職場における労働法と諸制度を考える 連載第1回 どんな職場にも闘いの手掛かりはある

(写真 1830年代のイギリスのチャーチスト運動)

どんな職場にも闘いの手掛かりはある
闘いなくして権利なし

白井 徹哉(合同・一般全国協議会事務局次長)

今号から、職場における労働法規や諸制度について実践的に考える連載を始めます。
どんな職場でも闘いの手掛かりが必ずあるはずです。職場の矛盾や弱点を見つけ出して闘いの糸口にしたい――そういう気持ちで賃金や労働時間などの労働条件を規定する労働基準法や労働契約法などの労働法、安全衛生委員会や機械や危険物などの規制などの安全衛生の諸制度、労災保険、医療保険などの社会保険制度などについて実践的にチェックしたいと思います。
地域合同労組やユニオンの運動にとって団結権・団体交渉権・団体行動権の労働基本権(労働3権)を擁護し、活用し、強化する闘いは当然として、〈労働者の権利を擁護する闘い〉は必須課題です。それは職場闘争において動労千葉の「反合・運転保安闘争」的領域と並ぶ職場実践の重要な要素ではないかと思います。
試行錯誤ではありますが今号から『実践の手引き・労働基準法』(西村卓司・古谷杉郎著・1991年)や『労働法第12版』(菅野和夫著・2019年)などを参考文献にして勉強しながら書いていきます。皆さんのご意見・感想もお願いします。

職場闘争の出発点

職場闘争の出発点として、労働基準法・労働安全衛生法などの諸法規と就業規則・労働契約の読み込みは大切なことだと思います。それだけで法律違反をいくつか発見できるはずです。会社の門をくぐってから出るまでの自分の行動を注意深く検討することで、さらに多くの法律違反や権利放棄の事実に気付くはずです。
憲法27条第2項「賃金・就業時間・休息その他の勤労条件に関する規準は法律で定める」を受けて労働条件の最低基準を定めたのが労働基準法です。
個々の労働契約や各事業場の就業規則に関わりなく、すべての労働者の労働条件の最低基準を強制的に定めています。労働基準法が〝労働者保護法〟と言われる由縁です。
労働法は、百年を超える長い労働者階級の闘いによって生まれたものです。法律それ自身が自立的に展開して労働者を保護しているわけではないことには留意する必要があります。
労働者と労働組合の存在は労働法以前の存在であり、労働者の権利は闘いによってかちとったものなのです。それは階級闘争と力関係によって前進も後退もするのです。〈闘いなくして権利なし〉です。

民法に優先される

労働法が民法と競合する場合は労働法が優先されます。
民法の世界では、法の前に万人が平等であるという建前で〈契約の自由〉が原則とされます。労働者も資本家も平等・対等なのだからどのような労働条件を定めようが自由なのだというわけです。
しかし資本主義の世の中ではそれはうわべだけの話です。労働者を解雇する資本家と解雇される労働者が一対一の関係で対等・平等であるとの説明はとうてい納得できません。労働者が徒党を組んで賃上げなどを要求することは、「契約の自由」を侵害する犯罪行為だとされた時代が何百年も続きました。
「契約の自由」をタテにした資本家の支配や権利侵害に対して世界中の労働者の何百年もの長い闘いによって、団結権(労働組合)を認めさせ、労働者の生活や権利を保護する労働法が生み出され、それは民法に優先されるようになったのです。
「資本家も労働者も一対一の対等・平等」とする最近の傾向には本当に警戒が必要です。07年には労働契約法が施行され、「労働契約は労働者と使用者の合意が原則なのだ」と強調されるようになり、ますます労基法が後景化されています。
本人が同意すれば労働時間規制は適用除外できる高度プロフェッショナル制度や使用者の雇用責任を回避する非雇用型の働き方なる安倍政権の論議はきわめて危険です。

労働条件の最低基準

労働基準法の大半の条文は強行規定です。
強行規定というのは、当事者の意思や状況にかかわりなく無条件に適用される法規ということです。労基法違反の企業は刑事罰となり、法律の規準に達しない労働契約はその部分については無効となり、労基法の最低基準が適用されます。労働法以外の法律では、違法の部分は無効のままで空白になるのとはずいぶん違います。
しかし、その内容がやはり最低基準にとどまっているのは、これが資本家の譲歩の限界だということです。
そもそも産業革命後の英国で最初に工場法が制定されたのは、資本家の熾烈な競争によって長時間労働や児童労働がエスカレーションして労働者の健康悪化と平均寿命低下が深刻化し、そもそも資本主義として維持できなくなる危機に陥ったからです。
最低基準の設定は実際には資本家の利益にためにあることも忘れてはならないと思います。日本の労働者の現状が、最低基準の遵守をめぐって争われている現状は悔しい限りですが、ともかくもここが出発点です。
くりかえしになりますが、労働基準法や労働安全衛生法、労働契約書や就業規則を読み込むことは、職場で闘いを開始するにあたって、適切な闘争課題、闘争形態を選び出すために重要な作業だと思います。労働者が警戒すべき点、利用できる点を知ることは大切なことです。
防御的な形態の闘いという面もありますが、最低限度の法律を守らせる闘いは、労働基準監督署の活用なども含めて闘いに習熟し、闘いで職場の状況を変えることができることを周りに示すことで、より攻撃的な闘いに発展させることもできます。
そういうスタンスで次回から、様々な法律や制度について考えていきます。