理論なくして闘いなし第12回 改憲・戦争情勢と社会保障制度の解体

2019年7月31日

月刊『労働運動』34頁(0335号07/01)(2018/02/01)

理論なくして闘いなし 闘いなくして理論なし 第12回
改憲・戦争情勢と社会保障制度の解体

医療・介護・福祉労働者の運動と組織―<もう一つの18年問題、医療・介護・福祉>

山部 明子(動労千葉労働学校講師・社会保障制度研究家)

【動労千葉労働学校12月16日講義の前号からの続き】

②「経営主体の変更=解雇・転籍、選別再雇用」攻撃を暴露し勝利した岡大労組

 2014年、政府の「産業競争力会議」で岡山大学長が提案したのは「岡山大メディカルセンター(大規模医療法人)構想」でした。安倍「成長戦略」の意をうけた医療・福祉分野を資本の儲(もう)けのエジキに投げ出す、新自由主義的再編・破壊のトップを切った攻撃です。
(*すでに、03年、国立病院は国立大学と共に独立行政法人になっています。国立大職員は、法人職員です。厚労省管轄の国立病院機構職員は、国家公務員身分のままです。県市町村立・地方自治体公立病院は、07年ごろまでに独法化されて、一般会計からの独立採算を義務づけられ、職員は非公務員化されました。実際には赤字病院が多く、自治体の一般会計から赤字補てんしています)。
 14年に突然発表された岡山大学長の「非営利型持ち株会社」構想(日赤病院や済生会病院や多数の医院・介護施設、外注先会社を統合する案)は、医師派遣の権限を持つ医学部が、頂点にたって地域医療を支配する構想だったのでしょう。岡山大を軸にした医療・介護・福祉の大規模統合案は、安倍の大規模メディカルセンター構想と同じく、医療・介護・福祉施設を、資本の投資対象にして儲け口に転換する狙いがありました。
 岡山大学の現場労働者の機関紙「UNITE」は、学長発言の14年から3年間、徹底してこの計画の狙いを暴露し続けました。87年国鉄分割・民営化の時の職場破壊・労組破壊の手法「いったん解雇・選別再雇用」の再現に対する職場の怒りが高まり、それまで屈服し沈黙していた労働組合を動かしました。2017年春、労働者の団結の力、労働組合の闘いが「岡大メディカルセンター」構想をついに頓挫(とんざ)させました。
 分割・民営化も、大規模統合・民営化も、外注化・非正規職化も、労働組合が沈黙して容認すれば、労働者に犠牲を転嫁する非道がまかり通ります。岡山大「UNITE」の仲間の闘いは、安倍成長戦略に迎合した岡大構想の本質を暴き、職場の怒りを組織し、団結を作り出し、勝利しました。
 医療・介護・福祉職場は、〈動労千葉のように闘おう〉の合言葉で30年間不屈の地平を学び、安倍の社会保障18年転換を迎え撃ち団結を拡大しましょう。

【Ⅲ】18年度―医療・介護・福祉報酬同時改定と療養型病床廃止―施設から在宅へ

①18年度診療報酬のマイナス改定(予算削減)とプラス改定(患者負担増)

 医療の診療報酬は2年に1度、介護報酬と障害者福祉サービス報酬は3年に1度改定されます。18年度は、医療・介護・福祉の報酬の同時改定年です。
 政府・厚労省は、〈法・制度改定と報酬規定〉予算配分などによって医療・介護・福祉を政策的に支配しています。例えば、小泉政権下の05年診療報酬マイナス改定ショックと「7対1」急性期病棟の報酬優遇による看護師人員確保戦で、地方の中小病院がたくさん経営破綻しました(=破綻させました)。
 18年度報酬改定は、全体ではマイナス改定ですが、薬価を市場価格に引き下げる(1・3%)ことで確保した1千数百億円の財源と、医療・介護の制度改定(療養病床の廃止など)で確保する財源をもとに、診察料や入院料など「本体」部分の診療報酬を0・55%引き上げます。医療機関の収入増、患者負担増、労働者賃金から天引きされる健康保険料負担は、増えます。
(*日本では国民皆保険制度の根幹を守るため薬価交渉権は、政府厚労省に一元化されています。この数年、新薬の市場価格が下落した分、薬価を高く支払っていました。今回その分を下げるのです。医療民営化のアメリカでは、製薬会社との交渉権は市場原理のために、必要不可欠な薬が異様なまでに高価につり上げられています。カナダや外国に薬を購入する慢性病患者の団体ツアーがあるほどです。)
 今回の「診察・入院料0・55%引き上げ」が、どのような政策的な狙いなのかを見ていくことが重要です。
 医療機関の収入増の使い道は、経営者の裁量です。日経新聞さえ指摘しているように、勤務医師の過労死・過労死的過酷労働の反面で、病院・医療法人の管理者、院長年収は10年前から2割近く伸びています。それを可能にしたのは成果主義=「総非正規化」「外注化」「成果主義賃金」「評価制度」など新自由主義の分断支配による労働強化、賃金の引き下げと慢性的人手不足、要は搾取・収奪の強化です。まだ全貌(ぜんぼう)は明らかになっていませんが、診療報酬改定をテコに新たな合理化攻撃がくる、このことだけは確かです。

②18年〈医療から介護へ〉〈施設から在宅へ〉療養病床の廃止・転換

 入院日数が長い療養型病床群が創設されたのは1993年です。00年介護保険がはじまり、01年に「医療療養病床」と「介護療養病床」が発足しました。06年診療報酬・介護報酬同時改定で「11年度末までに介護療養病床を廃止」と決定しましたが現実に不可能でした。15年の診療報酬改定で「病院入院は14日以内」「リハビリ病棟入院は1ヵ月以内」と制限。その後、療養病床廃止・転換期限は、17年度末(18年3月)まで延期されました。
 療養病床廃止の受け皿となるのは、A医療機能を内包した施設(施設と医療機関が併設)とB医療を外から提供する居住スペースと医療機関・診療所の併設(訪問診療)が予定されています。「医療と介護が切れ目なく連携」という政策です。これを見ても介護保険が医療の民営化の突破口になっているのがよくわかります。
 しかし、廃止・転換の受け皿が間に合わなかったため、今年6月法改正で「完全廃止・転換は18年度末からさらに6年間延長」と決定しました。
 すでに約57%の療養型病床については、17年度と18年度に廃止・転換が実施されます。だから、18年は、療養病棟廃止・転換の大変動と、大病院や薬局チェーンによる介護施設・診療所の系列化・統廃合、サービス付き高齢者住宅の投資拡大など大きな転機です。
 安倍の社会保障制度改革による「施設から在宅へ」は、医療と介護を同時に必要とする高齢者でお金のない人は「行き場のない医療・介護難民」とされる制度です。急増している都会の「孤独死」は、その予兆です。これが安倍の「社会保障の高齢者偏重から全世代への転換」なのでしょう! 安倍政権の制度改革が向かっている方向は〈命よりカネ〉「制度改革で財源を捻出(ねんしゅつ)」するアメリカ並みの弱肉強食の〈大規模医療法人〉化の道です。

③医療・介護保険職場を変えるのは労働組合運動の力

 介護報酬は3年前の2015年度に2・27%引き下げ改定になり、特養施設の赤字倒産と低賃金による人手不足が深刻化しました。予定された18年4月報酬改定を待たずに、緊急措置として今年17年4月、「職員の賃上げ財源のために報酬1・14%引き上げ」を実施しました。
 18年介護報酬は「微増」といわれています。利用者負担はわずかですが値上がりします。年金額が280万円以上の所得者の利用者負担は2割に上がったばかりです。
 18年度の制度改悪ですが、まず介護保険制度の〈要支援1と2〉の訪問介護と通所介護は、全国一律の介護保険制度から切りはなされて、市区町村事業になります。
 〈要支援1と2〉の訪問介護・通所介護は、市町村独自の「認定ヘルパー」や住民ボランティアに依存する計画です。ボランティアとは、雇用関係ではなく、最低賃金制と労働基準法、労災保険の適用外におかれます。安倍政権の「税法上の零細企業優遇」とは、雇用関係外の事実上の労働者をアメリカ並みに増やす計画です。「フリーター」が少しも自由でないことは誰でも知っています。善意につけこんだボランティア制度に騙(だま)されてはなりません。
(*介護職場には、ヘルパー1級、ヘルパー2級、国家資格の介護福祉士や、看護師などとともに講習を受け試験に通った資格のない人も働いています。)
 介護施設の人手不足だけでなく、地方病院の医師不足・長時間労働と医療の偏在が起きています。安倍・小池の「働き方改革」は、医師などにさらなる長時間残業を強制します。
(*労働者の国際的団結の日、メーデーの統一要求は「8時間労働制」でした。自然の一部としての人間存在である労働者が、機械に合わせた長時間労働や夜間労働の強制と闘った歴史の産物が「8時間労働制」です。『資本論』は、労働時間の延長による搾取の強化について説得的に暴露しています。)
 増田・安倍の「選択と集中」政策のテコとして医療・介護・福祉が使われています。交通機関と学校と病院がなくなった地方に、高齢者が暮らすことは困難です。
 安倍の新自由主義攻撃の全貌をとらえ、全国的視野、階級的視野で本質をとらえ、必ずや職場の団結を拡大して、全国ゼネストをめざしましょう!
 介護労働者は低賃金・重労働のために離職率が高いとされています。そして介護職場では事故や労災が絶えません。介護職場に必要なのは、医療職場と同じく、働く労働者の仕事への自信と誇り、少しの余裕と喜び、そして仲間とのチーム労働です。しかし現実は真逆の分断支配。事故が起こるべくして起きれば、責任を問われるのは現場労働者です。この口惜しさと思いは、72年船橋事故に対する動労千葉の青年を中心にした団結の背景と共通しています。全国のいくつかの介護事故では動労千葉の〈反合・運転保安闘争〉に学んで、闘いが始まっています。

【終わりに】

世界中の労働者・農民、人々を生かすことができない社会

<資本主義は終わった!> 世界大恐慌(07年パリバ~08年リーマン・ショック)から10年目、いま世界は、政治・経済・軍事など、あらゆる意味でいきづまり、「戦争と革命」の時代に突入しています。
(注*資本主義は19世紀末から20世紀冒頭に、世紀末大恐慌とともに帝国主義段階に入り、第1次世界大戦=帝国主義の侵略をめぐる争闘戦を引き起こし、そのさなかにロシア革命が勝利しました。ロシア革命が孤立し困難に直面したとき、「一国社会主義」論によるスターリン主義的変質が始まりました。スターリン主義の裏切りに助けられて、30年代の革命的激動期を延命した帝国主義は、二度目の第2次世界大戦をしました。そして最期の繁栄期74~75年世界恐慌までの戦後高度経済成長は、アメリカ帝国主義の1975年ベトナム敗戦と共に終わりました。)
 そして始まったのが、資本主義・帝国主義の延命のための新自由主義の嵐です。
 日本では中曽根の1985~87年国鉄分割・民営化が歴史の区切り。しかし、新自由主義は2007~2008年の世界大恐慌で総破綻。その後の世界に今、私たちは生きています。
(注*「資本家階級は、歴史上きわめて革命的な役割を演じた」とマルクスは言っています。しかし、労働者を労働力商品(モノ)とする資本主義の矛盾は、次の世界を準備しました。「資本家階級)はなによりも、自分たち自身の墓掘り人(プロレタリアート)を生みだした。ブルジョアジーの没落とプロレタリアートの勝利は、いずれも不可避である」とマルクス・エンゲルスは『共産党宣言』(1848年)で書きました。今、人類史にとって資本主義は、封建制など旧支配体制と同じく、〈始めがあり終りのある一時代〉だとよくわかる時代情勢です。)
 切迫する北朝鮮をめぐる核戦争を止める道は、「戦争絶対反対」で労働者民衆が団結して、排外主義をあおり戦争に駆り立てる自国政権を打倒し、国境をこえて団結することです。
 韓国民主労総は、ゼネストを呼びかけて当選した獄中のハンサンギュン委員長を先頭にして1800万人の一斉総決起「ロウソク革命」を実現しました。民主労総のように闘えば必ず道は開けます。
 昨年10月の安倍によるクーデター的な解散総選挙と民進党の一夜にしての崩壊、野党連合の敗退、希望の党の凋落(ちょうらく)、そして連合の崩壊的危機は、激動期に生きていると実感させられました。支配階級の側が、今までのようにやっていくことができず、クーデター的手法に訴えているのです。国鉄分割・民営化で総評が崩壊し、作られた連合は30年目にして労働組合の戦争動員機関化をめぐって崩壊の淵に立っています。労働組合運動が動く時、間違いなく歴史の転換期です。
 トランプや安倍のような現状破壊的手法で戦争・改憲、そして労働法制・社会保障制度を破壊する攻撃に対して、受け身で抗議するだけに終わらず、国鉄分割・民営化の時に動労千葉が立ち向かったように敵の攻撃をみすえ対峙・対決し、団結かためて活路を見出しましょう。
 労働者が自らの力に目覚め、韓国のように実力で立ち上がることだけが勝負になる時代ではないでしょうか。自らの力を確信し、人間として、労働者としての誇りをかけて、仲間を信頼して団結しましょう。
 満身創痍(まんしんそうい)になりながら一人の仲間も見捨てない団結の力で国鉄分割・民営化と闘い、第2、第3の分割・民営化攻撃と真っ向闘っている動労千葉・動労総連合に学び直しましょう。自分一人の決起から始め、粘り強く階級的労働運動を職場で組織し、そして組織しましょう。
 安倍の戦争と改憲、労働法制と社会保障解体を阻む、岩盤のような階級的大衆的力を築きましょう!