労働組合運動の基礎知識 第58回 教育労働者に「変形労働時間制の適用」!?

2019年8月28日

月刊『労働運動』34頁(0353号11/01)(2019/08/01)

労働組合運動の基礎知識 第58回 教育労働者に「変形労働時間制の適用」!?

労働組合運動の基礎知識 第58回
教育労働者に「年間変形労働時間制の適用」!?

6月27日(木)に「改憲・戦争阻止! 東京東部実行委員会」主催の第9回「憲法講座」が行われ、「学校における働き方改革」が問題になった。教育労働者に年間変形労働時間制の導入が提案されているという。
私はこんなデタラメがありうるのだろうかと考えた。教育労働者については、地方公務員法第58条第3項により労働基準法の年間変形労働時間制については適用除外とされているからである。地方公務員法の適用除外規定を外すか、労働基準法を改悪しようとしているのではないか?
昨年の5月と10月に教育労働者に年間変形労働時間制を適用することを検討しているという新聞報道がなされた。「教員に変形労働時間制を 自民党部会が提言」(2018年5月15日 日本経済新聞)。「教員の働き方改革、『変形労働時間制』を提案 文科省」(2018年10月15日 日本経済新聞)このように、自民党の教育再生実行本部の部会と文部科学省が相次いで発表している。問題はどちらの記事も地方公務員については、適用除外とされていることについて言及していない。
そもそも、教員は、1971年施行の給特法(教職員給与特別措置法)によって、「基本給の4%の教育調整額」と引き換えに、「定額働かせ放題」の賃金制度になり、労基法の適用除外にされてきた。当時の残業は週に数時間程度のものだった。4%というのはその時の数値だ。その4%支払えば月に何時間残業しても残業代は支払わなくて良いという、今問題になっている「高度プロフェッショナル制度」(残業代ゼロ法)の先取りのような制度が厳然と存在している。
法が導入された当初は、「限定4項目しか超勤は認めない、超勤した場合は、その時間を相殺する」という権利があった。職場闘争でその慣行は長い間守り抜かれてきた。しかし、組織率が低下し、職場の力関係が弱くなる中で、教育労働者の時間管理が曖昧にされ、長時間労働が加速して、過労死、過労自殺、精神疾患がひきおこされてきた。この制度をそのままにして、年間変形労働時間制を導入することなど絶対に許されない。
1年365日の総労働時間は2085時間。例えば1日の労働時間が基準法通りの8時間だとすると、2085時間を8時間で割れば260日になる。365日から260日を引いて、一年間のカレンダーで105日の休日を設定すれば法違反にはならないというのが年間変形労働時間制の考え方の基本だ。
夏休みなどに労働時間を短縮し、他の忙しい時期に時間を延ばすというのであるが、夏期休業中も補習授業、プール指導、さまざまな研修などたくさんの仕事に追われているのが実態である。あらかじめ年間カレンダーを作成して変形労働時間制を導入することなどできない。これが導入されたら更なる労働強化は必至だ。

小泉義秀(東京労働組合交流センター事務局長)