたことは小さな経験かもわからないけれども、考えてくれたらうれしいなと思っています。いい時期に本が出せたなと思います。
○伊藤 館山でやっている運動は、ひとつの問題を考える糸口になるのではないか。
○田中 館山の話が出ましたが、地域の問題に関心をもって労働運動が組織するということが社会の崩壊の中で絶対に大事なことだと思います。僕らがやっている地域での運動は、資本との対決が困難だから地域を組織するという運動が結構あってね、それと真逆のものです。資本と非和解的に対決するために地域を組織する関係。こういうのはめずらしい。そうなった時に地域も生きていくし、うちの組合員も本当に団結を強化する。相乗効果になるんだと学んだ。恐らく動労千葉だからできているんだろうという感じで、まったく理解されていないですよね。そういうものがきちんと組織されれば一つの新しい労働運動の形が生まれると思います。
※労働者には闘う力がある
○司会 非正規や民営化はおかしいと思っているが闘っても勝てないと思っている人たちに、闘って勝てる本が出たことは展望を与えるものになると思います。
○伊藤 その辺のことはあると思います。昔からよく言われるのだけれど、「動労千葉のようにやろう」という言葉はあった。だけどそうならない。どうしてかと言うと、動労千葉の場合には、自分の置かれた労使関係なり、いろんな状況をよく研究して自分たちの状況をランク&ファイルの立場からよく研究して、その上で出てくる方針でしょう。それぞれの運動がもう少し自分たちの運動の状況がどうであり、そこからどんな可能性がどこにあるかをもっと自分で研究することが大事です。動労千葉がやったことをただ真似しても仕方ない。状況が違うのだから。歴史に学ぶというのはそういうことだと思う。動労千葉は闘って勝ったのだから、このようにやれば大丈夫だということで、気持ちだけ高揚するというだけではちょっとダメだという感じは僕はします。もちろんそういう勇気を与えることはできると思いますけれどもね。
○山本 さっき伊藤さんが孤立という言い方をされました。2波のストライキを闘って1047名闘争を作り出し、闘う闘争団という団結形態になってずっと闘ってきて、2010年に「4・9和解」という大変な事態を迎えた。しかし、「国鉄闘争をこんな形で終わらせていいのか!」の地鳴りのような声が国鉄闘争全国運動に結集して真実を暴きだし、不当労働行為を確定させた。そして、この画期的闘いの前進が、まさに外注化、分社化、非正規職化攻撃の全社会化の時代と重なりました。物販も署名もお願いではダメではないかという議論になっている。今の自分の職場はどうなっているのかを知り尽くし、物販・署名を職場の実態にいかにかみあわせるかという主体的運動の形成に取り組もうということです。
○伊藤 署名は第一の段階で、署名に応じた人びとにはまだ受動的なものがありますね。そこのところをどう乗り越えるかという課題はあります。そこから一つの運動のきっかけを作るというのは、どこでもうまくいくというものではない。一つ、二つ、三つと例ができてくるといいですね。新潟などが何をやっているか、まだ外に対して詳しく知らされていない。月刊労働運動もがんばってほしいが、実際に組織した経験を詳しく掲載するといいね。いろんな経験を研究し合うことが大事だと思います。われわれの強みは、伝統的運動の頭株は全部どこかに吹っ飛んでしまって、ランク&ファイルしか残っていないということです。これがむしろ強みです。それを運動論として考えようとしている本だということです。
○田中 現場の活動家でもなんでもない一労働者がここまで頑張れる力を持っていることを証明したのが動労千葉の運動なわけで、それ抜きには何を高尚なことを言っても始まらないので、中野顧問がいつも「団結さえ崩さなければいいんだ」と言っていたことで、そういうことがここまでできるんだということに確信を持ってもらいたい。
特に国鉄分割・民営化過程は、まだ労働運動が残っていて、高揚期と切り崩されていく過程の両面が運動の中には常にあるわけですが、一定の労働運動が力を持って高揚していく過程で、新しいことを始められたのは幸運だったと思います。ただ、国鉄分割・民営化の後の過程は、さっき伊藤さんも言われましたが、孤立無援の中で必死になって努力している過程だった。外注化反対闘争とか、1047名解雇撤回闘争は、ここは結構ストレートに今の問題とつながっていく面があると思うので、表面だけ見ないで、なぜこういう決断ができたのか、なぜこういう道を選んだのか、なぜ動労千葉が団結して前に進めたのか、ということを深く考えてもらえたらありがたいなという感じはします。それでこんな小さな外注化阻止闘争ですが、JR全体の外注化攻撃を結構ガタガタに揺さぶったことだけは間違いないです。それは敵のやろうとした攻撃があまりにも乱暴すぎて、矛盾だらけということで、実は日本中、世界中がそうなっているわけです。だから小さな闘いでも大きな影響力を持つ可能性はあるわけで、だから自分の職場にそういう労働者の揺るがない確信や団結をつくりだしていく必死の努力は、ものすごく大きな意味を持つということを動労千葉の経験の中から考えてもらえると嬉しいと思います。
○伊藤 今必要なことは、下から自分たちで、どうやって行動を起こすのか、その形をつくりだす、その段階だと思います。だからランク&ファイルの時代なんですよ。だけどそのための形は何かというと、それは職場で自分が小さなところから話をしたり、そういうところから始めるしかない。非常に小さなことを軽視しない。動労千葉の場合も職場での議論は、一つひとつは大所高所からの議論ということではないでしょう。特に外注化過程というのは、職場から出てきた発想が非常に大きな役割を果たした。
○田中 本当にそうですね。
○司会 動労千葉は、徹底的に組合員と論議する、一人ひとりの組合員が自分の闘いだと思うところまで徹底的に論議する。動労千葉の反合・運転保安闘争はすごいと思います。
○田中 その時々によって違うけれど、船橋事故闘争の時は、「これで行くぞ」と決断したら、現場はダーッと闘争に入っていく。それ自身が「そうなのか、これでいいんだ」と執行部が気づかされて路線になっていくことがあった。困難な時は、例えば外注化には執行部は徹底的に反対してやろうと思った。でも執行部だけで方針が出てくるわけではなくて、現場が動かなかったら建前だけの反対にしかならない。とにかく現場がどうなのか、毎日職場に行って始めるしかないわけですよ。よし、これでいけるぞと思った時に、それが一定の確信を強めた方針になるわけであって、分離・独立の時も、現場の組合員が「もうこんな組合はぬけちゃおう」と、それを執行部が必死になっ て抑えるという、「そうじゃないんだ。この組合自身を変えなくてはいけないんだ」と。そういう論議の過程が何年も続いて、それでいよいよジェット燃料の時にそれが爆発したわけで、だからそっちの方が当たり前だと思います。執行部の方に始めから方針なんかあるはずないじゃないですか。一つひとつ起きてくることに始めから方針なんかあるはずがない。一定の思想や意志はあるけれど、しかし意志は運動ではないわけだから、運動の方針や路線は始めからあるはずもないわけです。だから現場がその気になった時に、初めて路線になり、方針になるわけです。そこをむしろ、それまでの労働運動が逆転させていたと考えるといいと思うんです。逆転させているという発想は、われわれの中にも根強くある 。これ自身が労働運動の歴史だったから。正しい方針だからついてきて当たり前なんだという、そういうふうに物事を発想してしまうあり方では、労働運動は組織できない。自分なんか議論の過程で改めてそう思った。
○伊藤 4章はそういう点を頭において書いている。
○田中 反対するからちゃんとやろうと言って、現場がそれに応えてやる力があるかどうは、本当に決定的なんですよね。始めから全体でなくても、現場の何人かが「よし」と言って鬼のようになって組織する力がね。
○白井 闘ってきた歴史がある。現場がついてこない。結構議論になる。今の提起は結構むずかしい面があると思います。みんながもがき苦しんでいる。大きな組合の中でもある。
○伊藤 そんなことを言ったって労働者はついて来ない、という議論だね。
○田中 だいたいそういうふうに言う場合は、ちゃんと現場と真剣に議論したり、喧嘩したりしないままに、そう言っている面がある。動労千葉だって、現場がついてこなかったことだって、いろいろある。それは本部の方で軌道修正しなくてはいけない。この方針では現場がついてこない、方針がずれていた、間違っていたというふうに、常に修正しているわけです。本部の提起した観点が違っていたということはいくらでもある。そこは特に分割・民営化の後、本部が解雇者だけになって30年でしょう。現場は常に資本の攻撃の中にいるから変化するわけです。だからそういうことは不断にある。同じことを訴える時に、
本部がずれているというのは毎日のようにあって、それだって、支部が正しければ気がつかされる。だからどんどん修正していけばいいわけだよね。
○山本 2003年に川崎書記長と一緒にアメリカに行き、港湾労働者と交流した。ハリー・ブリジェス(ILWUの創設者)の言葉を聞き、ここまで労働者を信頼し、とことん現場に依拠するということなのかと思った。こう言っています。「ランク&ファイルは、騙(だま)されて周りが見えなくなることもない。脅かされて分裂させられることもない。結局、労働組合とはすべて労働者階級の勇気と確信の上に立った労働者の努力で成り立っているのである」。「ああ、そういうことなのか!」ということで帰ってきたら、動労千葉の組合員が「その通りだ!俺たちと同じだ」と言うわけです。向こうも「俺たちと似た組合だな!」と言う。一番核心的部分がそこだということを、私もつかむことができました。階級的労働運動の一番根っこにあるものは、そこ
ですよね。この点が、合同労組も含めて、一番苦労するところだし、そこをどうやって自分のものにしていけるか、喧々諤々(けんけんがくがく)論議をしながら身に着けていくということだと思います。この本が、そのバイブルになるといいよね。
○伊藤 今、山本さんが引用したところは、「労働者というのは、本能的に生理的に信用できるものだ」という意味ではないんだよね。今、田中さんが言ったような意味で、「必ず議論が成立する。その中で、運動が形をつくっていくために、幹部との議論が成り立ち得る」という確信のようなものを言っているんですよね。
○山本 この言葉の背景には、激しい論争があり、敢えて言えばぶん殴り合いさえある。そういうことの上で出てきている言葉だと思います。動労千葉と同じです。
○田中 御用組合から西海岸だけ分離独立したわけだからね。
※読者にむけて
○司会 重要な提起がされたと思います。その上で、この本をどう活用してほしいか、学習会をやってほしいとか、全国に行きますとかも含めて、こういうふうに活用してほしいというのがあったら言っていただきたいと思います。
○伊藤 実際問題として、この本を現場労働者にいきなり通して読んでもらうのは大変な面もあるだろうと思うね。学習会はぜひやってほしいけれど、どんなふうにできるかな。
○白井 ぜんぶ読むのは大変だと思うけれど、国鉄闘争全国運動の会報には各章の紹介を書こうと思っています。1章ずつ読んでもおもしろいと思う。この章はこういう内容だと紹介するつもりです。
○山本 1章と7章を先に読むといいと思う。
○白井 僕は、1章、4章、7章をまず通しで読んでほしい。
○伊藤 4章がとっつきやすいと思う。
○白井 最初から国鉄闘争にかかわっている人ばかりではなく、多くの人は途中からかかわてっているわけですから、2、3章を読めば、いろんなことが分かると思う。
○伊藤 3章は結構勉強になった。これまでいろんな聞いていることを整理し直すことができた。よくまとめたなと思います。2章もそうです。
○白井 3章では、動労千葉を含めてすごい陣形(1047連絡会)ができて、それが突如壊れて、その後「4・9政治和解」になった。このあたりのプロセスを把握しきれていない人もいると思います。3章も1回読んだだけではよくわからないかもしれない。だけど国家権力の側がどれほどのエネルギーをつかって「4・9政治和解」まで持ち込んだのかを、唯一この本だけが明らかにしている。それは現時点まで闘い抜いている動労千葉と国鉄闘争全国運動にしか書けない。
3章を読んだ感想ですが、国鉄1047名解雇撤回闘争を解体するためにどれほど強烈な攻撃が加えられたのかに戦慄する思いと、なおかつそれを打ち破った動労千葉と国鉄闘争全国運動の闘いはすごいなという思いです。国鉄闘争をめぐる攻防は壮大ですよ。大河ドラマにできる。「その時、歴史は動いた」という感じです。
○伊藤 政治の全力をあげて一つの労働組合をつぶそうとしたわけだから。それでも生き残ったわけだから、それに自信を持たなければならない。
○田中 30年かかってつぶせなかったというのは、今までに例がないことですよね。
○伊藤 そのことを総括しないとね。国労の周辺から出る本をみると、言い訳ばかりですよね。
○田中 ここまで来たんだから成果だとしか言っていない。大きな意味で、国鉄分割・民営化攻撃というのは、抗し難かったとしか言っていない。
○伊藤 その点、この本の5章は、懸命にやったらこんなこともできるんだ、ということを書いている。4、5章は、いま進行中のことを書いているわけだから、むしろ読者がどんな補足をしてくれるかが楽しみですね。
○司会 今日はどうもありがとうございました。
(敬称略)
『国鉄分割・民営化と闘って30年 労働運動の変革をめざして』
2017年6月30日発行 定価:1800円+税/編者:
国鉄分割・民営化に反対し、1047名解雇撤回闘争を支援する全国運動(国鉄闘争全国運動 〒260-0017 千葉市中央区要町2-8DC会館内)
発行: 出版最前線/ 発売: 星雲社/ (動労千葉でも扱っています)