労働組合運動の基礎知識第54回 兼業・副業の解禁は8時間労働制の解体

2019年7月31日

月刊『労働運動』34頁(0349号16/01)(2019/04/01)

労働組合運動の基礎知識 第54回
兼業・副業の解禁は8時間労働制の解体

兼業・副業の解禁は8時間労働制の解体

 4月1日より「働き方改革」関連法が順次施行になる。3月9日の「東京新聞」朝刊は一面で「副業・兼業解禁」問題を全面的に取り上げた。この記事の内容は極めて重要だ。
 「各社で残業ゼロ 足すと過労死ライン」「副業来月『解禁』安全網に不安」「兼業の労災法規定なく」というのが3本の大見出しである。
 わかりやすい例として挙げているのが本業のA社で週40時間、月に160時間働き、副業のB社で週25時間、月100時間はそれぞれの会社では法定労働時間に収まっているが、合計すると時間外労働は100時間になり、過労死ラインの80時間を優にこえ、100時間規制にも違反することになる。
 現行法の労災保険や雇用保険は、複数の企業で働く労働者の労災をどう認定するかの法律がない。二つの企業の労働時間を合算して労災認定はしないので、過労死しても労災認定はされない(労働者災害補償保険法)。副業の労災を巡っては2015年の大阪高裁判決が本業と副業の合算を認めない判断をしている。しかし、4月1日施行の厚生労働省の指針は罰則付き残業規制については本業と副業の労働時間を合算して判断するとしている。そうであれば、労災だけ合算しないというのは大きな矛盾である。
 また、仮に労災認定されても給付額の算定は労災が生じた事業所のみの賃金をベースとする。本業の方で月30万円、副業で月5万円の賃金を得ていて、副業の方で労災にあった場合は5万円×0・8=4万円が給付額となる。労災給付は通常の賃金の0・8倍のためこういうことになる。
 副業を禁止する法規制はないために、賃金が低い職場の労働者はダブルジョブ、トリプルジョブを強いられている。しかし、労災にあった場合の現行法は以上の仕組みになっている。
 多くの企業は厚生労働省が示した「モデル就業規則」において「許可なく他の会社等の業務に従事しない」という項目が入っていて、この兼業禁止の就業規則が解雇の理由になって争われた事案も多々ある。厚労省は2018年1月に改訂モデルを公表し、前項の兼業禁止の内容を削除して「勤務時間外に他の会社等の業務に従事できる」という副業を奨励する内容に転じた。
 この兼業・副業解禁は8時間労働制の解体そのものであることは火を見るよりも明らかだ。同時にこれは賃金を労働力の再生産ができないまでに引き下げる攻撃と一体である。8時間の2倍の労働をして8時間分の賃金しか得られない仕組みを促進しようというのだ。兼業・副業とはA社で22時~翌朝6時まで仕事をして、B社で8時~17時まで仕事をする場合があるということである。兼業・副業禁止は過労死、労災事故を防ぐ意味でも重要だった。こうなると終業時間と始業時間の間に11時間のインターバルを設けるという「インターバル規制」や100時間未満の残業規制も全部まやかしになる。働き方改革関連法は職場の闘いで実態的に粉砕していくことが必要だ。

小泉義秀(東京労働組合交流センター事務局長)