労働組合運動の基礎知識 第52回変形労働時間制のあれこれ

2019年7月31日

月刊『労働運動』34頁(0347号15/01)(2019/02/01)

労働組合運動の基礎知識 第52回
変形労働時間制のあれこれ



 国鉄分割・民営化攻撃と一体で1987年の労基法改悪で「変形労働時間制」が導入された。1か月単位、1年単位、1週間単位の変形労働時間制とフレックスタイム制である。これらについては何回か書いてきたが、繰り返しこの問題に言及する必要があると考える。これは8時間労働制の解体攻撃の中心軸であり、様々な美辞麗句、手を変え品を変えてかけられる現在進行形の攻撃だからである。
 JR東が、コアタイムなしのフレックスタイム制を導入するという。小池百合子都知事は、「満員電車ゼロ」を公約に掲げて都知事になった。今、「2020年東京オリンピックの成功のために」と称して、「働き方改革」の一環として「時差Biz」を奨励し、「平成30年度時差Biz推進賞」に「株式会社JR東日本マネイジメントサービス」を選んだ。受賞理由の核心は、「73%を超える社員が時差出勤&フレックス制度に取り組み、7月、8月には前年比で残業時間1246時間、総労働時間262時間の削減となった」という点である。「さわやかな朝のイメージで早朝出勤を」「冬は決算時期で全社的に忙しくなる上、風邪なども流行る季節です。空いた電車で快適に通勤して体力を消耗しないようにしましょう」というのがうたい文句であり、キャッチフレーズは「朝が変われば毎日が変わる」である。
 東京都は、2017年7月11~14日の期間「時差Biz」を行い、約320社が参加し、2018年は7月9日~8月10日と期間を延長し1000社の参加をめざし、冬も実施している。
 この「時差Biz」の起源は戦時中である。1944年4月に軍需輸送優先のために時差通勤が奨励され、戦後は1961年の「時差通勤通学対策」のために東京で導入された。
 しかし、それが定着することはなかった。団結破壊、協働労働解体につながるために仕事もうまくいかないからである。
 就業規則では、例えば朝8時始業、17時終業と「始業・終業」時刻を定めることが原則となっている。これを会社の都合で、「明日は荷主の時間指定が9時なので5時に出勤してください。その代わり14時に退社してもいいですよ」と言われる。「拘束時間は同じ9時間で、1時間休んで8時間労働だから問題はない」と会社は言うかもしれない。しかし、こういう場合は3時間の早出割増がついて、17時まで車両を洗ったりして時間をつぶして帰るのが一般的だった。3時間の早朝割増がついて仕事がない場合は早く帰ることも可能だった。これが始業・終業時間の定めをしていることによる時間外労働の割増し手当の普通の適用方法である。
 「朝が変われば毎日が変わる」の美辞麗句の下で、残業時間を減らすやり方はこういう手法に基づくものだ。これをフレックスタイム制を導入して、それを自らに課す手口が「働き方改革」なのだ。毎日、時間をずらして出勤するのは大変なことだ。特に子どもを保育園にあずける場合は全く不可能なことだ。
 小池の「時差Biz」はこれを企業が奨励し、労働者が自主的にそれを行うかのように装い、実行させようとするのである。

小泉義秀(東京労働組合交流センター事務局長)