JRにおける決戦を闘う動労千葉

片峯 潤一(動労総連合書記)

JRで開始されている攻撃との闘いは、全労働者の権利と未来のかかった重大な決戦になっています。「正社員」という存在を一掃して労働者の権利を根底から打ち砕く、「もう一つの改憲攻撃」との闘いです。
17年2月以降、JR東は東労組解体に本格的に乗り出し、「社友会」なる社員組織による職場支配に置き換えようとしています。一方、職場ではこれまでの「常識」を超えた攻撃が次々と襲いかかっています。
しかし、激しく見える敵の攻撃には大きな矛盾があります。闘いの展望は、これまで動労千葉が貫いてきた闘いの中にあります。

「戦後最大の雇用破壊」とJRにおける決戦

(1)「運転士・車掌」の職名廃止、「同一担務は最大10年」 昨年3月6日のダイヤ改正において、乗務員勤務制度改悪が強行されました。朝夕のラッシュ時間帯に、指導員や支社課員など乗務員ではないものを乗務させるというものです。このこと自体、乗務員というあり方を根本から解体しようという攻撃でした。

しかし、そのわずか3週間後。3月29日に「新たなジョブローテーション」提案が行われました。
「運転士・車掌の試験も職名も廃止する」「同一担務は最大10年で異動や担務変更を行う」――衝撃的な内容でした。
乗務員は鉄道にとって最も中心をなす職種です。運転業務には長期の養成期間が必要で、一人の労働者にかかる責任が最も重い。また、鉄道のあらゆる業務は一本の列車を走らせるためにあります。運転士とは現場労働者にとって一つの到達点であり、感覚的にも「中心」です。だからこそ、乗務員が職名まで奪われるという提案に、現場労働者の間で大きな衝撃が走りました。
「自動運転で乗務員がいなくなれば、乗務員勤務制度もなくなる」「乗務員は将来、輸送サービススタッフになる」「営業職などの枠組みを超えて、車内でお客さまにサービスを提供してもらう」
会社は、動労千葉との団体交渉の中でこのように回答していました。〝いずれ乗務員という仕事はなくなるのだから、身の振り方を考えておけ〟とでも言わんばかりです。そして昨秋、「自らのキャリアを主体的に描け」といって、ジョブローテーションを前提とした自己申告書提出・個人面談を行いました。
狙いは明らかに、乗務員に〝もう今の職を続けられない〟という思いにさせ、諦めさせることです。会社は、「既に10年を超えている社員は今後数年で異動又は担務変更」としています。多くの乗務員が「同一担務10年」を迎えている中、大規模な配転を次々に行うと宣言しているのです。

ジョブローテーション提案概要

①車掌試験、運転士試験を廃止する。今後の乗務員への異動は、任用の基準により扱う。

②車掌を経ずに運転士になることを可能とする。

③車掌及び運転士の職名を「乗務係」に統一する。

④駅配属の中途採用者が乗務員に異動することも可能とする。

⑤同一担務の従事期間が最長でもおおむね10年を超えないよう異動又は担務を変更する。

(2)職場にかけられた激しい攻撃

しかし、なぜ運転士・車掌の職名まで廃止する必要があるのでしょうか。ジョブローテーションの提案内容を見ても、職名を廃止する必要はありません。また、純粋に業務上からいっても「最大10年」で単に配転することに合理性はありません。
その狙いは、労働者側の抵抗する力が最も強く、またその労働条件や権利のあり方がJRで働く労働者全体を規定する位置にある乗務員の抵抗力を打ち砕くことです。「乗務員が職名まで廃止されるのか」という形で、JRの労働者全体に「これまでの常識は通用しない」と突きつけることです。「最大10年」も、「自動運転も可能」という宣伝と合わせて、「もう乗務員に経験など必要ない」かのように扱う狙いです。諦めさせ、抵抗できなくさせ、全JR労働者の権利を根本から破壊しようとしているのです。
実際に、他の鉄道業務では外注化攻撃が激しく進行しています。すでに経営構想「変革2027」では、JR本体には鉄道業務を一切残さない構想が示されています。
駅業務に関しては、吉祥寺駅や秋葉原駅の駅長を含めた全業務が外注化されたことを契機に、完全に新たな段階に入っています。募集要項で「駅での勤務を希望される方は、グループ各社にご応募ください」とまで書かれています。「完全別会社化の一歩手前」の段階です。
検査・修繕部門でも昨年8月、「ミライの車両サービス&エンジニアリング構創」なる文書が出され、「現場に直結した業務」はグループ会社の仕事だとはっきり書かれています。JR本体が行うのは、検査計画策定などの「鉄道事業者としての業務」だというのです。
攻撃は「外注化・強制出向」から「別会社化・転籍強制」のレベルに進行しています。労働者ごと子会社に突き落とし、総非正規職化・名ばかり正社員化しようという攻撃です。

変革2027構想

構想では現業機関が一掃され、企画業務と「混み運用」するものだけ残されている。

(3)ジョブローテーション=「正社員」改革攻撃

乗務員はJRにおける「正社員」の最も象徴的な存在です。その乗務員を「解体」することを通して、全鉄道労働者の権利を破壊する。行われていることは、安倍首相自身が「戦後最大の改革」と謳った「働き方改革」攻撃そのものです。
「働き方改革」に向けて議論が行われていた規制改革会議や産業競争力会議では、その真の狙いが露骨に語られています。「非正規が容易に解雇されることが問題ではなく、正社員が保護されすぎていることが問題」「雇用改革の第1の柱は正社員改革」と議論されてきたのです。
「雇用が無限定だったのが問題」「だから、ジョブ型社員を導入すべきだ」「職務や勤務地を限定すれば、仕事や職場がなくなれば自動的に解雇になる」――こうした議論のもと、限定正社員が作られました。「無期転換」の名のもとに非正規時の待遇のまま「正社員」化が行われ、膨大な「名ばかり正社員」が生み出されたのです。また、「高プロ制度」で8時間労働規制が打ち砕かれ、「同一労働同一賃金」の名の下に、年功制賃金破壊―正社員の権利破壊が進行しています。
「働き方改革」関連法は、労基法にさまざまな特例を設け、これまでの労働者の雇用や権利のあり方を根本から転換・解体するものです。しかし、その特例は職場代表との労使協定などが条件です。また、年功制賃金解体などのためには就業規則改悪―労働条件の不利益変更が必要です。ここでも職場代表が重要な位置を占めています。
「解雇法理の明確化」「就業規則改正法理・社員代表法理の明確化」も雇用改革の議論の大きな焦点でした。社員代表を会社側が握り、それを使って「正社員改革」を行い、戦後最大の雇用破壊を強行する――これが敵の狙いです。JR東はこの攻撃の先頭に立ち、そのモデルを作ろうとしているのです。
東労組への解体攻撃はまさにそれを体現しています。17年2月以来、1年半余りの間に4万人近くが東労組を脱退し、グループ会社の労働組合が結集していた東日本労連は一夜にして消滅してしまいました。国鉄分割・民営化攻撃の手先となった御用組合=東労組の存在さえ許さないという激しい攻撃です。
その一方で、深澤社長自身の号令によって「社友会」なる社員組織の組織化が進められています。労働組合員に入会資格はなく、労働組合に入ったら自動的に退会。その目的には「より効率的な職場づくり」が掲げられ、総会決定に従うことも義務付けらる。つまり、職場で労働者がどんなに惨めな存在に突き落とされても、一言も声をあげられない状況に追い込むための組織です。「社友会」を組織し、職場代表を会社が握り、「労組なき職場支配」を実現するという狙いです。
JRで「正社員改革」「労組なき職場支配」が〝既成事実〟となることの社会的な影響は巨大です。経団連の労働法規委員会で「労働者代表制の法制化」が議論されていますが、その委員長はJR東日本会長の冨田哲郎です。JR東が首相官邸や経団連と一体となって「労組なき社会」のモデルを作り、「戦後最大の雇用破壊」を社会全体に広げようとしているのです。
この攻撃を許すわけにはいきません。全労働者の権利を奪い、すべてを非正規に突き落としていく。そんな社会にさせるわけにはいきません。動労千葉―動労総連合は全力で反撃に立ち上がります。

◆雇用改革の課題 濱口圭一郎 労働政策研究・研修機構(2014年7月3日)

労働契約法16条は解雇を「規制」していない。「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」解雇を権利濫用として無効としているだけ。解雇できるのが原則であり、権利濫用は例外。ところが、その例外が極大。なぜ?職務、労働時間、勤務地が原則無限定だから、社内で配転可能である限り解雇は正当とされないため。つまり、規制の問題ではなく、システムの問題。

◆第2回産業競争力会議雇用・人材分科会 配布資料

「世界でトップレベルの雇用環境・働き方」を目指して 国際基督教大学客員教授 八代尚宏(2013年10月17日)
・(非正規職の首切りが横行することに関して)規制で守られるものは、すでに雇用保障の対象となっている労働者だけであり、それ以外の労働者の雇用機会を損ない、失業リスクを高める場合が多い。
・「同一労働・同一賃金」の原則を適用するためには、それに反する場合の多い年功賃金の見直しが避けられない。年功賃金の改革を妨げている労働契約のルールの見直しも、合わせて必要とされる。
・解雇無効の場合の…金銭補償の水準が法律に明記されれば…弱い立場の労働者には大きな利益となる。
・派遣法の「常用代替防止」は、派遣社員との競争から熟練度の高い正社員を保護する、諸外国に例のない規定であり、対等な立場での競争条件を保障するべきである。

展望を開く力は徹底して闘う中にある

(1)すでに攻撃の矛盾はあらわになっている

攻撃が激しく開始されている一方、すでにその矛盾も明らかになってきています。
検修部門の外注化に関して、会社は出向解除の目安を「外注化から10年」だと言ってきました。しかし、千葉における外注先である千葉鉄道サービス(CTS)での養成は完全に破産しています。数年で20~30人の養成が必要にもかかわらず、会社自身が10人程度が限界だと認めざるを得ない状況です。それどころか、この間養成したCTS社員が10人以上も辞めているのです。外注化でJR本体からCTSの社員に置き換え、徹底した低賃金化とコスト削減を行うという目的が、この破産を生み出しています。
台風災害では合理化を極限的に進めた結果、倒木や停電といった障害の復旧に多大な時間を費やすことになりました。地方路線は「復旧より代替輸送を優先する区間」として完全に切り捨てられ、保線区の廃止が進み、線路の徒歩巡回や災害警備まで外注化されました。しかし、「代替」となるはずのバス路線も次々に撤退してしまいました。この中で、南房総地域などでは復旧も代替輸送もままならない状態に陥ったのです。
ジョブローテーション提案では、あたかも「運転士という特別な職種、技能は必要ない」かのように扱われています。しかし、現実に乗務員を廃止することは不可能です。横浜シーサイドラインの自動運転による逆走・衝突事故は、最後に安全を守るのは現場の運転士であり車掌であることを再び明らかにしました。
会社は3月ダイ改以降、これまで最大2両だったワンマン運転を、全線区、全編成に拡大するとしています。山手線や総武快速線15両まで対象です。無制限なワンマン拡大でまず起こることは、車掌の大幅削減・消滅であり、大規模な配転攻撃です。会社がそれを現場労働者の団結破壊に徹底的に利用しようとすることは明らかです。
しかし、昨年8月には千葉で立て続けに踏切事故が起こりました。車が列車後方に衝突した事故では、車掌が非常ブレーキを引きました。しかし、運転士だけなら気づかずに運行を続ける可能性が高い。さらなる事故に繋がりかねない重大事態です。立ち往生したトラックに衝突した事故では、一歩間違えば運転士の命に関わるほど列車が破損しました。その時、ワンマンなら誰が救援を呼び、乗客の対応をするというのでしょうか。災害時に指令とのやり取りや乗客の案内・誘導などの事故対応を、運転士一人で行って安全を守り続けることなどできません。
車掌が後方の安全確認を担当し、運転士とともに鉄道の安全を守っているのです。それは、ホームモニターや自動運転装置で置き換えることができるものではありません。

(写真 19年8月6日の総武本線での踏切事故の当該列車)

(2)闘うことが敵の矛盾を暴く

「人口減少社会だから仕方がない」「AI化は時代の流れだから自動運転には反対できない」――これはまったくのウソです。「人手不足」とは、「低賃金でこき使える労働力が足らない」ということに過ぎません。鉄道の自動運転自体は「古い技術」です。しかし、一般路線で行うためには大規模な設備投資が不可欠です。利益を生むためには、それ以上に人員削減と労働条件解体を進めなければなりません。労働者の団結と抵抗力が攻撃を押し留めてきたのです。
そして、徹底して攻撃に抵抗して闘う中にこそ、新たな展望を開く力があります。動労千葉はそれを現実の闘いで示してきました。
検修部門の外注化は01年時点で、会社と東労組の間で「7~8年で最終段階」と確認されていました。しかし、「最終段階」である分社化・転籍からは程遠いのが現状です。動労千葉は外注化に対して徹底的に抵抗して、強制出向をめぐる争いが続いてきました。それによって、会社は未だに「転籍」という言葉を出すこともできないでいるのです。
「ミライの車両サービス&メンテナンス構創」は、外注化をめぐる裁判の高裁判決が出てからようやく出されました。ここでも他職種からかなり遅れることになりました。
動労千葉は外注化に対して全力で闘い、12年間に渡って完全に阻止してきました。外注化強行後も徹底的に抵抗し、少なくとも10年以上、転籍を阻止しました。その闘いは、当初から展望があったわけではありません。展望は闘いの中でつかみとってきました。団結し、徹底して抵抗する勢力がいることが何よりの歯止めです。
ジョブローテーション提案についても、現場からは「なぜ職名を廃止しなければならないのか」「安全レベルが低下しない根拠がわからない」「生活設計がたてられない」「任用の基準は信用できない」「来年4月以降、どこに配転されるのか」と怒りと不安の声があがっています。「仲間を裏切れない」と東労組に残っている青年たち。脱退はしても組合や闘いが必要だと感じている青年たち。この青年たちとともに職場から徹底した反撃が生み出されば、会社の攻撃は頓挫せざるを得ません。仮に、現在の攻撃の狙いを10年遅らせることができれば、まったく新しい展望を掴むことができます。ここにJR労働者の権利を守り、全労働者の未来を守る最も現実的な道があります。

(3)動労千葉は職場から闘いを開始する

動労千葉は職場からの反撃を開始しています。各職場で職場代表選に立ち、CTS最大職場である幕張事業所の職場代表を2年連続でかちとりました。組織拡大で過半数労組として労働者代表をかちとる闘いを開始しています。
それは日々の職場における日常的な活動によってかちとられました。職場の声をきいて問題点を集め、毎月の安全衛生委員会や労使協定をめぐる交渉に持ち込む。会社が隠そうとする議論の中身を、「安衛だより」を発行して職場全体に知らせる。職場の声を力にして、具体的な改善も数多くかちとっていきました。その中で職場の労働者たちが、職場代表が労働者の立場に立って闘うことの大事さを実感として感じていったのです。
台風災害時には、危険な状況の中、出勤を強要しながら仕事がない、動かせない列車の点検を暴風雨の中やらせる、計画運休前に早く出勤するよう指示しながら超勤扱いにしないなど、多くの問題がありました。動労千葉は全運輸区を対象にアンケートを実施し、多くの協力が得られました。そして、みんなが心のなかで「おかしい」と思っていたことを形にして、全労働者に明らかにしながら会社に突きつけています。
誰もが「おかしいことはおかしい」と声を上げられる職場にする。そして、JR労働者と6千万労働者の権利と未来のかかった闘いに立ち上がる。その新しい挑戦を開始しています。
3月ダイ改では、すでに東北本線黒磯~新白河間の全列車で5両編成のワンマン運転実施がプレス発表されています。常磐線全線開通に向けた試運転も行われ、「3月全線開通」が狙われています。4月のジョブローテーション実施を含め大きな決戦が訪れています。動労千葉―動労総連合は全力で反撃に立ち上がります。

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国鉄1047名解雇撤回・JR採用へ!
関西生コン労組への弾圧を打ち破ろう!
改憲・「労組なき社会」を許すな

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2月16日(日)午後3時 葛西区民館ホール