労働組合運動の基礎知識第45回 1年単位の変形労働時間制

2019年7月31日

月刊『労働運動』34頁(0340号17/01)(2018/07/01)

労働組合運動の基礎知識 第45回
1年単位の変形労働時間制



 前回は1か月単位の変形労働時間制について書いた。今回は1年間の変形労働時間制について。
 1年間の変形労働時間制は、1か月以上1年未満で労働時間を設定する変形労働時間制だ。基礎になる労働時間は365日2085.7時間、366日(閏年)2091.4時間である。
 1年単位の変形労働時間制は極端な話、閑散期に丸々休ませて、繁忙期に31日全部働かせるようなことがないような制限がある。1年あたりの労働日数280日(年間休日85日)、1日あたりの労働時間10時間まで、1週間あたりの労働時間52時間まで。
 原則連続で労働できる日数は連続6日、特定的に連続で労働できる日数は1週間に1日の休み(最大連続12日)であり、これらを元に、会社ごとに就業時間が定められる。
 1年単位の変形労働制は、1年間の各日の労働日について法定労働時間内に収まるように(週の平均40時間以内)所定労働時間を設定した上で、これについて労使協定(労働者の代表との協定)を結び、それを労働基準監督署に提出しなくてはならない。
 前回も確認したことであるが、変形労働時間制と言っても、就業規則で定めた労働時間を変動することはできない。例えば、7時間と所定労働時間で定められて、1日に8時間働いてしまったからといって、「翌日の所定労働時間を1時間減らして残業していない」ということにはできない。
 簡単に言えば、7時間が所定労働時間の日に8時間働いたのであれば、1時間残業したことになるし、10時間の所定労働時間の日に10時間働いても、残業をしていないことになる。仮に所定労働時間以内に退勤したのであれば、早退扱いになる。
 小池都知事が東京都労働組合連合会(都労連)解体のために、東京の国家戦略特区特別区会議で提案し、今でも固執しているのが東京都の職員の年間変形労働時間制の適用である。
 年間変形労働時間制は、地方公務員法58条3項で、地方公務員には適用できないことが明記されている。小池は、東京都の職員だけ特別にこの規制から外して、年間変形労働時間制を適用できるように東京の特区会議で提案した。
 このことは都労連の頭越しである。本来ならば、労働時間に関わることは都労連との交渉事項である。小池は都労連との交渉ではなく、国家戦略特区法を使って、特別に東京都の職員だけ労働基準法の適用から外させる要求を特区会議で提案し、今でもその主張を堅持している。
 労働基準法そのものが特区を使って骨抜きにされるのである。都の職員だけ特別に違う法律が適用されることになる。こういうことが全国でまかり通れば「労働基準法とは何か」「憲法とは何か」が根底から問われる。法の下での平等という建前は投げ捨てられるのである。
 酷い会社の場合、この1年間の変形労働時間制を導入しているからと、無制限の変形労働時間を強いて残業時間を減らそうとする。しかし上述したように、年間変形労働時間制の場合は1日10時間、週52時間の制限がある。この点に留意することが重要である。
 小泉義秀(東京労働組合交流センター事務局長)