理論なくして闘いなし第6回 UTLAアーリーン・イノウエさんに学ぶ

2019年7月31日

月刊『労働運動』34頁(0319号07/01)(2016/10/01)

理論なくして闘いなし 闘いなくして理論なし 第6回
UTLAアーリーン・イノウエさんの闘いに学ぶ

(写真 2013年のUTLAの賃上げ要求集会)

マルクス主義講座として動労千葉労働学校の講義の抜粋を掲載しています。

 6月にアーリーン・イノウエさんが来日し、12日間という長期に渡って各地を回り、教育労働者を中心に組織化について具体的に話し合う会合をもちました。

★民営化反対で組織化した教訓

 4月初めに動労千葉の中村仁さんがシカゴで行われたレーバーノーツの集会に参加しましたが、UTLAのアーリーン・イノウエさんがその集会の基調報告をやりました。UTLA(ロサンゼルス統一教組)は、アーリーンさんたちのユニオンパワー・チームが執行部を握って以来の1年半で大躍進しているので、どうやってそのような組織化ができたのかと全米各地の労組から注目されているのです。彼女の基調報告を基に、UTLAの民営化に対する反撃、組織化についてお話しします。
 ロサンゼルスだけではなくアメリカの公立学校は、国と億万長者たちから民営化の攻撃を激しく受けています。中でもUTLAが所属するロサンゼルス統一学区ではチャータースクール化が進んでいて、現在公立学校約850校に対して260校のチャータースクールがあります。
 全米で2番目に大きな教員組合のUTLAは昔から強い労組と言われてきましたが、そこの学区でチャータースクール化攻撃が激しくなる中で、10年前に私たちはアーリーン・イノウエさんと出会いました。
 チャータースクールとは、税金の公費を使って運営される民営化された学校です。一方で、公立学校には州や国からの資金が減らされていく。何故、億万長者たちが競い合ってチャータースクールを作るのか。チャータースクールがすごく儲かる事業だからです。公立学校が廃校になると、金持ちがその土地を安く買い取って学校事業を始めるわけで、5年ほどで元が取れる収益を得られると言われています。UTLAは現在3万2千人の組合員がいる巨大な労組ですが、私たちが出会った10年前には4万7千人の組合員がいました。チャータースクール化による公立学校閉鎖で、教師たちが大量にレイオフされてきました。不動産王のイーライ・ブロードなどの億万長者たちが、今後8年間でロサンゼルスの公立学校を半減させチャータースクールを増やす計画を立てています。学校に資金が十分に渡らなくなり、生徒たちの学校生活は荒廃したものになりました。学校の施設も、水道管が破れたり天上が落ちてくるとか、ネズミやゴキブリが徘徊している状況になって、クラスの人数も以前は1クラス26人でしたが、今の高校では58人も詰め込まれた教室もあるそうです。
 UTLAの前執行部は、フレッチャーが委員長に当選し、アーリーンさんも執行部員として選出されましたが、執行部全体が前向きに進んでいかず、3年間はものすごく苦労したと語っています。なぜ執行部が動かなかったのか。委員長のフレッチャーが教育長のデイジーの言うとおりに学校運営をし、労働協約も切れたまま組合員は8年間給与の昇給もされない状況でした。生徒の点数で教師が評価され格付けされて、多くの組合活動家は「ティチャーズ・ジェール」と呼ばれる〝教師の監獄部屋〟に入れられ、徹底した管理のもとで組合員たちは次第にやる気を失っていったのです。

(写真 昨年の訪米でUTLAと交流)

★ユニオンパワーの闘い

 アーリーンさんたちUTLAの革新派メンバーが、2年半前にユニオンパワーというフラクを結成し、真に闘う組合にするには執行部を丸ごと獲得しなければと、徹底的に討論し準備しました。人種や性別で偏りがないか。組合経験が豊富か、どれくらい活動してきたか。社会正義のいろいろな闘いをきちんとやってきたか。教師としてすばらしいかどうか。そういう基準で7人の候補を選び出し、7人の中にセシリーさんやアーリーンさんが入って執行部選挙に打って出ました。選挙の前には、彼らはいろんな学校を訪問し、組合員が何を考えているか、何を欲しているかを徹底的に引き出して、自分たちはどういう政策でロサンゼルス統一学区の公立学校を良くしていくか、戦略を立てました。教師たちは組合に絶望していましたが、自分たちが望んでいる学校のあり方を訴えているユニオンパワーの候補に投票しようとなったのです。7人のチームが、郵便物を出したり、電話をしたり、ビラを刷ったりと、自分たちが出し合った資金の中でやって、2014年のUTLA指導部選挙で、執行部7人全員と中央委員のほとんどをユニオンパワーのメンバーで占めるという圧倒的な勝利をしました。
 ユニオンパワーのチームはどうやって絶望している教師の人たちに話をしていったのか。アーリーンさんは次のように話してくれました。
 「とにかく教師たちを組織していくことが自分たちの勝利につながると、徹底的に組合員一人ひとりと1対1で対話し、何を彼らが欲しているのか、それに対して自分たちは何が出来るのかを徹底的に話し、信頼関係を築いていったことで圧倒的勝利を得た。勝利した後は、今まで停滞していたことを前へと動かさなければいけないと、〝エスカレーティング・アクション〟を考えた。『早くストライキをやりましょうよ』と言う先生たちもたくさんいたが、一発で事を変えるのは無理だと私たちユニオンパワー・チームは考え、だんだんとエスカレートしていく闘争を組んでいった。最初はまずは組合員と対話していく。850以上ある全ての学校に出かけて行き、昼休みや帰りの5分間、10分間だけでも会話した。話をしましょうと言って、なかなか集まってくれなくても、集まってくれるまで通い続けて、彼らが何を欲しているかを自分たちがオルグするのではなく、80対20のルールを決めて80%は相手の言うことを聞き、自分たちが話すのは20%にしようと、まずは組合員と話す関係を築いた。その後、最初の闘いとして『赤いTシャツの火曜日』を企画し、何でも赤いものを身に着けて反対の行動をやる。ネッカチーフでもハンカチでもブラウスでもいい、皆が同じ赤いものを着けることで安心して参加できることから始めた。仲間と一緒にやっているという自信から、赤いTシャツを作るとどんどん売れて、皆が赤いTシャツを着て学校の前で闘いをすることが広がっていった。次に地域の討論会を企画し、保護者や地域の人々、労働組合などと一緒に活動することを通して、当局に対して住民がこれだけ欲していると示していく。そのあとでは、800校以上の職場でピケットを張る活動に出た。それを順次やっていくことで賛同する人たちが増えてきた。今度は、教師に対して職員会議ボイコットしようという闘争をやる。職員会議のボイコットも各校でかなりの成果を得て、最終的に2015年2月にスタンド・アット・グランドパークという大集会をやることができた。
 これにはものすごい人が結集をして、ストもやりかねないという私たちの力を示したところで協約協定に入った。協約協定では今までずっと停滞していた賃金の値上げ、クラスの人数削減、テストによって格付けをしない等々、いろいろなことを全面的ではないがほとんど勝ち取った。協定の成果に対して組合員の83%の投票率によって97%の賛同を得ることができた」
 億万長者が大金を出してチャータースクール化攻撃をしてくるのは、戦闘的に闘う強い労組を潰したいからです。潰さなければ自分たちが思うようなことが出来ないと、UTLAに対して集中して行われているのです。州法によって違いますが、ロサンゼルス統一学区の教育委員会は選挙によって教育委員が選ばれます。億万長者たちは、教育委員の選挙に莫大なお金を使って自分たちに有利な人物が選出されるようにしていました。しかし、UTLA執行部は各地域で何度も集会を開いて、保護者やコミュニテイの人たちをも組織し、教育委員会闘争は次第に拡大していきました。ロサンゼルス統一学区は、コミュニテイの人たちが反対する事には強く出られません。コミュニテイ全体を巻き込んで闘争したことで、今年1月には、イーライ・ブロードやウォールマートのウォルトン・ファミリーら億万長者が立てた、ロサンゼルスの公立学校の50%を8年間でチャータースクールに変える計画に教育委員全員が反対票を投じ、7対0で否決されました。今後この決定をひっくり返すような億万長者の出方もありますが、次にUTLA執行部は闘いの将来に備えるために組合費を値上げしようと投票をやって、圧倒的支持を得て可決されました。このことはまた、組合員の圧倒的多数がチャータースクール化に対する闘いに積極的に取り組む意思表示を得たことでもあり、今まで以上のことが出来るようになります。

★民営化の学校の教師を組織化

 もうひとつUTLAの執行部が取り組んでいることは、チャータースクールに働く先生たちを敵視するのではなく、組織化することです。組合つぶしのためのチャータースクールだから、チャータースクールの学校には組合がありません。そのチャータースクールに組合を作ろうと、一昨年から秘密裏にオルグして、20校近いチャータースクールの先生たち千人以上をUTLA傘下の組合に組織してきました。ロサンゼルスで一番大手の団体であるアライアンス・チャータースクールは28校の中高校を手広く開いている組織ですが、そこの先生たちが組合を作る組織化に取り組みました。アライアンス当局はものすごい妨害を加え、先頭で闘う教師たちを解雇したり活動させないことをやりましたが、UTLAはロサンゼルス郡上級裁判所に訴え、裁判で大勝利しました。「組合作りを妨害するのはいけない」と判決が出たのです。アライアンスの闘う教師たちは今、組合作りに賛成する人たちをどんどん増やしています。しかしアメリカの場合は、組合結成に組織や会社、学校の50%+1人が組合に加盟するか賛成しない限り組合が作れません。アライアンスの先生たちは、1校だけを組織化して組合を作るのではなく、28校全部のアライアンスの学校全体として組合を作ろうと頑張っているそうです。チャータースクール反対の闘争をやっていながらチャータースクールの先生たちの組織化をするのは、チャータースクールに反対していることにはならないという批判もあります。しかしこの闘いは、動労千葉が外注化に反対して外注先のCTSの労働者を組織化している闘いと共通するところがあります。「組合員の数が減ったから、組合費を補充するためにチャータースクールの教師たちを組織化している」といった批判が飛びかったりもしていますが、チャータースクールの教師たちとも共闘するのは大事な闘いです。
 アーリーン・イノウエさんのレーバーノーツの報告をぜひ帰ったら読んでいただきたいと思います。彼女たちは組合で闘うことが大事だという想いがとても強く、私たちがそこから学んだ教訓は、皆の話をちゃんと聞くとか、1対1の対話をするとか、人からもちゃんと学ぶなどたくさんあります。アーリーンさんは、「この国を変革するには組合運動が不可欠であると理解するようになった」「権力を作り変える力を秘めている組織は労働組合運動だ。労働組合こそが社会を変える」と結論づけています。「われわれが地域的にも世界的にも労働組合運動に取り組んでいくならば、必ず社会を変えることが出来る」という結論をもって、彼女は日本に来ていろんな話を私たちと討論し合いました。

★国際連帯闘争の重要性

 アーリーンさんは、UTLAは内部の組織化が中心で、国際連帯には組合員の気持ちが向いていないと話していました。
 各国の労働組合からいろいろな行事に参加しないかと誘いがあって、歴代の委員長などが組合費を使って外遊する経過があり、組合員には「国際連帯は組合のお金を使って遊びに行くんでしょ」というイメージが強くて、国際連帯は言い出しにくかったそうです。アーリーンさんが日本に来るにあたっても、組合としてではなく個人的な休暇で来ると組合員には言ってきました。でも、日本で私たちと話し、特に福島に行った時に、放射能汚染の生きられない場所で、診療所を何とかしようと闘っている若い人たちや動労水戸の青年たちと話をして、国際連帯でしか社会を変えられないと再認識したと言いました。福島の問題も、日本の中で変えようとしても変えられないと多くの人たちに知らしめて、国際連帯で福島の問題を何とかしなければという想いを強くしました。アーリーンさんは、ロサンゼルスに帰って、UTLAの執行部にも国際連帯をやっていこうという話をして、全員から賛同されました。彼女は、フェイスブックに福島に行って話をしてきた、こういうことが起こっていると載せて、国際連帯にこれからは頑張っていくと宣言しました。
小島 江里子(動労千葉国際連帯委員会) 

(8月20日の講演の抜粋)