■労働組合運動の基礎知識 第8回

2019年7月31日

月刊『労働運動』34頁(0303号09/01)(2015/06/01)

■労働組合運動の基礎知識 第8回

残業代ゼロ法と裁量労働制は共に過労死促進法だ!

小泉義秀(東京労働組合交流センター事務局長)

残業代ゼロ法と裁量労働制の違い

 先日東部ユニオンに、裁量労働制―年棒制で働く比較的高収入の労働者から労働相談があった。
 裁量労働制は「残業代ゼロ」法とは異なるはずであるが、話をよく聞いてみると両者に違いはない。今国会で裁量労働制の対象拡大と「残業代ゼロ」(高度プロフェッショナル)制度の創設の審議がなされているが、その違いが良くわからないという声を聞く。両者の共通項と違いは何処にあるのだろうか。
 裁量労働制は事前に労使で残業を含む「みなし労働時間」を定め、賃金を決める。8時間を超えるみなし時間については、その超過分について割増賃金の支払いが必要になる。制度上は深夜や休日の割増手当は別に支払われることになっている。
 他方、新たに創設される「高度プロフェッショナル労働制」=残業代ゼロ法は、残業代や休日・深夜割増は一切支払われなくなる。この点が最大の違いである。
 しかし現実には裁量労働制の場合でも、その対象の労働者は、残業代や休日・深夜割増の申告をしない。他者との価格競争の中で人件費を含むプロジェクト予算はぎりぎりまで抑えられ、手当が膨らめば人事評価に影響し、解雇されることもあるので、時間外、休日、深夜割増の請求をしないのだ。
 制度として労働者が自己申告しなくても、時間外・休日・深夜割増が支払われるような仕組みがあれば別だが、現実にはそうなっていない。すると両者に差異はなくなる。

裁量労働制の拡大は何をもたらすか

 裁量労働制には2種類あり、専門型の裁量労働制と企画型の二つだ。
 専門型の対象者は現在約50万人。デザイナーやコピーライター、研究職、弁護士、大学教授などである。企画型は2000年に解禁されて約10万人が対象だ。企画・調査・分析を担当する事務職である。
 今回の法改正は、この企画型の対象者の拡大が画策されている。第1は、職種の拡大である。「一定の専門知識をもって顧客の経営課題の解決につながる提案をする営業職を新たな対象に加える。具体的には、高度な金融技術を使って企業の資金調達を支援する銀行員や、顧客の事業に対して複雑な保険商品を組み合わせて進める損害保険会社の社員、顧客企業に合った基幹システムを提案する営業担当者などを想定している。企業年金の制度を指南する生命保険会社の担当者も対象になりそうだ」(4月2日付日経朝刊)。第2は手続きを簡素化するという。「これまで企画型の裁量労働制を導入するにはオフィスや工場ごとに労使が合意する必要があった。これからは本社で合意すれば全国の事業所で適用できるようにする」(同)。今回は営業職には適用拡大はしないとされているが、業界は営業職への拡大を要請している。
 裁量労働制は2種類とも年収に制限はない。「残業代ゼロ法」の対象者は年収制限があるため1万人位と見積もられているが、両者ともに際限なく対象者が拡大されるのは不可避だ。共に過労死促進法である。絶対反対の声をあげよう!