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安倍政権はなぜ、集団的自衛権に踏み込むのか

月刊『労働運動』30頁(0289号08/01)(2014/04/01)



安倍政権はなぜ、集団的自衛権に踏み込むのか

(写真 2月22日付読売新聞)


 3月6日、自民党の石破茂幹事長は、「安倍首相のもとで(集団的自衛権の行使容認を)成就させるために、いかなることでもしたい。今回やり損なうと、当分だめだろう」と言いました(党内無派閥連絡会の講演で)。集団的自衛権の行使容認に政治生命をかけているとも聞こえる発言です。さらに石破は、集団的自衛権行使容認のうえで「アジア版NATO」を創設していく構想も披露しました。
 NATO(北大西洋条約機構)とは、多国間軍事同盟のことです。NATOは、第二次大戦後間もない1949年にイギリス・フランスの主導で、ヨーロッパ諸国とアメリカ・カナダによって結成されました。当初は「アメリカを引き込み、ロシアを締め出し、ドイツを抑え込む」ことが目的と言われました。加盟国には、いずれかの国が攻撃された場合、共同で応戦・参戦する集団的自衛権発動の義務がありました。
 ソ連邦崩壊後、NATOにおいては「周辺地域の紛争が脅威」とされ、「域外派兵」もやっていくことが確認されました。その後、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争への軍事介入(1995年)、セルビアへの制裁空爆(1999年コソボ紛争)、アフガニスタン侵略戦争への参戦(2001年~)、リビア空爆(2011年)などを行っていきました。
 石破は、こうした多国間軍事同盟をアジア地域で結成することを、日本のヘゲモニーで進めていきたいと考えているのです。その場合、「締め出す」べき国は、中国と北朝鮮なのでしょう。そして、日米関係は、軍事的政治的に対等である。このようなアジア版NATOをめざす石破にとって、日本が集団的自衛権を行使できる国家になることが絶対的条件なのです。

●安倍は解釈改憲で集団的自衛権容認へ

 安倍晋三は8年前の2006年9月、「戦後レジームからの脱却」「美しい国づくり」を掲げて首相になりました。安倍は教育基本法の改悪や改憲国民投票法の制定を強行しましたが、第1次安倍内閣は1年で総辞職に追い込まれました。安倍の言う「戦後レジーム」とは、直接には戦後憲法下の国家体制のことであり、そこからの「脱却」とは憲法の全面「改正」、すなわち新憲法制定のことでした。私たち「とめよう戦争への道!百万人署名運動」は、「9条を変えるな!」を掲げて全国キャラバンを展開し、安倍政権との対決を進めていきました。
 2012年12月に第2次安倍内閣が発足し、改憲攻撃が再び前面化しました。安倍はすぐに「憲法第96条の改正から着手する」と言いましたが、改憲反対の声が高まり、昨夏の参院選では山本太郎さんを支持する1000人以上のボランティアが活動して67万票で勝利することも起こって、安倍の改憲プランはガタガタになりました。
 そこで安倍は、憲法第9条の解釈を変更することを通して、集団的自衛権を行使できるようにする方法を選択しました。そのために、内閣法制局長官を強権的に交代させたのです。昨秋に強行した日本版NSCの設置と特定秘密保護法もその一角です。つまり、9条解釈改憲→集団的自衛権行使容認→本格的な戦争国家化、ということです。
 安倍も一貫して集団的自衛権の行使を唱えてきました。安倍が自民党の幹事長だった小泉政権時代の国会で、集団的自衛権の行使は認められないとする政府の憲法解釈を追及する場面がありました(2004年1月)。自衛隊イラク派兵に踏み切った小泉首相でしたが、「自衛隊が行くところは非戦闘地域だ」「戦闘には関与しない」という発言をくり返しました。あの小泉でさえ、集団的自衛権の行使を認めていない現行憲法の枠を超えることはできなかったのです。

●4・27集会に総結集をお願いします

 安倍が唱える「戦後レジームからの脱却」という言葉には、戦後憲法体制からの脱却だけでなく、〝対米従属的な日米同盟関係からの脱却〟〝アメリカの戦後世界支配からの脱却〟という意味が込められていると私は思います。
 石破は「アメリカは『世界の警察』の役目を以前のように果たせなくなった」(石破著『日本人のための「集団的自衛権」入門』)と言い、「現状では、米軍を置くのは(日米安保)条約上の義務です。しかし仮に日本が集団的自衛権を行使できる、ということになれば、在日米軍は条約上義務として置くものではもはやなくなる」(同著)と述べています。つまり、集団的自衛権の行使容認は、日米安保条約の改定や、在日米軍の撤退にまでつながっていくと言っているのです。そこには「アメリカと対等な関係」になるだけでなく、アメリカに対抗していく意思が明白に存在しています。
 この情勢の背景には、アメリカ帝国主義の歴史的没落があり、大国間の争闘戦から脱落している日本帝国主義の大変な危機があります。かつて日本は「経済大国」とか「輸出立国」と呼ばれてきましたが、昨年は貿易赤字が過去最大の11兆5000億円に達しています。また、2012年版の「世界競争力年鑑」(スイスの経営開発国際研究所)では、総合順位で27位、インフラ分野の順位は32位という低評価です。この絶望的危機をなんとかして突破しようとあがいているのが、集団的自衛権行使に突き進んでいる安倍政権の真の姿だということです。
 こんにちの世界大恐慌情勢は、戦争か革命以外に「解決」の道はありません。だから「1%」の支配階層は、自分たちが生き残るために労働者階級人民に貧困と過労死の強制を拡大し続け、他方で戦争をする体制に本気で向かっています。問われているのは、その「1%」の支配を根底から打ち破ることです。支配されてきた「99%」が労働組合を軸に団結を取り戻す。国境を越えて団結を拡大する。その力で安倍政権を打倒していく。集団的自衛権に反対する、改憲と戦争に反対するとは、そういう闘いではないでしょうか。「集団的自衛権に反対する4・27集会」から8月に攻め上っていきましょう。
 (川添順一 とめよう戦争への道!百万人署名運動・事務局員)