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労働組合運動の基礎知識 第17回

月刊『労働運動』34頁(0312号08/01)(2016/03/01)

労働組合運動の基礎知識 第17回


小泉義秀(東京労働組合交流センター事務局長)

同一労働同一賃金・同一価値労働同一賃金

 安倍が1月22日の施政方針演説で「同一労働同一賃金」の実現を掲げ、5月にまとめる予定の「ニッポン1億総活躍プラン」に具体的な制度を盛り込む考えを示したことで、「同一労働同一賃金」の問題が一気に焦点化してきた。
 安倍は「労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策の推進に関する法律」(2015年9月16日公布・施行)の具体化の検討を指示した。これは改悪派遣法を補完する立場で、自民・公明・維新の会が提出して成立した法律である。「派遣労働者に焦点を当て、派遣元と派遣先に対して、派遣労働者の賃金決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用などの待遇について規制等の措置を講じる」(2016年経労委報告47頁)とあるがペテン以外のなにものでもない。
 安倍の「同一労働同一賃金」は、連合や民主党が言う「同一価値労働同一賃金」と同義だ。この論は、1980年にアメリカの女性看護師が他の市の違う職業の男性と比べて「仕事の価値が高いにも関わらず、不当に低い賃金しか支払われていない」ことを問題にして賃金格差是正の論理として訴訟を起こした「レモンズ対デンバー市および郡事件」裁判から始まった「コンパラブル・ワース」=同一価値労働同一賃金原則という考え方だ。しかしながらこの論理は職務から要求される技能、努力、責任、作業環境の4つの要因を考慮して、職務にどのくらいの価値があるかの点数をつけて点数が同じならば同じ賃金を支払え、という業績評価制度・能力主義に屈した論理である。
 ある大学の「同一価値労働同一賃金」を論じる博士論文では、部長職に95点の評価点数をつけて、その部長の年収は1200万円である。片やパート労働者には20点の評価点数をつけてその年収は130万円である。この論文の著者は、評価が4・75分の1なのに、賃金が9分の1であるのは不当だ。評価が4・75分の1ならば賃金も4・75分の1にしろと主張するのである。同一価値労働同一賃金論は価値が半分なら半分の賃金で良いという論理に帰結する。
 竹中平蔵の言うように、正規の賃金をはじめとした労働条件を非正規と同じにするための論理が同一(価値)労働同一賃金論なのだ。
 賃金は労働力の価値の価格表現である。労働力の価値とは労働力の再生産費であり、生活手段の価値によって間接的に規定される。生活手段の価値とは衣食住そのものの価値だ。だから資本は生活手段の価値を引き下げ、労働力の価値を引き下げることに腐心する。労働者としては生きていくために必要な生活費を賄えるだけの賃金をよこせというのが要求になる。
 職務に価値があるかのように言いなし、その価値を点数で比較する「賃金論」は労働者を分断する論理だ。派遣先の労働者と派遣元の労働者との間には、直接雇用と間接雇用、正規雇用と有期労働契約という越えられない壁がある。これをそのままにして「均等待遇」が成り立つかのように主張するありかたは安倍や経団連と何ら変わりがない。