理論なくして闘いなし 闘いなくして理論なし 第25回「働き方改革とは何か」(前半)

2019年10月25日

理論なくして闘いなし 闘いなくして理論なし 第25回
「働き方改革とは何か」(前半)

「働き方改革とは何か」(前半)

山本 志都(弁護士)

6月15日の動労千葉労働学校で山本志都弁護士が講演した「働き方改革とは何か」を2回に分けて、編集して掲載します。 (資料は文末に掲載)

「働き方改革」という言葉を冠した「働き方改革関連法」が成立し、ここ2年ほどマスコミでも「働き方改革」という言葉が多用されてきました。しかし、いったいなぜこのような言葉が使われているのか、何が狙われているのかについては、一般的な報道だけからではなかなか伝わらないように思います。

現在進行中の「雇用規制破壊」

安倍が打ち出したアベノミクスの「三本の矢」、この言葉は最近は使われなくなりましたが、その「成長戦略」なるものの狙いのもっとも最大なものが「雇用規制」破壊です。
「日本一億総活躍」という、これまたいやな言葉が使われている「日本一億総活躍プランについて」というものの中で、「日本をこれからどうしていくのか」という目標が、美辞麗句を用いて書かれています。子育て支援、社会保障問題、強い経済が謳われて、もっとも重要なものとして位置づけられているのが、「働き方改革実行計画について」です。
「働き方改革実行計画」。本日は、項目1~4まで触れることにしますが、実はまだあります。5は障害者就労の推進、6は外国人材の受け入れ、7は女性の活躍しやすい環境整備、8は雇用吸収力の高い産業への転職・再就職支援・人材育成(「雇用吸収力」というのも奇妙な言葉ですが、端的にいえば人気のない産業分野ということ)、9は高齢者の就労促進(これは「年金が払えないから死ぬまで働け」ということ)。これら全体をみると、「働き方改革」は日本の在り方そのものに関わるものだということが分かります。
高齢者に死ぬまで働けということですが、最近、「老後資金には2000万円必要」という諮問機関の報告書が受け取り拒否されるという茶番がありましたね。年金の未来も全くみえません。怒っている方、多いですね。あれだって、「年金は7・8万円がもらえる」といわれていますが、平均すると5・5万円、厚生年金に入っていなかった人は月額5万円しかもらえない。年金だけでは暮らしていけないというのは、報告書が出ようが出まいが、厳然たる事実。だから高齢者はどんどん働けということです。言われなくても働かなければ死んでしまうわけですが。

「働き方改革」にみる雇用規制破壊の狙い

「働き方改革関連法」は8つの法律からできていましたが、昨年の「働き方改革国会」で全部通り、すでに全部成立しています。重要なのは、それで終わったわけではないということです。昨年、働き方改革関連法と一緒に、外国人材受け入れ(労働者としてではなく物として受け入れる法案)が通りました。 まず、働き方改革関連法を通して、外国人材の受け入れをやって、さらにどんどん動いてきました。今はまだ法案という形にはなっていませんが、最終的にはどんどん解雇ができる、雇用を守る規制がない社会をめざすというところに向けて、スケジュールを立てて、さまざまな審議会で話が動いています。
「働き方改革」では、去年一番言われていたのは「長時間労働の是正」です。後で詳しくみますが、これは、労働時間規制が破壊されたということです。
もう一つは、「同一労働同一賃金」。これは非常に聞こえのいい言葉なので、「働き方改革関連法」を通すときにとてもよく使われた言葉だと思います。しかしこれも「評価制度による格差を容認して固定化していく」狙いがありました。この二つは「働き方改革関連法」で通ってしまった部分です。
そして「労働者性のはく奪」。これが今中心的な課題になっていて、近くこれにむけた法案が出てくると思います。
そして最後のゴール地点、それが「好きな時に解雇できる」という「金銭救済制度」です。言葉の使い方が本当に汚いですね。
先ほど言い忘れましたが、公務員の世界では「非正規」が非常に増えていることはご存知だと思います。来年4月からは「会計年度任用職員」が導入されることになっています。すでに法律は通ってしまっていますが、これも大問題です。「同一労働同一賃金」に引き寄せる形で、「『手当』を出すことができるよ」と宣伝されて、ほとんど議論もされないまま国会を通ってしまいました。
「働き方改革国会」は終わりましたが、まだ「働き方」に対する攻撃は終わっていません。その全体像を私たちは見ていかなくてはいけません。何が目指されているのかはとても大きな問題なのです。

敵にとって最重要の課題であった雇用規制破壊

安倍は、アベノミクスの3本の矢は、①大胆な金融政策 ②機動的な財政政策 ③成長戦略と説明していました。「成長戦略」は「世界で一番企業が活動しやすい社会」の実現です。
2014年1月に開かれた世界経済フォーラム年次総会=ダボス会議で、安倍は、「既得権益の岩盤を打ち破るドリルの刃になる」と言いました。「いろんな規制があるから企業が活動できない。そのような岩盤を打ち壊すために自分自身がドリルの刃になって突っ込んでいくんだ」と述べたわけです。
そして、「既得権益の岩盤のもっとも固いものがが雇用規制である」と権力者は位置づけています。実際には日本の解雇に対する規制はそれほど厳しいわけではありません。強固な産別組合があるわけではありませんし、争わないで解雇されたり、自主退職を余儀なくされている方が多い。だけど、よく「日本では解雇することが難しい」と言われる。解雇できないから、労働力が流動化しない。人手が必要な分野に人がいかないのはそのせいだ。それが本音です。
雇用規制破壊は一度にはできません。少しずつ規制を破壊していきます。このようなやり口は、労働分野ではとても多いのです。
例えば派遣法。最初は一定の13業務だけに認めると言って、限定して施行した。強い反対運動もあったけれど、いったん通ったらどんどん悪くしていって、原則派遣がすべての業務に適用できるが一定の制約をつけるように逆転してしまった。「小さく生んで大きく育てる」というやり口ですね。
どうしてかと言うと、労働法制は、多くの人たちの利害に関係します。例えば刑事法制とかは自分の問題と感じない人が多いですが、労働法制は一つできれば何千万とかの労働者に関係するわけだから、そこは組合など大きな組織を黙らせないとうまくことが進まないわけです。だからだまし討ちのようなやり方で法律を作る。変えたい側からすれば、長い目で見て、「まずここから変えていこう、次はここをやって、次はここをやろう」とスケジュールを立てて、それに従って動いている。だから労働者側もその狙いをきちんと見ていかないと立ち遅れてしまったり、本質がつかめなかったりしてしまうと思います。
今、官民問わず非正規労働者が4~5割と大変な数になっています。そうだとすると、正規雇用に対する規制だけでは足りない。非正規から正規までの包括的な構想が必要です。そしてこれまでの雇用改革、労働法制を少し変えていくのとは違う、異次元の広い範囲を対象にしている法改悪が行われいる。
宣伝も「洗練」されてきています。耳当りのよい言葉を使って人をごまかすということをやるわけです。例えば、「一億総活躍」、「働き方改革」、「人づくり革命」、「女性が輝く」、「人生100年時代」とか、無意味な空疎な言葉です。
例えば「働き方改革」というのは、私たち労働者が働き方を変えるということではなく、「働かせ方改革」なわけですけれども、そういう本質をごまかすような言葉の使い方をして宣伝がされる。ごまかされないようにしようということが、訴えたいことの一つです。
「同一労働同一賃金」といわれれば、それは確かにそうだよねと誰でも思うでしょう。同じ仕事をしているのに隣の人と同じ待遇を受けられない、同じ給料をもらえない、格差が3倍くらいあるのはおかしい、と思うのは当然です。そういう人の心にフックをかける、引っ掛けるような言葉の使い方です。「少しでも今のひどい状態がよくなるのではないか」と思わせておいて、もっとひどいことを打ち出してくるという、言葉が悪用されています。

「働き方改革」が打ち出された経過

2016年8月、「働き方改革推進大臣」が作られました。翌月には働き方改革実現会議の第一回会議がもたれました。そしてその後、ものすごいハイペースで会議が進められて、翌年の3月には「働き方改革実行計画」が作られました。
資料1を見て下さい。本当に悪い面々です。議長は安倍です。議長代理が加藤担当大臣、塩崎厚労大臣、麻生とか石川、松野など、重要な官僚と言われている人たちがみんな入っている。有識者も労働分野の学者は水町さんのみ。そのほか、日本経済団体連合会の榊原など経営側出身者。
安倍は最初の会議で、「働き方改革は、第三の矢、構造改革の柱となる改革」と重要性を強調し、「人々のワーク・ライフ・バランスにとっても、あるいは生産性にとってもいいと思いながらできなかったことを今回やっている」と言いました。そして、「働き方改革こそが、労働生産性を改善するための最良の手段なんだ」「経済問題だ」とも言いました。
この会議での「実行計画」に従って働き方改革関連法案は作られました。
資料2を見て下さい。ここでは、言葉としては「改革」とか言っていますが、しかし元になっているデータ自体が改竄だらけだったということがわかってくるわけです。データの改竄や捏造はこれまで多数明らかになってきましたね。
過労死や過労自死の問題、非正規と正規のとんでもない格差というのが現実にある。現実のどうしようもない状態を逆手にとって、改革を進めるというわけです。
経過の中で、連合の動きは大変問題になりました。資料3は、2018年6月9日の東京新聞に掲載されたものです。連合東京が、「働き方改革」法案は問題が一杯あるのではないかということが議論されていた時期に「働く者のための働き方改革を早期に実現しよう」として出した広告です。「労使は最良のパートナーです。企業の発展と成長は健全な労使関係から」と書いてあります。つまり「労使が協力しあって働き方改革法案を実現していこう」ということを言うわけです。ナショナルセンターと言われているところが推進する側に回っているところが、働き方改革の議論が煮詰まらなかった大きな原因の一つだと思います。

「長時間労働の是正」に名を借りた労働時間規制の破壊

政府側は「長時間労働が是正される」と言ったのに対して、「残業代ゼロ法案だ」と批判してきましたが、これは残業代がなくなってしまうところが問題なのではなくて、「1日8時間の労働規制があるわけですが、それが原則ではなくなってしまう」というところが最大の問題だったと、私は思っています。

1 時間外労働時間の上限規制=長時間労働合法化、過労死容認

もともと労働法の原則は、1週40時間、1日8時間、1週1回の休日です。
しかし、現実には、会社と組合が36協定を結んで、実際には残業時間の上限に関する法規制がなく青天井になっているところが問題だったわけです。一応、厚労省の告示というのがあって、原則月45時間、年360時間、特別条項の場合にはそれをもっと増やすことができるということになっていました。だけどこういう制限は、法律上は定められていなかったのです。
あくまでも「1日8時間」が原則だからです。それに対して、法律で定められていないから長時間労働になってしまうのだという説明がされて、成立した法律では、原則で月45時間、年360時間を上限にしようということが決められました。つまり厚労省の告示に決まっていたことを法律に持ってきただけなのです。特例としては、年720時間以内(休日労働は含まず)、月数上限は6カ月、 単月では100時間未満まで認められると言っています。
1月100時間の残業というのは、20日労働日であれば毎日5時間残業です。8時間働いた上で5時間残業なので、1日13時間働いて20日間。自分を取り戻す時間がなくなってしまいますよね。健康が破壊される時間です。
過労死基準というのがあるのですが、脳出血や心臓病のような過労が影響して発症することがあり得る病気について、直前の1カ月間におおむね100時間超えていれば、それが原因で亡くなったならば、それは過労死と言っていいという基準です。または、2~6月で1カ月あたりおおむね80時間超えていて、脳出血や心臓病で亡くなったならば過労による死だと因果関係を認めていいという労基署の基準です。「労災ではないか」と相談があった場合には、その直前の労働時間が大きな問題になる。特例の場合の100時間というのは、この過労死基準を超えているということなのです。
だからこれは上限規制がかけられたと説明されていますが、今までの特例から法律に移しただけであるし、しかも「過労死基準」を超えるような時間を特例の場合とはいえ持ち出しているわけです。それを法律にして決めてしまったということになるわけです。今までは8時間が原則だということしか言っていなかったのに、「できますよ」とあえて言ってしまっていることになるわけです。
それから問題なのは、残業問題が深刻となる業種には手をつけていない。たとえば、新商品の研究開発、建設、運転、医師などの業界は5年後に再検討すればいいとなっている。これはオリンピックなどを理由にされています。一番過労死が出ている業界は、こういう業種です。その一番の問題には手をつけなかったのです。
先ほど言った特例は休日労働を含まないので、720時間以内と特例ではなっていますが、休日労働を入れると年間960時間まで残業が許されることになる。こういう問題点が様々あります。

2 高度プロフェッショナル制度 =残業代不払い、奴隷労働制

「管理監督者に対しては残業代を払わなくていい」ので、実際の事例では、管理監督者とは何かが問題になるわけです。銀行の支店長代理やファーストフード店(マクドナルド)の店長が残業代を払われていなかったということで争いましたが、管理監督者にはあたらないとされました。「経営者と一体化する程度まで権限がある場合には残業代を払わなくいい」というのが一つの基準です。
今回の法律は、「特定高度専門業務、成果型労働制」について残業代は払わなくていいということになりました。
現在、高度プロフェッショナル制度は管理職手前の年収1075万円超(厚労省令)から適用すると言われていますが、しかし、この制約はすぐに拡大されていくでしょう。
経団連はそもそも「年収400万円以上を対象にしたい」と言っていましたし、当時の塩崎厚労大臣も「小さく産んで大きく育てるので、みなさんぜひご理解下さい」と経営者が集まる朝食会で発言していることがスクープされました。今は、1000万円以上、そうすればそんなに反対されない。だけど政令ですから、今後は厚労省が適用範囲を広げようと思えば、国会にかけないで広げてしまうことができます。

3 裁量労働制の拡大=固定残業代の合法化

裁量労働制の拡大、これも狙われていたところです。これは実は、データの偽装問題ということがありましていったん先送りになりましたから、去年は通りませんでした。
データ偽装問題がありましたね。残業代についての調査をしたのだけれど全くデータがデタラメだった。一般労働者に対しては「あなたが今月一番長く働いた残業時間はどのくらいですか」と聞いて、その平均が1時間37分だったのです。だけど裁量労働者には、単なるいつもどのくらい働いていますかと聞いて、9時間16分だったのです。そうすると9時間16分ということは8時間から引くと1時間16分多いだけじゃないですか。だけど一般労働者の平均残業時間は1時間37分だったと言って、1時間37分と1時間16分を比べて、裁量労働で働いている人もそんなに長く働いていないとしたのです。比べようもないものを比べて裁量労働制には問題がないんだと説明していたわけです。そういうすごいごまかしをしたというお粗末です。
しかし、この導入はあきらめられたわけではありません。今は「専門業務型裁量労働制」というのと、「企画業務型裁量労働制」というのがあります。これは、それぞれ1988年と2000年に導入されたものです。しかし、現在は全労働者の1・5%ほど、仕組みを導入している企業も12%ほどにすぎません。そこに「実施管理評価業務」と「法人提案型業務」を加えるというのが提案だったのです。この「法人提案型業務」というのは、たとえばコピー機の営業をしている営業職なども全部あたってしまう可能性があるわけです。全国の営業職は342万人といわれています。しかも国会答弁では、「これは契約社員も含まれる」という説明がされています。
裁量労働制をみる際に、義務教育の公立学校の先生に対する扱いが参考になります。最近、教師の過労が話題になりますが、「小学校の先生の3割、中学校の先生の6割が過労死ライン以上の残業をしている」と言われています。過労死ライン以上の残業が半分以上というのは信じられないブラックぶりです。
そんなことになってしまった理由は、1971年に給特法という法律ができたからなのです。給特法というのは、「公立の義務教育諸学校の教育職員の給与等に関する特別措置法」という法律です。つまり公立の義務教育ですから、小中学校、養護学校を含みますが、「学校の先生の給与については特別に取り扱う」という法律です。「教職調整額」という調整金をつけて4%上乗せして、残業代は一切払わない。
そして、残業をするという仕組み自体がないので、建前上は残業の指示はできないことになっているのです。残業の指示がないということは、先生たちは何をしているのかということになります。「それは自発的な行為だ」と裁判例でも言われています。つまり勝手にやっているということになってしまう。だから勝手にやって、勝手に過労になって、勝手に死んだということになってしまうわけです。裁量労働制というのは、究極的にはそういうことになる。つまり自分勝手に自分で働いているのだから全部自己責任だということになってしまうわけです。残業代が払われないことも大問題ですが、働いている時間が管理されないということの問題性。すべてが自己責任、そして周りの人が働いているのに、自分が働かないということができにくい職場環境を作ることになってしまう。誰が何時間残業しているかということを、職場の責任者が把握する必要がないという仕組み。実は先生方の残業代を計算すると、年間9000億円くらいになるのではないかと言われています。裁量労働制が広がると、こういう問題が出てくることになるわけです。
(次号に続く)

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資料 「働き方改革実行計画」の3

資料 1

 

資料 2

 

資料3 2018年6月9日東京新聞の連合東京広告