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私の職場 第3回具体的職場闘争で組織を拡大していく!

月刊『労働運動』34頁(0304号06/01)(2015/07/01)


私の職場 第3回
具体的職場闘争で組織を拡大していく!


増田 順計(としかず)(奈良市公立学校教職員組合書記長)
★奈良市で教員をしています
―どういう職場ですか。
増田 普通学級19クラスの、市内でも大きい方の中学校で、社会科の教員をしています。
―教員の仕事は大変だと思いますが、その実態を話して下さい。
増田 授業の準備、会議、委員会活動など放課後に行われる様々な活動、ノートやプリントの点検、部活指導(夏場は18時まで)土日の部活指導(通常は半日ですが、試合があると一日になる)、生徒指導、会議の資料作りなど沢山あります。
―残業が多いと聞きますが、現状を教えて下さい。
増田 以前記録をつけたことがありますが、平均50~80時間(土日の部活動指導や仕事を処理するための休日出勤も含めて)です。給食指導があるので労基法上の昼「休憩」は取ることができません。もしも行政職と同じ計算式で残業代を受け取れば、月20万円を超えます。
★日教組奈良市書記長として
―日教組奈良市(略称)はいつ結成されたのですか。
増田 結成は日教組の連合加盟をめぐって元々所属していた奈良県教組が全教へ、日教組に残った組合員が奈良教組を結成し、そのとき奈良市の単組として結成されました。いわゆる再建単組というものです。
 職場には非組が多いです。うちの職場はこの間の闘いで組織拡大をしています。私は今、組合全体の書記長をしています。
―役職が書記長だとかなり忙しいのではありませんか。
増田 小さな組合で専従や書記さんも置くことはできないので、教師としての過重労働の中で組合の活動を「回していく」のはとても大変です。何とかできているのは、執行委員会の団結をつくることに力を注いできたからだと思います。
 いつ終わるのかわからないような「多忙化」と、新自由主義による子ども達の家庭や、人間関係の破壊と、子どもさえ金儲けの対象とする状況の中で日々生起する様々な問題は、教師を疲労困憊させています。身近な同僚や組合員さんが置かれている具体的事実がそのことを突き付けてきます。
 だからこそ今、労働組合が必要なのだと思います。自分自身もその渦中にあるからこそ、どんなに大変でも書記長として踏ん張れるのだと思います。
★非正規教員解雇めぐる闘いで解雇撤回・試験制度実質撤廃!
―2010年に奈良市の非正規教員の継続雇用が打ち切られた時、闘って継続雇用と「試験制度の撤廃」をかちとったと聞きましたが経緯を話して下さい。
増田 奈良市には県費教員とは別に、市が独自に雇用している(地公法上は「任用」)常勤教員がいます。元々は、同和行政で被差別部落の子ども達に関わることを目的に36人が雇用されていました。それが10年近く前に「法切れ」と解放運動バッシングの中で廃止されたのです(行政は「生み直し」と言います)。
 この時、雇用されていた常勤・非正規の教師36人が奈良市独自の30人学級(一部は児童生徒支援教員という形での加配教員になった)のための教員として「採用試験」を受験しました。試験を受けたとはいえ一年更新の常勤・非正規には変わりはありませんでした。その上、制度発足当時は、任用継続の条件として毎年試験を繰り返すという理不尽なものでした。
―その時、組合としてはどうしたのですか。
増田 日教組奈良市は対市交渉で試験制度の緩和を訴えましたが、この制度が「解雇自由のためのもの」と明確に位置づけ絶対反対で闘えていたわけではありません。「教員の資質の確保と公正な任用であることを市民に説明責任を果たすため。試験を行うことで市費の先生方と、この制度を守るため」という市教委の恫喝ともとれる説明に怒りを覚えながらも、試験の内容や試験期間 の「改善」(交渉の中で毎年が3年に1回に「改善」された)を要求する闘いでした。
 そんな矢先、2010年3月に市費講師のAさんが「不合格」解雇されるという事態が起こりました。当初、「本人の自己責任」的空気さえあり、市教委に「次の職」を確保してもらうように要請しようというお願い路線でした。この要請は「努力します」という言葉とは裏腹に市教委によって完全に無視されました。
 4月を迎えAさんは奈良市はおろか県教委が雇用する県費講師からさえ排除され、雇用保険を受給せざるを得ないという前代未聞の状態に追い込まれたのです。この問題をどう考えるのか、何度も執行委員会を重ね、講師部(非正規組合員の集まり)でも論議しました。
 Aさん解雇撤回闘争の渦中で僕が書記次長になり、方針論議に責任を取る立場になります。
―その時、増田さんたちはどう闘おうとしたのですか。
増田 まず「Aさんの自己責任論(試験当日、受験票を取りに帰って若干遅刻した。試験はちゃんと受験できた)」や「市教委も何とかしようとはしてくれた」的見方もありました。
 一方で、これまで形だけの試験で不合格・解雇はあるまいと思っていた市費教員に激震が走ったことも事実です。
 しかし、議論を重ねていく中で、「1年更新の非正規教員が、3年に一度、働き(任用)続けるために試験を受けねばならないこと自体がおかしいのではないか」「市費講師は担任を持ち、授業をやり、教材を作り、成績をつけ……正規採用の教諭と全く同じ仕事をしている」「市教委は、『市費教員の資質を担保するため』『市民への説明責任』などと言うが、資質があるから市教委は採用して教壇に立たせているのであり、市民(保護者)は説明などしなくても『うちの子どもの先生』と承認している。それは教諭とて同じ。実は非正規であることで繰り返されてきた試験は、Aさんのように市費教員をいつでも不合格という自己責任で能力がなかったかのように解雇していくための制度としてあるのではないか」という結論に至りました。まさに非正規解雇を「合法化」するための手段、解雇自由のために試験制度があるのだということです。
 この時、動労千葉の闘いや森精機闘争に連帯して学んだ、解雇撤回と非正規職撤廃の路線がとらえ方の指針になりました。
 「解雇絶対反対」を掲げて闘う中でここが見えた結果、問題はAさんの救済ではなく、市費教員全体にかけられた解雇攻撃であることをはっきりさせて「不当に繰り返される試験制度撤廃」を掲げて何度も団体交渉を闘いました。足かけ3年、市費での解雇撤回にはならなかったのですが、県費講師としてAさんの継続雇用をかちとり、継続任用時に繰り返されてきた試験の実質撤廃に至りました。
 さらに、その後5年間の闘いを通して、職員駐車スペース取り上げ・有料民間駐車場利用の白紙撤回、「持ち帰り残業」短時間の残業を認めない、「時間外勤務記録簿」の白紙撤回などの勝利を勝ち取ってきました。
 大事なことは、この過程で、具体的職場闘争を路線的に闘うことを通して、日教組奈良市が日教組本部の「パートナー路線」から、分岐を開始したということです。
★市費教員21人の解雇攻撃
―今、組合での課題は何ですか。
増田 小学校の30人学級のクラスサイズ拡大とこれに伴う市費教員21人の削減・解雇問題については、重大な問題です。浮かせた人件費で市長が打ち出した「フューチャースクール」構想のための大量のタブレット導入に4000万円近い予算を決定するなど、現場にとっては到底納得できない削減・解雇です。1~3月に何度も執行委員会が市教委と折衝を持ち、人員削減反対の要求を伝えると共に、初めて春闘討論集会を持って現場の怒りを交流し、3月には再度交渉を設定し市教委を追及しました。また、事態が明らかになった段階で、100人近い市費教員全員に「市費教員のみなさんへ」と題して事態を知らせ、解雇を許さない闘いを呼びかける文書を発送しました。その結果、交渉当日に自ら連絡してきた市費教員の仲間が直ちに交渉に参加して共に闘うという感動的な場面や、新たに日教組奈良市に加盟する仲間も出てきました。
クラスサイズ拡大を阻止することはできませんでしたが、攻撃に屈しない団結の拡大を実現できたことは、これからの闘いにとって決定的なことです。
 今年は、年度途中で自主退職者が出たことや病気休職者も複数いて生首が切られることはなかったのですが、「自主退職」もメンタルを始めとした「病休」も形を変えた解雇攻撃としてとらえることが重要です。すでに解雇は始まっていたのです。
 また、どこにでもあり、誰もが当事者になりうる「学級崩壊」を教師個人の自己責任にして「給料泥棒」呼ばわりするようなパワハラ攻撃もありました。全国的にも「指導力不足教員」のレッテルを貼り「自主退職」を迫る攻撃が起きていますが、闘いが生み出す団結の中で、当該の仲間が組合の組織者へと飛躍する感動的な前進も生まれました。
 当局は、来年度さらに市費教員を削減することを示唆しています。今年はある意味で不意打ちを食らわされた感がありましたが、次は今年以上の決戦になると思います。市費教員の中に団結を拡大する、市長の民営化、外注化・非正規化全体を見据えた絶対反対の闘いを進めることだと思います。
★幼稚園・保育園の民営化攻撃
―認定こども園開設で起きていることを話して下さい。
増田 最大数十万円の賃下げなど労働条件の一方的変更を伴う、幼稚園教諭の行政職への一方的な任用替えが行われました。さらに、当局は5年以内に保育教育士の資格として幼保両免許を取得するための費用は全額個人負担だというのです。幼稚園教諭として採用されていた人たちを一方的に労働条件が激変する業務に任用替えを行い、免許取得費用を自己負担させる
などとんでもありません。市は、こども園民営化を方針として決定し、労働条件の切り下げはそのための準備だと言えます。
★青年教員の市町村超えた異動
―青年の教職員が直面している課題について話して下さい。
増田 新規採用6年以内の青年教職員の市町村の枠を超えた強制異動が起きています。市町村単位の単組が団結の基盤である教職員組合にとっては、青年との団結を破壊する組合破壊の攻撃です。今年度は組合員への強制異動は阻止できましたが、今後も毎年の闘いになります。青年組合員の組織化を更に進めると共に、県教委からの攻撃ですから、県下の他単組を含めた闘いが必要です。県本部は県教委と課題を協議すると言っていますが、県教委の狙いは青年の分断、団結破壊であり、組合の無力化です。「絶対反対」の闘いなしには闘えません。
―そのほか、直面している課題を話して下さい。
増田 昨年度から奈良市・県教委は矢継ぎ早の攻撃をかけてきました。市立幼稚園・保育園の民営化、非正規職化と解雇(市費教員削減=解雇)、外注化(学校給食の民間委託化、ベンチャー企業からの市費教員雇用など)、教育の民営化攻撃を本格的にかけてきています。これは全国的に公務現場にかけられた攻撃です。
 さらに奈良市では、学校給食の外注化によるアレルギー対応に関わる「事故」の危険性が拡大しています。外注企業は低賃金・過重労働・非正規化の先端にあります。民間ですから公立学校の教職員の組合である日教組奈良市の直接の組織対象にはなっていませんが、動労千葉がJR外注先の千葉鉄道サービスの労働者を組織化した闘いから学ぶことが必要だと思います。
 また、ALT(英語の補助を行うネイティブの外国人で、全国的に派遣会社から公立学校に派遣)も派遣労働によって成り立っています。1年ごとの指名競争入札によってALTの雇用、労働条件は極めて不安定な状態が強制されています。
―安倍政権のもとで、戦争と民営化、労組破壊の攻撃が激化していますが、教育への攻撃も激しいと思うのですが。
増田 安倍政権下の財務省による4万人教員削減は絶対に許すことのできない攻撃です。また、地公法改悪による成績給の本格導入が迫っています。公務員給与の総合的見直しによって50代の賃金が大幅に削減されます。
 また、教育委員会制度は首長権限強化が強行されました。仲川市長による様々な攻撃はその先取りです。安保法制下の教科書や改憲教育への攻撃も激化しています。橋下打倒闘争と同じ闘いが全国の教育現場に問われる時代に入ったということだと思います。
★攻撃を路線的にとらえ絶対反対の闘いを貫く
―組合員の団結強化にはどのような取り組みをしていますか。
増田 とにかく一つひとつの攻撃を路線的にとらえて、ぶれずに「絶対反対」の闘いを貫くことが核心です。今はまだ小さな組合に過ぎない私たちがここまで闘ってこられたのは、Aさん解雇撤回闘争を転換点に「絶対反対」を必死で貫いてきたからです。その土台は執行委員会の徹底した討論であり、組合員との議論です。そして職場、分会で具体的職場闘争を通して組合員を拡大していくことです。
―労組交流センターとの関わりや意見があれば話して下さい。
増田 8・5ヒロシマでの教育労働者交流集会は、私たちの闘いと三浦半島教組の仲間をはじめ全国の動労千葉労働運動を実践してきた仲間との大切な交流の機会です。団結を強化する場であり、私達が何を返していけるかという責任も重大です。
 韓国の民主労総がゼネストを闘い、数年来激しい弾圧を受けながら闘ってきた全教組も年休闘争でこれに合流しています。
安倍政権と日本の教育労働者も非和解です。民営化・非正規化・外注化・解雇、過重労働攻撃は我慢の限界にきています。
 教育労働運動の中にもゼネストの拠点をつくっていく時が来ていると思います。