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ドイツからの動労千葉への手紙友人たちを訪問して クルト・シュナイダー

月刊『労働運動』34頁(0292号09/01)(2014/07/01)



ドイツからの動労千葉への手紙

友人たちを訪問して クルト・シュナイダー

●始まった日独の国際連帯
 2011年、動労千葉国際連帯委員会と全学連の仲間たちがベルリンを訪問してくれました。それに対して、2013年には、今度はベルリンから日本への訪問が実現し、お互いの交流は実り豊かに継続されました。
 日本を訪問したのは、私クルト・シュナイダーと母のモニカです。私は、ドイツ鉄道株式会社に所属するベルリン都市鉄道の運転士であり、GDL(ドイツ機関士労組)の批判的組合員です。「批判的組合員」とは、中央本部に対する批判的潮流に属しているという意味です。
 私の母は、Bブラウンという医療関係の会社に勤務していた労働者でしたが、今は年金生活者です。また彼女は反ナチの闘士の娘でもあります。私たちの日本旅行の目的は、動労千葉をはじめとする仲間たちと会うことでした。彼らは今では私たちの親密な友人です。
 空港で友人たちが出迎えてくれ、心からの歓迎をしてくれました。それが私たちの日本旅行の始まりです。ウォッシュレットなど日本の技術には心底びっくりさせられましたが、動労千葉の仲間との最初の出会い、熱い交流のなかで、私たちは迅速にかつ確実にそして気持ちよく着地することができました。
●民営化と闘う日韓労働者の姿に感動
 とくに印象深かったのは、日本と韓国の労働者が一堂に会して、当たり前のことのように、それぞれの国の鉄道民営化の結果と危険性について討論しているということでした。その会合に招待されて、私は、われわれドイツでの鉄道民営化について報告するという機会を与えられ、討論に貢献することができたと思っています。
 その際重要だと思ったのは、JRで働く動労千葉の労働者と韓国鉄道で働く民主労総の労働者が、鉄道の民営化のもたらす結果について非常に鋭い意識をもち、それに対して戦闘的に闘ってきたということでした。日本の国鉄の民営化の経験をもとに、韓国では迫り来る鉄道民営化攻撃を萌芽的段階でつぶそうとしています。この決意に接したことは、私の今回の経験のなかでも最も重要なものの一つでした。
 もっぱら政治的理由でのみ強行されている鉄道の民営化攻撃に対して、労働者と労働組合員が決然と抵抗すればどのような事態に直面することになるか――それは、このかんの経験で明らかです。韓国鉄道の労働者が23日間にわたってストライキを行い、これに対して政府と警察権力が凶暴な攻撃をかけてきたことには、予想を上回るものがあったかもしれません。しかし、そのような攻撃に対しては、広範で全世界的な国際連帯がストライキを闘う労働者と労働組合員を支え続けたのでした。なぜこのような積極的な国際連帯が可能になったのかと言えば、それは労働者と労働組合員が、闘いに先立ってすでに国際的に密度の濃い討論を通じてお互いに知り合い、絆を固めていたからです。このようにして、労働者の闘いはより強固なものとなり、より大きな成果をあげていくことができるのだと思います。
●幅広く共同性あふれる11月集会
 2013年11月3日の東京都心での集会・デモも強烈な印象でした。これは、動労千葉が軸となり、労働組合や職場の活動家、さらには社会的・政治的な運動家・活動家たちも結集しておこなわれたものでしたが、この集会・デモのすばらしさは、私の予想をはるかに上回るものでした。あの積極性と意識性、団結の強さは、1989年の東ドイツの最後の日々における数百万人のデモ(そこではなんの分けへだてもなくみんな一緒だった)以来、私自身経験したことがないものです。集会の参加者が、それぞれの活動領域・職場・組合・運動などについて報告してくれましたが、それもとても重要なものでした。
 日本においても、労働者と労働組合の国際的運動に敵意をもつ排外主義的・ファシスト的な傾向が存在していますが、これは安倍政権の政策に原因があると私は思います。安倍政権の政治は、人間を中心にすえるのではなくて、人間の犠牲のもとに利潤の最大限の追求をおこなおうとするものです。
 しかし、動労千葉をはじめ11月集会の労働者・活動家たちの間には団結と強い絆があり、敵のありとあらゆる攻撃に対して強力な防御力をもっている――これを私はじつに印象深く体験することができました。私にとってまったく初めての経験です。このような集会とデモにドイツの私たちが参加したことは、それはそれでまた、新自由主義の攻撃に対する闘いの国際的な連帯と結集を示すことができたと思っています。
 このような活気のある積極的な国際連帯とネットワークの広がりを、私は翌11月4日の国際連帯集会でも経験することになりました。この集会には、職場・労働組合、そしてさまざまな社会的運動を闘う活動家が幅広く参加していましたが、この集会は、多くの国々の労働者・労働組合員、そして市民にとって模範的な道を示すものだという印象を受けました。私はこの集会での経験をとおして、ドイツやフランスでも、そしてその他多くのヨーロッパ諸国でも、私たちは労働者として、労働組合員として、政府の新自由主義的政策とそれによる残酷で非人間的諸結果に対して、根本的な闘いをしなければならないと感じています。
●福島は世界中いたるところにある
 私たちは、福島県内を旅行して、ぞっとするような現実を目の当たりにしましたが、それを通してわかったことは、福島第一原発の危険性とその影響は、全世界どこにでも存在しているということでした。
 福島県内を案内し、説明し、話し相手になってくれたのは椎名千恵子さんでした。彼女のおかげで私たちは、政府や大企業が、住民の利害について語りながら、じつは自分たちの利害を住民の犠牲の上に押し貫こうとしているだけであり、それが結局何をもたらしているのかをこのうえなく明快に理解することができました。それだけに、福島で断固とした闘いに立ち上がっている女性たちと活動家のみなさんが、国家の愚民政策にたいして、どのような実践的・政治的な意識をもって、住民の啓蒙活動に取り組んでいるかも痛切に感じとることができました。
 私たちはまた、ふくしま共同診療所を訪問しました。この診療所は、福島の子どもたちのために、カンパに依拠して独自に活動しています。そこで活動している医師や診療所スタッフ、そして支援者の方々はじつに献身的な仕事をやっています。詳しい説明と討論を通じてわかったことは、この診療所のために、ドイツから今後とも、たとえかぎられた規模ではあっても、財政的な支援を積極的に行っていくことが必要だということでした。特に原発事故の影響を強く受けている福島の子どもたちに、支援の手が差し延べられなければなりません。
 母が働いていたBブラウン社の経営者・労働者・労働組合に対して緊急のアピールを発して、ふくしま共同診療所に連帯する実際的な協力関係をつくることができれば、福島に対するささやかな支援になるでしょう。ふくしま共同診療所を支えている活動家や支援者のみなさんと知り合って、その仕事について理解を深めたことは、そのための重要な前提となっています。そうした可能性を与えてくれたことについて、この場を借りて、診療所のために献身的な活動をおこなっているすべての人びとに心から感謝したいと思います。
●鉄道労働者の闘いに国境はない
 福島原発事故の恐るべき諸結果を目の当たりにしたあと、私たちは郡山で、鉄道労働者の希望に満ちた勝利的な闘いを知ることができました。それは、私自身鉄道労働者であるだけに大きな感銘を受けるものでした。
 私は、すでにドイツで鉄道労働者の国境を越えた闘いというものについて経験していたし、またそういう闘いについて報告する機会もありました。それだけに、私たちは、積極的で非妥協的な労働組合活動について日独間の情報交換をおこなうことができました。こうして、日独間には多くの共通点があることを確認できたし、今後のより緊密な協力関係を約束することもできたのです。
 このことは動労水戸の仲間たちとの出会いについても言えます。動労水戸の仲間たちが教えてくれたことは――これは動労千葉の仲間からすでに学んだことでもありますが――新自由主義の攻撃に対しては、それがわれわれ労働者にもたらす結果ということを考えただけでも、断固とした闘い以外に道はない、ということです。
 新自由主義に対する鉄道労働者の闘いは、緊密な絆の形成と積極的な協力関係の構築によってのみ勝利することができます。このことは、ドイツ鉄道で働く労働者と労働組合員についてもそのままあてはまることです。ドイツ鉄道の労働者は今後、組合の枠をこえてともに闘うべきなのです。こうした闘いの方向性はドイツでの職場的・組合的闘いや、さらに社会的運動などにおいて萌芽的に見られますが、今回、日本や韓国で得た教訓からも学んで、ドイツ鉄道におけるわれわれの闘いとしてさらに発展するでしょう。
●民主労総と韓国階級闘争
 私たちがソウルに着いたのは2013年11月9日の晩で、すでに暗く、土砂降りの雨が降っていました。しかしその日、ソウル中心部の財閥らのガラスの宮殿が立ち並ぶかたわらでおこなわれた民主労総の非正規職労働者の集会は、労働運動の将来に希望の光を投げかける、すばらしく印象深いものでした。この集会に引き続いて翌日、動労千葉の訪韓団は、サムソン労働者の闘いを積極的に支持すべく、サムソン財閥の本社前集会に参加しました。サムソンは、労働者の犠牲のうえに、ただひたすら自分たちの利益のみを求めていこうという世界的な巨大コンツェルンです。
 韓国民主労総の労働者と労働組合員が、自分たちが生きていくためのぎりぎりの利益を守るために、どれほど強い意志と決意をもって闘争力を発揮しているか――それには本当に圧倒的されます。労働組合に結集した意識の高い労働者たちは、大企業と大銀行の利益を代表する政府の役割を決定的に問題にしていますが、それがどれほど的を射たものであるかは、12月、警察権力がストライキ中の民主労総の鉄道労働者に加えた攻撃を見ればよくわかります。
 韓国の労働者と労働組合員が、生きるためのぎりぎりの要求を掲げ、正しい道を歩んでいることは、11月10日のソウル市庁舎前での集会に5万をこえる参加者が結集していることでもよくわかります。その集会には私たちも参加したのですが、民主労総の労働者たちは、たえず戦闘的な労働歌を口ずさみながら、韓国労働運動の確固たる姿勢を示していました。集会に引き続いてデモがおこなわれましたが、そのデモは、あまりにもダイナミックで、私たち親子はとてもついて行くことができなかった。そのとき私は、「われわれドイツの労働者は、韓国の仲間たちからまだまだ多くのことを学ばなければならないな」とあらためて深く考えさせられたのでした。
●感動的な経験をさせてくれた皆さんに感謝
 日本や韓国の仲間たちとの数かぎりない出会いや対話をとおして、私たちは、本当の心の通い合いというものを感じました。それは、真の友人の間においてのみ存在するものです。また戦闘的な決意というものを感じました。それは、階級的意識をもった労働組合員においてのみ存在するものです。
 動労千葉の傑出した指導者である田中委員長との討論と交流、郡山や動労水戸の鉄道労働者との出会い、福島でさまざまな経験をさせてもらった魅力的なリーダー・椎名千恵子さん、希望に満ち生命力あふれる闘士・NAZEN織田陽介君、これらのみなさんに心からの感謝の気持ちをお伝えしたい。このほか、ここでは名前をあげていない、数えきれないほどの多くの戦闘的な仲間・友人にも、心からの感謝の気持ちをお伝えしたい。
 日本で韓国で、私たちの旅行の安全のためにたえず気配りし、私たちを友情と真心をもってあたたかく迎えてくれたことは、何物にも代えがたい贈り物です。本当に感謝しています。このような、さらにはここで語り尽くせないような多くの経験こそ、われわれの闘争に勇気を与え、いっそう断固とした前進をもたらしてくれるものです。
●必要なのは実践的な国際連帯
 ここで、国際階級闘争あるいは国際連帯について一言。国際連帯、それは理論的な問題として気軽に口にするようなものではなく、それ以上のものだということです。それは、既存の国境を越えた、労働者と労働組合の意識的で、実践志向的で、既成概念にとらわれない共同作業と言ったほうが適切です。それは、新自由主義の攻撃にさらされた労働者の生きるための要求に実践的に応えるものでなければならないし、階級闘争にかんする政治的で自覚的な意識にもとづくものでなければなりません。これこそ、私たちが日本の動労千葉や韓国の民主労総を訪問して実際に経験したものです。そして、これこそ希望に満ちた道です。こうしたことを経験させてくれて、本当にありがとう!
 また、動労千葉国際連帯委員会の仲間たちには本当に献身的な通訳活動をやっていただきました。それなしには、私たちの言語能力は決定的にかぎられ、ここに書いたような内容を経験しかつ表現することはおよそ不可能だったでしょう! 心から感謝します。みなさんの健康と活躍を祈ります。
 ダンケツ、ガンバロウ!
ベルリンのクルト・シュナイダーと母モニカより