労働組合運動の基礎知識 第19回

2019年7月31日

月刊『労働運動』34頁(0314号10/01)(2016/05/01)

労働組合運動の基礎知識 第19回



小泉義秀(東京労働組合交流センター事務局長)

「同一価値労働同一賃金」再論

 UAゼンセンの157万の組合員の半数以上は、正社員より時間が短い短時間労働者であり、フルタイムの「契約社員」、派遣社員、有期労働契約の非正規雇用労働者を組織し、「路線」として「同一価値労働同一賃金」を掲げている。松井健(UAゼンセン・政策・労働条件局・常任中央執行委員)は、賃金については「賃金決定において生計費を反映することを一概に否定することはできないが、少なくとも基本賃金は狭義の労働の価値に応じて決定し、生計費の反映は手当で行うよう整理するべきと考える」「生計費の配慮は、社会保障で行うという方向性が望ましい」と述べている。
 彼が述べていることは、賃金は労働の対価だから、たいした価値を生まない労働をしている者はその対価に応じた賃金しか得られない、したがって労働者と家族が生きていくに足りるだけの生活費としての賃金は得られない。そのために社会保障があるというのである。
 「同一価値労働同一賃金」論者は、戦後の電算型賃金体系を批判する。生活給という考え方を基礎とした戦後の電算型賃金体系は、家父長的家族制度を基盤にした女性差別賃金制度である、だから個々人の労働者の職務を正当に評価して、職務の価値に応じた正当な価値を支払う「同一価値労働同一賃金」が、差別のない賃金制度だと主張する。
 確かに日本の女性労働者の平均賃金は、男性の賃金を100とするとその60%足らずである。戦後の労働組合の賃金要求が、家父長的家族制度を前提にしたものであったことに間違いはない。大手企業においても男性と女性の労働者の賃金に差別があるのは事実である。しかし、だからといって「同一価値労働同一賃金」がその差別賃金打破の正しいあり方ということにはならない。
 職務評価を点数で採点して、①知識・技能、②責任、③精神的・身体的な負担と疲労度、④労働環境の4つに、それぞれ40%、15%、30%、15%とウエイトを割り振り、400点、150点、300点、150点=1000点満点でYさんはS管理職との職務評価を比較し、100対107のほぼ同等の価値労働であることを立証し、京ガス賃金差別裁判は勝利する。
 しかし,このやり方は能力主義・成果主義そのものだ。こういう手法をとって全労働者を非正規化し、女性差別の生きていけない低賃金の方に,全労働者の賃金を下げる論理に使われようとしている。だから安倍やUAゼンセンはこの賃金制度を推奨するのだ。だが、こんな論理は非正規労働者の反乱で粉砕することができる。合同・一般労働組合全国協議会はそのために全力で闘う。
 労働力が商品であり、労働者の労働が賃労働という形態をとっているのが資本主義社会である。この労働力商品の再生産は、労働者が生活手段を消費することによってなされる。したがって、労働力の価値は、労働者が生きて生活し、労働することのできる必要生活手段の価値によって間接的に決定される。さらに、この労働力の生産に必要な生活手段の価値には子どもの生活手段も含んでいる。賃金闘争は、このマルクス主義の立場に立たなければならない。