労働組合運動の基礎知識 第55回 IT業界に蔓延する偽装請負許すな

2019年7月31日

月刊『労働運動』34頁(0350号11/01)(2019/05/01)

労働組合運動の基礎知識 第55回
IT業界に蔓延する偽装請負許すな!



 国鉄分割・民営化攻撃と一体で1985年に労働者派遣法が成立し、86年に施行された。この派遣法は戦後原則禁止されてきた労働者供給事業を合法化したものだ。1966年に米国の人材派遣会社の子会社が日本に設立された。その後、この形態の人材派遣会社が蔓延することになる。政府はこれを取り締まるのではなく、違法を追認する形で派遣法が成立した。現在、IT業界に広がる偽装請負も、同様の動きを見せている。
 IT業界では、ごく一般的に客先常駐という勤務形態が行われている。客先常駐とは、簡単に言えば、自分が所属した会社ではなく、別の企業に派遣されて働く勤務形態になる。普通は会社に就職が決まれば、その会社内の部署に配属され業務を行う。しかし、客先常駐の場合、就職した会社から他の会社に派遣され、その派遣先の会社に通うことで業務を行うようになる。客先常駐はあくまで「会社が社員を派遣している」状態なので、雇用関係はもともとの会社である。
 客先常駐には、特定派遣、業務請負、偽装請負という3種類の契約方法がある。特定派遣とは、国に届出を出した会社が行える派遣方法の一種で、会社から社員を他の企業に派遣し、業務を行わせるという形態だ。特定派遣では、派遣された社員は、派遣先の企業からの指示を仰いでシステム開発などの業務に携わる。業務請負は、基本的に受注した製品を開発、納品するという意味だが、IT業界ではデータの持ち出しが困難であったり、セキュリティーに問題がある場合、自社に持ち帰って開発することができないというケースがある。その場合、実際に商品を発注した会社に出向いて、その会社で成果物を作成するという形式が取られる。
 業務請負で客先常駐に赴いた場合、基本的に自社の指示を優先して業務を行う。特定派遣では、社員に指示をするのは派遣先の企業であるが、業務請負では派遣先の企業は社員に指示をすることができない。もし何か修正や開発の指示がある場合は、一度派遣元の会社を通して指示を行わなければならない。
 違法な偽装請負は、契約上は業務請負として客先常駐を行っているにもかかわらず、実際の業務内容は、派遣先の社員の指示に基づいて作業を行う形になる。本来、派遣先の社員の指示で業務を行う客先常駐は、派遣事業の申請を行っている企業しか受けることができない。しかし、偽装請負をすることで、届出を行わなくても社員を派遣することができるようになってしまう。
 IT業界での客先常駐では、年齢に応じて常駐単価がアップしていく。そのため、常駐先も単価が高い30代後半のエンジニアよりも、単価が安い若手を求める。客先常駐の多くでは、高い技術を持っているベテランではなく、自分の会社で社員を雇うまでもない下流工程を受け持ってくれる扱いやすい人材を求めて使い捨てにするのである。青年労働者が、今こういう形態で働かされている。
 小泉義秀(東京労働組合交流センター事務局長)