「 10 万円給付」で暴露されたマイナンバー制度の本質

5月14日時点でコロナ解雇・雇止めの労働者7428人。4月7日時点の4倍以上に急増(厚労省まとめ)の新聞記事。これからもっと増えることは必至です。補償なき「緊急事態宣言」がこの事態を招いているのです。
その安倍政権が打ち出したのが、使えない「アベノマスク」と「国民一人10万円特別給付金」です。たった1回の10万円の給付でどうやって生活しろというのか? この「10万円支給」をめぐり、政府が「給付金を早く受け取るにはマイナンバーカードによるオンライン申請を」と宣伝したことにより各自治体の窓口には住民が押し寄せ「3密」状態になり、職員は感染の恐怖に怯えながら長時間労働を強いられています。

10万円給付と自治体業務

まずこの事業を行うために、各職場から職員が剥がされ、給付体制が作られています。すでに保健所への応援(兼務発令)や各種給付金や貸付などの業務に連日兼務発令が行われています。まったく人が足りない。しかも感染拡大防止のために5割、7割など自宅待機が要請されているのです。すべてが安倍のコロナ対策が招いているのです。100%の賃金補償と休業補償が行われれば必要ない兼務発令です。
次に10万円給付をめぐり何が起きているかです。給付が世帯主の口座振り込みのため、様々な理由で世帯分離をしたい人が窓口に。一刻でも早く給付を受けたいとマイナンバー申請に来る人、すでにマイナンバーカードを取得している人で申請しようとしたが暗証番号を忘れた人、間違って番号を5回入力し申請できなかった人などが再登録に訪れるなど大混雑し、1時間2時間待ちは普通で4時間かかり、窓口の受付を午後1時で終了なども起きました。システムがダウンし、窓口でどなりだす住民への対応と職員は疲労困憊状態です。
さらにマイナンバーで申請しても、給付が世帯主のため、どの世帯の人なのか照合する作業に時間がかかり、郵送で申請した方が早く給付金を受け取れることになるかもしれないと言われています。現場を知らない政府の宣伝がこうした事態を招いたのです。

マイナンバー制度とは

自治労は1970年代からコンピュータ合理化反対運動を展開し、80年代には住民票(住民基本台帳)の電子化合理化反対運動が全国で起こりました。ところが90年頃、連合・自治労が「労働者や市民にとって不公平な税制度」を公平にするために「納税者番号が必要」となり国民総背番号制導入を推進する立場になっていったのです。
09 年民主党政権時に「社会保障と税の一体改革」にマイナンバーをと一気に進みますが、政権は崩壊します。その後第2次安倍内閣がよくぞ民主党やってくれたと全部いただき、さらに中身を大幅に管理制度に変えて法制化されました。
マイナンバーに健康保険や預金口座、読書傾向まですべての個人情報をひもづけし一元管理し、徴兵制までいきつく戦争のできる国つくり、改憲攻撃です。今は、取得を強制できません。
個人情報漏洩への危惧もあり、19年1月段階でカード取得率はわずか13%。焦った政府は昨年一年間、公務員とその家族に全員取得させようとしましたが、それほど取得率は上がっていません。ただ、中央省庁に勤務する国家公務員は、職場に入る時のタイムカードとマイナンバーカードが一体とされたため
取得強制になっています。そして今、コロナ禍を使って取得率アップが策動されているのです。

マイナンバーとAI合理化

私たち東京労組交流センター自治体労働者部会は、マイナンバー制度が自治体職場に何をもたらすのか、具体的に各職場の仕事内容から話し合ってきました。
例えば、東京都の「難病申請」にマイナンバーカードを使えば課税証明・住民票は提出する必要はないとされましたが、東京都は住民票・課税証明をその場で見ることはできないため、所轄の区に照会しなければならず従来より時間がかかります。照会する東京都、問い合わせを受ける区の側でも負担増です。
あるいは医療費控除額について「同じ役所なのに、わからないのか!」と言われても、税務課では区民がどこの病院にかかってどれだけ医療費がかかったかはわかりません。医療情報はプライバシーなので、自分で申告しないと、医療費控除は受けられないのです。マイナンバーで面倒な「申告」はいらなくなっても医療情報は丸裸でいいのでしょうか。縦割りのお役所仕事だから守られていることもあるのです。

合理化と改憲は一体の攻撃

3月5日、平将明副内閣相は参院予算委員会で「マイナンバーカードをしっかり普及させれば、ITを活用して災害時や緊急時にマスクなどの物品を国民に普及させることは技術的に難しくない」と答弁。保健所業務の負担軽減のためにネットやAI(人工知能)導入をとか、4月15日にはAI・顔認証技術による「スーパーシティ構想」、5月1日には「コロナ対策の業務体制確保のために会計年度任用職員を」と矢継ぎ早に合理化、非正規化が叫ばれています。自治体業務をバラバラにし、ある部分はAIを使い、ある部分は熟練を必要としない非正規にして住民生活の安全を破壊する攻撃です。デジタル化で効率化など絵にかいた餅です。狙いは公務員労働者の非正規化と国家に逆らわない公務員労働者づくり、労働組合をつぶして戦争・改憲する攻撃です。
現場のことは現場の労働者が一番わかるし、住民の求めることもわかります。今こそ、全国でたたかう自治体労働組合の出番です。職場から労働組合を甦らせましょう。

『月刊労働運動』6月号掲載 東京労働組合交流センター自治体労働者部会