労働組合運動の基礎知識第61回 付加金について

労働組合運動の基礎知識 第61回

付加金について

現在、東部ユニオンのある分会で、未払い残業代の件で団体交渉を行っている。ここの会社では時間外手当が支払われてこなかった。休日出勤の手当も未払いである。これらは2年前までさかのぼり、時間外手当、休日手当の計算をして支払われることになっている。社長はその非を認め、今まで雇っていなかった社労士を雇い、計算を行っている。割増賃金の不払いは労基法37条違反として、使用者は6か月以下の懲役または30万円以下の罰金である(労基法119条)。
さらに労基法114条は、「金銭給付の中で特に重要なものについて、それが支払われないときは刑罰と別に、未払金と同額の付加金の支払いを労働者の請求によって裁判所は命ずることができる」と定めている。付加金の請求ができるのは、①解雇予告手当を支払わない場合(労基法20条違反)、②休業手当を支払わない場合(労基法26条違反)、③割増賃金を支払わない場合(労基法37条違反)、④年次有給休暇の賃金を支払わない場合(労基法39条違反)の4つである。未払賃金と同額の付加金なので倍返しということになる。これらの4つの労基法違反は罪が重いということだ。付加金は、会社が賃金や残業代を支払わなかったことに対する制裁金としての意味合いを持つ。罰金のようなものと言えよう。
未払い残業代が発生した時は、その未払金や遅延損害金・遅延利息のほかに付加金を会社に請求することができるのであるが、付加金を獲得するためには確定判決を得ることが条件である。しかし、会社側と交渉して解決するケースが多く、訴訟を起こして確定判決に至るケース自体が少ないため、付加金が支払われるケースはあまりないのが現状だ。
その上で、この付加金という罰則規定があることについて経営者にきちんと知らしめることは重要である。東部ユニオンの団体交渉においてもそのことについてはしっかりとクギをさしておいた。のんびりと構えられては困るからだ。
付加金をめぐる裁判の判例として有名なのは、2014年3月6日の「株式会社ホッタ晴信堂薬局事件」の判決である。ここで最高裁は「原審の口頭弁論が終わる前の時点で会社が未払い残業代を完了して、支払い義務違反の状態を解消したのだから、裁判所はその未払い残業代にかかる付加金の支払いを命じることはできない」と述べている。第2審終了までに未払金が清算されれば、付加金の請求はできなくなるということだ。第1審で確定判決が出ても、当事者のどちらかが控訴した場合、第2審の口頭弁論終結までに会社が未払いの賃金・残業代を精算すれば、付加金の支払いを免れると解釈されている。団交で決着をつけるのが一番だ。
小泉義秀(東京労働組合交流センター事務局長)<