理論なくして闘いなし 闘いなくして理論なし第26回「働き方改革とは何か」(後半の1)

理論なくして闘いなし 闘いなくして理論なし 第26回

「働き方改革とは何か」(後半の1)

山本 志都(弁護士)

6月15日の動労千葉労働学校で山本志都弁護士が講演した「働き方改革とは何か」を3回に分けて、編集して掲載します。 (資料は文末に掲載)

●評価制度による格差の容認・固定化~「同一労働同一賃金」

「長時間労働の是正」と標榜されている労働時間の問題の次に、耳当りのいい「同一労働同一賃金」の問題を取り上げましょう。
「同一労働同一賃金」というと当然の、いいことのように思えますね。特に、入り口で非正規として雇用されると、その後ずっと正規と比較して劣悪な処遇となる、という多くの非正規労働者がおかれている状況からすれば。しかし、今回の「同一労働同一賃金」は、同じように同じような価値の仕事をしたから同じように賃金をもらうというものではないのです。
そのことは「働き方改革会議」に出された資料6などをみると分かります。この会議には、りそなグループの新屋和代さんという、執行役員・人材サービス部長が参加していますが、「同一労働同一賃金システム」というのを会議で紹介しています。「りそなでは皆さんにさきがけて同一労働同一賃金をやっています。これを参考にして下さい」
ということで出された資料です。社員とスマート社員とパートナー社員という種別がある。 職務給というのは同じで、昇給もあります。賞与とか退職金、福利厚生に差をつける。責任や負担感は社員の方が重く、スマート社員やパートナー社員は軽いと書かれていますね。 職務グレードについては全部共通のものさしで測ります。 物差しで測って職務グレードというのを1から14までつけ、成績表のようなものを作る。 成績表によって職務給がみんな一律に決まっていく。そこからの上乗せが、社員、スマート社員、パートナー社員で差をつけるというものなのです。「当社の人事制度の特徴は、 社員、スマート社員(限定正社員)、パートナー社員(パートタイマー)に共通の職務等級人事評価制度を適用していることで同一の職務グレードであれば職務給(基本給)が同額となります。これが当社の考える『同一労働同一賃金』になります」と書かれています。
つまり基本給のようなものは共通にするが、評価は全員を対象とし、処遇の面では差をつけていきますというのがここでいう「同一労働同一賃金」の考え方です。そういうことを進めている人をわざわざ会議に連れてきて、 発言をさせて、「働き方改革」を推進する、つまり、ここでの「同一労働同一賃金」は、隣で働いてる人と同じ労働に従事すれば同じ賃金を支払われるということとは全然違うということが分かりますよね。
クレディセゾンで「役割等級制度」という仕組みをとっていると新聞に掲載されていました。これも似たような意味です。 正規でも非正規でも5段階等級でその評価を反映する。つまり正規でも非正規でも区別なく成績表を出し、その成績表に基づいて評価をする。 つまり評価制度が前提になる「同一労働同一賃金」なのです。
厚労省の作成した「同一労働同一賃金のガイドライン」資料7を見てください。「基本給について労働者の職業経験・能力に応じて支給しているA社において、ある職業能力の向上のための特殊なキャリアコースを設定している。無期雇用フルタイム労働者であるXは、このキャリアコースを選択し、その結果としてその職業能力を習得した。これに対し、パートタイム労働者であるYは、その職業能力を習得していない。A社は、その職業能力に応じた支給をXには行い、Yには行なっていない」というのは問題ない、としています。ガイドラインが責任逃れをする仕組みを教えてくれているわけです。
資料7の前文には「ガイドラインを作る目的」が書いてあります。6項目には「このような正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差の解消の取り組みを通じて、どのような雇用形態を選択しても納得が得られる処遇を受けられ多様な働き方を自由に選択できるようにし、我が国から『非正規』という言葉を一掃することを目指すものである」と書かれています。 ここでは、「不合理じゃなきゃいい」と言っています。「雇用形態を選択できる」ことを前提にして、労働者の方が「こりゃしようがない」と思えば、それは不合理な差別にならないと言ってしまっています。例えば「キャリアコースを設けてそこでは研修をやるけど、パートは研修を受けさせない」という仕組みを作っておけば、「研修を受けてんだからしようがない」とパートさんが納得するだ
ろう。そういう納得させるような仕組みを作っておけばいいともいう逃げ道です。一番突っ込めるところは「わが国から非正規という言葉を一掃する」というくだり。「非正規労働者を一掃する」とは決して言わない。「『非正規』という言葉を一掃する」と言うわけ。「正規」があるから「非正規」もある。「非正規」という言葉がなければ「正規」もない。
トヨタの社長が「65歳まで雇うような終身雇用制はもう維持が難しいんだ」 と最近、言いました。トヨタは日本を代表する資本です。この意思表示は資本の全体の意思の反映です。 資本はもう「正規労働者を雇用し続けるという形は維持ができません」と言ったのです。「だから様々なコースを選択して(と言っても私たちが選択できるわけではないのですが)、コースがあるかのような形をとって、正規や非正規ではない多様なコースがある」という形で多様な働き方があると言っているわけです。
日本郵政では正規の手当が削減されたということがありました。資料8を見てください。 2018年4月の朝日新聞の報道です。「日本郵政グループが、正社員のうち約5000人の住居手当を今年10月に廃止することが分かった。この手当は正社員にだけ支給されていて、非正規社員との待遇格差が縮まることになる。『同一労働同一賃金』を目指す動きは広がりつつあるが、正社員の待遇を下げて格差の是正を図るのは異例だ」とあります。廃止対象は原則として転居を伴う転勤のない条件の正社員つまり限定正社員です。年に30万円以上の減収になるのです。「廃止のきっかけは民間の単一労組で国内最大となる日本郵政グループ労働組合(JP労組 組合員数約24万人)の今春闘での要求だ。同グループの社員の半分ほどは非正規社員。非正規社員の待遇改善を図る同一労働同一賃金の機運が高まっているとして、正社員だけに認められている扶養手当や住居手当など五つの手当を非正規社員にも支給するよう求めた。これに対し、会社側も組合側の考え方に理解を示して『年始勤務手当』については非正規社員への支給を認めた。一方で『正社員の労働条件は既得権益ではない』とし、一部の正社員を対象に住居手当の廃止を逆に提案。組合側は反対したが、廃止後も10年間は一部を支給する経過措置を設けることでおりあった。今の支給額の10%を毎年減らしていくと言う。さらに寒冷地手当なども削減される」
要するに、非正規の待遇を良くするのではなくて正規の待遇を引き下げてあわせていくということです。日本郵政も分割・民営化で新自由主義の一つの典型となった国鉄と同じような、ある意味日本を代表するような会社です。組合員の多い大きな組合もあるわけですが、こうしたことが起きています。これが民間の会社にも大きな影響を及ぼしています。
「同一労働同一賃金」について、一億総活躍プランでは「職務内容、成果、意欲、能力または経験などを公正に評価」とか「正規か非正規かに関わらない均等・均衡待遇」とか言います。これは職務内容、成果、意欲、能力または経験などを資本家が評価する、そしてそれに基づいて評価された結果であれば、「同一労働同一賃金」の考え方から外れないということです。
本来、賃金については「生活給」、生活を維持するために必要な金銭的給付という考え方があったはずです。その上で賞与などがありました。そのような要素は考慮されていません。働かせる側が要求しているのかということにどれだけ応えられたかということで賃金を決めていくとなってしまうわけです。
昔の職場では、できる人もできない人も、得意や不得意もあり、みんなが補い合いながら働いていました。今はそういうことが許されない。資本側が要求する能力をどれだけ持っているかということで評価されるということは、労働者の側もどうすれば評価されるかという形で動くようになります。すると労働者間に分断が生まれてきます。
これまでは労働組合が評価制度に色々反対をしてきた。それは労働者間の分断を許さないということが前提にあるからです。それが全面的に否定される。能力主義ということが前面に出てしまう。評価されたことによる格差というものは容認されてしまう。そういう意味でこの「同一労働同一賃金」というのは非常なまやかしがあるのだと思います。

●労働者性のはく奪~「柔軟な働き方」

2017年12月25日、「柔軟な働き方に関する検討会」というのができました。ここで語られたことが、今、大きな問題になっています。テレワークや副業・兼業です。
時間とか場所とか空間に縛られないような働き方がテレワークです。具体的には、在宅での仕事、本社以外に設置されたサテライトオフィスに集まって仕事をする、あるいはモバイル通信機器を使ってやり取りをするなどの働き方です。
副業・兼業は、「主体的に自らの働き方を考え選択できる」ような仕事の仕方として推奨されています。「副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方に関する検討会」が厚労省にできていて、 6月にも第7回の会議が行われています。
労働者側で労働事件を受けることが多い弁護士の団体、日本労働弁護団は、以下のように緊急声明を出しています。
「厚生労働省は、現在、労働政策審議会において、複数就業者への労災保険給付の在り方について現行制度の見直しを進めるとともに、副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方に関する検討会において、副業・兼業労働者の労働時間管理の具体的方法に関する検討を進めている。/2018年1月に厚生労働省が発表した副業・兼業の促進に関するガイドラインにおいては副業兼業のメリットとして『労働者が主体的にキャリアを
形成することができる』『自己実現を追求することができる』といった点が挙げられこれにより国家的政策として副業・兼業が推進されようとしている。/しかし、『新たな産業構造に対応する働き方改革に向けた実態調査』(平成28年度経産省委託事業)によれば、労働者が副業・兼業に従事する理由として最も多く選ばれた理由は、十分な収入を得るため(約45%)であり、事実、雇用者全体の平均年収と比べ年収額が低いものが副業・兼業に従事する傾向が見られる。総務省の平成29年度就業構造基本調査によれば、正規職員の副業者比率は2%であるのに対し非正規職員の副業者比率は5・9%と多い傾向が見られ、追加就業希望者比率も前者は5・4%である一方で、後者は8・5%と、非正規雇用労働者の方が数多く副業への従事を希望している傾向が見られる。/雇用者全体における年収299万円以下の者の割合は約半数を占めるに至っている。 ここから浮かび上がるのはもはや日本社会においては本業だけでは生活をしていくのに十分な
収入を得ることができないためやむなく副業・兼業を余儀なくされている労働者の実態である。/政府が副業・兼業のかかる実態を無視しキャリア形成や自己実現追求という明るい側面のみを強調して副業・兼業を積極的に推進することは許されない。政府がまず行うべきは本業に1日8時間従事すればきちんと生活できるだけの収入がえられるようにするための労働政策(最低賃金の大幅な引き上げなど)を検討実施していくこと
である。/その上で、副業・兼業を認めるにしても、副業・兼業労働者の長時間労働を抑制し、副業・兼業労働者の生命健康を保護するべく、本業先・副業先には客観的な方法でそれぞれの就業先における労働時間を把握させ、長時間労働が認められる場合には労安法所定の健康管理措置を実施することを義務付けると共に、労基法38条の遵守を厳格に義務付けるべきである」
副業・兼業をするということは、本業をやりながら他の所で働くということです。8時間働いていて残業規制というのは本業の方ではあるかもしれませんが、副業がされている職場では具体的には分かりません。お互いに分からないというのは、つまり時間管理ができない状態になるわけです。働く時間が野放図に増えてしまう。過労死とか問題が起きた時にどちらが責任を負うのかが分かりにくくなりますが、そういった問題点に対してどういうふうに整理していくのかという考え方が今全然法整備ができていません。
「また、現状の労災実務では副業・兼業をしていたとしても本業先と副業先との労働時間の通算が認められていない上、労災の支給額の算定は労災に遭った勤務先から得ている賃金のみをもとに行われている。そのため、本業と副業と合わせて過労死ラインを超える長時間労働をしていたとしても、労災としては認められない上、仮に労災認定がされたとしても労災に遭う前の賃金保障はされないため、被災者は生活の困窮に局面することになる。これでは、安心して副業・兼業に従事することなどできない。国家的な方針として副業・兼業を推進していくのであれば、これまでの実務運用を改め、万が一労災に遭ってしまった場合の補償をきちんと行うための法整備を進め進めていく必要がある」
「加えて、副業・兼業が社会に浸透し、就労時間の短い雇用が乱立すれば現場の雇用保険や社会保険の加入要件を満たさない労働者が増えていくことが予想される」
つまり雇う側はこま切れで、1日3時間とか2時間とか働いてくれればいいということです。そういう細切れの方が使用者にとって使い勝手がいいのです。それを組み合わせていくことによって、調整ができたり、バランスをとることができるわけです。そうするとそういう雇用ばっかりになってしまって、1日8時間というまとまった形での雇用が確保されないようになってしまうのです。
この緊急提言はこういう雇用形態そのものに反対するという形にはなっていませんが、現状をこのまま進められたら大変なことになってしまいますよということを具体的に指摘しています。
厚生労働省の中の雇用環境・均等局在宅労働課というところから、「雇用類似の働き方に関する検討会」で現場の「働き方について」と出されているものがあります。「柔軟な働き方がしやすい環境整備」を進めていく、とされています。
「雇用類似の働き方に関する検討会」の「雇用類似」という意味は、雇用に似ているけれどもそうではないということです。
クラウドソーシングと言われる業種があります。例えば、自動車の配車とか、飲食物の配送、ハウスキーパー派遣、ネットで手配するものが多く紹介されています。
配車アプリの「ウーバー」というのも話題になっていますね。現在、個人でタクシードライバーをしようとすれば、特別な免許が必要ですが、そういう資格要件をなくしてしまう。「会社が雇ったタクシードライバーがいつでもどこでも迎えに行きます」という仕組みです。海外では今、これまでのタクシーを席巻する勢いだということです。
東京では「ウーバーイーツ」というのが流行っています。例えば、定食を出すチェーン店の「大戸屋」がウーバーイーツと契約しているそうです。顧客が弁当の手配を頼むと、大戸屋はウーバーイーツ本部に連絡をする。ウーバーイーツは注文が来た大戸屋の店の近くにいる配達員に連絡をして、何分以内に行けるか確認をして、取りに行かせて指示通りに配送させる。つまり大戸屋が直接出前をするのではなくウーバーイーツに登録している運転手に出前をやらせるわけです。そういう仕組みです。人を雇わないで出前ができる、お店にはそういうメリットがあるわけです。
最近、「ウーバーイーツ配達員労組結成目指す」と、NHKで報道されました。
「飲食員の従業員に代わってあらかじめ登録した一般の人が料理をお客の元に配達する代行サービス『ウーバーイーツ』をめぐり、配達員たちが労働組合の結成を目指すことになりました。6月12日に東京渋谷で開かれた会合には、配達代行のサービスウーバーイーツの配達員で、労働組合の結成に関心のある人のほか、既存の労働組合の役員や弁護士など合わせておよそ30人が集まりました」。 この配達員というのは、従業員ではなくて個人事業主としてウーバーイーツに登録している。そうすると配達中に事故を起こしても怪我をしても補償はない。つまり労働者ではないから労災保険に入っていない。そのことが課題として指摘されているほか、 報酬額が加算される基準や仕事の依頼基準が明らかになっていないという声が上がっています。
労働組合は労働者が加入するとなっていますが、個人事業主だと労働組合は結成できないのかという問題が直接的に議論されています。
「ウーバーイーツはアメリカのライドシェア大手ウーバーが運営するサービスです。ライドっていうのは乗るということで、それをシェアすることで世界にウーバーイーツは展開しています。3年前に日本でサービスを開始して、現在は、首都圏の各都市や大阪名古屋福岡など9都府県で展開し、提携している飲食店は1万を超えています。客がスマートフォンのアプリで提携している飲食店の料理などを注文すると、配達員として登録した一般の人が、飲食店の従業員に代わってバイクや自転車などで料理や飲み物を配達してくれます。支払いはクレジットカードなどによる決済が中心ですが、今年に入って一部の地域で現金での支払いも出来るようになりました。配達員は、会社と雇用契約を結ばない個人事業主として働くことになりますが、1回の配達の距離に応じて報酬を受け取ることができ、好きな時間に働けるメリットがあると言います。ウーバーは登録している配達員の人数を公表していませんが、3年前のサービス開始以降、配達員は増え続けているとして、人手不足の中での新たな働き方として注目されています」
配達員として働く人たちにはリスクについても触れられています。
「配達員として働く人たちが増えている一方で、課題だと指摘されていることの一つが交通事故のリスクです。ウーバーイーツに登録していた東京都内に住む30歳の男性は、去年11月自転車で飲食店に料理を受け取りに行く途中、タクシーとの接触事故で右手首を骨折する大けがを負い、全治2カ月と診断されました。治療費はタクシー会社の保険で支払われましたが、登録していた会社のウーバーからの補償はなかったと言います。ウーバーによりますと、配達員が事故を起こした場合、相手の怪我などに対して補償する保険には加入しているものの、配達員は雇用契約を結んでいない個人事業主にあたるため、配達員の被害を補償する仕組みはないということです。また会社で、配達員に個人で保険に加入するよう勧めているということですが、実際にどのくらいの人たちが加入しているかは把握していないということです。
男性は当時フリーランスのカメラマンとして働き、その仕事の合間に配達員の仕事をしていたのですが、およそ2か月間怪我の治療のため仕事ができず、全く収入がない状態になりました。男性は『自分が働きたい時に働けるすごく便利な仕事ですが、自分が事故にあうとは思っていませんでした。2か月も無収入になって、ようやく配達代行の働き方のリスクに気が付きました』と話しました。『その上で、会社は事故のリスクをしっかり配達員に説明しておく必要があると思います。また働いている配達員も自転車保険にきちんと入るなどリスクを認識して働いてほしいです』と話していました」
外食産業配達代行は必要なんだということも指摘されています。
「全国に350店舗を展開する定食店チェーンの大戸屋ホールディングスは、3年前の平成28年8月からウーバーイーツと提携し、現在98店舗で配達代行サービスを導入しています。配達代行を利用した注文数は年々増え、現在多い店舗で売り上げの10%から15%を占めるまでになっているということです。東京渋谷にある店舗では、1日平均20件ほどの配達代行を利用した注文が入り、多い時には50件を超える日もあるということです。客からの注文が入ると、店舗内の専用タブレットの音が鳴り、店員が注文内容を確認して調理を開始します。注文は店舗の近くに居る配達にも知らされ、概ね20分以内で店に料理を取りに来てくれるということです。料理を受け取りに来た26歳のベトナム人留学生の男性は『今日は3~4時間ぐらい働きます。暇な時にできるのがいいです』と話していました」
個人事業主となると、労働者として受ける保護が全く受けられない。こういうものを副業として広げていきたいというのが、政府が言っていることなのです。
最近、光文社から『アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した』という面白い本が出ました。イギリスのジャーナリストが、「最底辺」の労働現場に潜入して、実際の体験を書いたもので、サブタイトルが「~潜入・最低賃金労働の現場~」というもの。アマゾンでもウーバーでも個人事業主として働かされている。ひどい労働現場で外国人労働者がすごく増えていて、みんな絶望しながら働くしかない。訪問介護やコールセンターなど最低賃金で働かされている人たちの複数の現場のルポです。
「副業」や「雇用類似の働き方」というのが何か素晴らしいかのような、自己実現とか、選択した結果そこで何かが得られるものであるかのように政府は描こうとしていますが、全くそうではないわけです。
個人事業主というのは今でもいろんな問題を抱えています。 例えば、建設現場で働いている一人親方という人たち。大手の住宅メーカーに消費者がマイホームの建設を発注したとしても、大手に直接雇われている大工たちが来るわけではありません。大手に登録をしている下請けの人、孫請けの人が実際には工事をするわけです。その中には個人事業主として登録している人が結構多い。そういう人たちはハウスメーカーから言われた通りに言われた期間までに仕事をするという意味では労働者として働いているわけですが、形式的には労働者とはされず、請負で働いているということになります。労働基準法も適用されないし、解雇規制も及ばないし、失業保険もありません。例えばヤクルトの販売員、ヤクルトと個人契約で同じですね。 NHKの料金徴収の人もそうです。私はNHKの料金徴収員で労働組合に入った人の労働委員会申立事件の代理人をやっていたことがあります。NHKの子会社である料金徴収の会社は「労働組合に入っていても労働者ではないんだ」と言い、 最初は団交そのものを拒否しました。実際にはタブレットを渡されて、NHKとの契約ができていない人が特定されているわけです。そこに行ってちゃんと契約をする。何件契約できたか、いつ契約ができたのかを全部タブレット上でやる。タブレットの情報は会社にすぐ行きます。全て会社に管理されている。しかし、訪問して契約をするというのは家にいる時にしかできないので、訪問時間は夜や週末になり、不規則。雇用した労働者に担わせるのには向かない。だから請負という形で出来高払いにするわけです。その方の解雇は、セクハラを発端とする嫌がらせ解雇だったのですが、そういうことも労働契約として問題にできないということになってしまう。
労働者として保護されないということは非常に大きな問題があります。
労働者でなくなれば、当然に「定期収入が得られなくなる」ばかりではく、労働時間管理の自己責任化が行われてしまい、労働者保護の各種保険制度の谷間に入り、労災保険や雇用保険、社会保険が直接には適用されなくなってしまいます。
コンビニのドミナント戦略というのをご存知ですか。たとえば、あるところに1つセブンイレブンができるとその周辺にまたセブンイレブンがどんどんできる。「ドミナント」とは、攻める地域を特定し、その特定した地域内に集中して店舗を出店することを指します。セブンイレブンとオーナーさんとは請負契約で提携しているわけですが、近隣で店舗同士がぶつかってしまうとオーナーさんは大変です。この間、「コンビニ関連
ユニオン」というのができましたが、それは「コンビニのオーナーも労働者だ」という問題意識です。セブンイレブンから指示されたとおりの場所に出店して、言われた通りの売上目標を掲げ、値引き販売は許さず、24時間365日開けろということが「至上命題」とされる。ここの地域では無理だと言ってもそれが通らない。事前の契約と違うことをしたりすると多額の違約金を取られてしまう。結局オーナーさんはアルバイトが来なくてシフトが埋まらなければ、自分が仕事をして体を壊してしまう。だけど労働者ではないから労災の適用はない。本当に大変だと思います。
『アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した』本を読んだ人の中で、「このドミナントを思い出した。働いても働いても大変だという地獄のような状況はそういうところでつながっている」という感想を書いている人がいました。個人事業主といわれると「社長さん」を想像して裁量があるのではないかと思われるのですが、そうではありません。さまざまな保護からはずすための個人事業主であり、請負である。こういうものがこれから増えていくことになると思います。
そのような方向性が先ほどの「雇用類似の働き方について」というレポートの中にはっきりと出ています。この検討会では、どういうことが話されているかと言うと「雇用類似の働き方が拡大されている現状に鑑み、その働き方について順次実態を把握し、雇用類似の働き方に関する保護等のあり方について公的保護の必要性も含めて検討する必要がある」とされています。
雇用類似の働き方について雇用に近づけようと言われているわけではありません。「公的保護の必要性も含めて」というのは、「保護しない」ということもあり得る。
厚生労働省の労働政策審議会の労働政策基本部会の報告書、2018年9月に出されたものですが、第3章は、「時間・空間・企業に縛られない働き方について」 です。「時間・空間・企業に縛られない」、雇用類似の働き方がこれから広がっていくんだということが書かれています。
「雇用関係によらない働き方は多種多様であって、こういう働き方が拡大している背景をきちんと検討していく必要性がある」と書かれていますが、結局、こういう働き方を進めていこうという観点に立っていますので、警戒が必要です。
実は2018年の働き方改革関連法案の改正の時に、「雇用対策法」の一部改正がありました。雇用対策法というのは、職業安定法とか雇用保険法の基本になる法律です。
目的について「労働生産性の向上であり、措置としては多様な就労形態の普及というのを方針にしていかなければいけない」ということが掲げられており、つまり多様な就労形態の普及がこれからどんどん進んでいくよということで改定されたのです。今後、他の分野についても法の制定が行われるかもしれません。

資料6

 

資料7

資料8