連載 職場における労働法と諸制度を考える 第2回   「労使協定と過半数代表者」

白井 徹哉(合同・一般全国協議会事務局次長) 月刊労働運動2020 年2月号掲載
基礎知識

職場代表選挙を契機に職場組織化へ

来年度に向けて、多くの職場で職場代表選挙が行われると思いますので、今月、来月の2回、職場代表選挙や36協定などを素材にして考えます。
労使協定が昔に比べると増えています。36協定だけでなく、変形労働時間制、みなし労働時間制などの労働基準法の関係だけでなく、育児介護休業法・高年齢者雇用安定法など、1980年代から労使協定の範囲が拡大しています。
また08年に制定された労働契約法が「就業規則の変更による労働条件の不利益変更」を明文で定めたこともあり、就業規則の変更手続きもあって、過半数代表が登場する場面が増えています。
労働基準法は、労働条件の最低条件を定めたものです。本来はすべての職場で必ず守られなければなりません。この最低規準を下回ることは、たとえ労働者が同意したものであっても無効であり、使用者が違反をすれば罰せられ、労働基準法の基準が適用されます。
ところが、「労使協定」はこれとは真逆の意義を持ちます。罰則を伴う最低基準を守らなくても使用者は罰則を免れることを可能とする仕組みなのです。ともすれば忘れがちですが、労使協定の定めのある条文にはすべてその前に罰則を伴う本来の定めがあるのです。
例えば、36協定を結ぶことによって使用者は、労働者を週40時間・1日8時間を超えて時間外労働をさせ、法定休日に労働をさせても、労基法違反には問われなくなります。労使協定の法的効果は「免罰的効力」と呼ばれ、使用者にとっては罰則を回避する免罪符なのです。
労使協定が増えていることは、それだけ最低基準があいまいになっていることを意味します。近年は、労使協定だけでなく、企画業務型裁量労働制や高度プロフェッショナル制度のように、労使委員会や本人同意の条項により最低基準を適用除外
する傾向が強まっています。

労使協定と労働協約の違い

ちなみに「労使協定」と「労働協約」は別物です。労働協約は、団体交渉で労使の合意が成立した内容を書面化したものです。労働組合法14条は、書面を作成し両当事者が署名・記名押印したものに労働協約として法的効力を与えています。協定・覚書・確認書・了解事項…どのような名称やスタイルでも労組法14条に該当すれば労働協約です。
労働協約は、就業規則や労働契約よりも上位にあり、例えば労働協約で月給25万円と定めた場合、ある組合員について月給20万円の契約を結んだとしても、それは無効となり自動的に25万円に置き換えられます。

職場闘争の水路

労使協定に話を戻すと、実際には業務上の問題や、労使の力関係から協定に応じるしかない場合も多いとは思います。
しかし、労使協定の締結を通して、職場や組合の団結を強め、労働者の発言力を高めることはできるはずです。何しろ使用者が処罰を免れるための協定なのだから、労使間の駆け引きや条件闘争は当然のことです。闘い次第で使用者の譲歩をかちとり、労働者に有利な労働条件を盛り込ませることも十分可能です。
労使協定の締結当事者は第一に過半数労働組合です。過半数組合がない場合は、労働者の過半数を代表する者となります。労働条件を左右する重大な権限を持つ過半数代表について、労働基準法は労働者の過半数を代表する者とあるだけで、その選出方法や任期は明確に定めていません。
労働基準法施行規則によれば、①労働者の過半数を代表する者の適否を判断する機会が職場の労働者に与えられ、なおかつ②代表が使用者の指名など使用者の意向に沿って選出されてはならないとなっています。そして③挙手や投票など、当該事業場の過半数が支持していることが分かる民主的な手続きが必要――とされています。働き方改革関連法の施行に伴い、昨年4月から②「使用者の意向に基づき選出されたものではないこと」という要件が追加されました(詳細は次号)。
組合員数がその事業場の過半数を組織している場合は、そのまま組合の代表者が過半数代表となるわけですから、やはり労働組合にとって過半数を制することは大きな使命なのです。

選挙の進め方

また(筆者として強調したい点ですが)、労働者代表選挙を労働組合結成に結びつけることもできると思います。職場代表選出選挙は、思いのほか職場の中の運動や議論を活性化させます。
この際、労働者代表の選出について労働組合側が主導権を握ることを強く意識しなければなりません。選出委員会を設置することを要求し、委員の数は最低でも労使同数とさせます。もちろん労働者委員が多い方がなお良いです。選出委員会の活動は、勤務時間中でまったく問題ありません。使用者にきちんと確認してくぎを刺して下さい。
選出方法は、厚生労働省の通達では、労働者の話し合いや挙手採決、持ち回り決議も可能としていますが、会社の監視と圧力を排した秘密投票(投票箱)を主張すべきです。
選挙実施が決まれば、選出委員会のもとに選挙管理委員会を設置し(選出委員会から選管に移行が多い)、選出方法の公示、立候補受付、選挙活動、投票、開票の日程を進めます。交替制勤務の場合などは、選挙期間として数日が必要となります。ポスターやビラ配布など選挙活動についても確認が必要です。投票箱の管理などの投票管理は、選挙管理委員会が行います。
職場代表の存在と動向は、職場の労働条件に大きな影響を与えます。もちろん会社派が過半数代表者となったら、なんでも勝手に協定できるわけではありません。過半数代表が取れない少数派組合であっても、労使協定の提示や就業規則をめぐって団体交渉を要求することが必要であり、代表選挙とセットで展開することが重要です。