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産別・戦線の闘い第4回 習志野市役所解雇撤回闘争の現状

月刊『労働運動』34頁(0318号05/01)(2016/09/01)


産別・戦線の闘い 第4回
自治体労働者の闘い
― 習志野市役所における障がい者不当解雇撤回闘争の現状
ユニオン習志野への弾圧を打ち破り、闘いの拡大へ奮闘しています!

(写真 習志野警察署に対する抗議闘争)

菊池 晴知(ユニオン習志野委員長)

教育、自治体、郵政、医療など各産別の闘い、及び「労働者階級と諸戦線の闘い」を掲載しています。

 昨年結成した自治体の労働組合「ユニオン習志野」は、今年3月以降、解雇撤回闘争(「障がい者枠」で正規職員として習志野市役所に採用されながら「能力不足」を理由に不当解雇された青年の解雇撤回を求める闘い)に取り組んでいます。これから闘いは本格化していきます。これまで以上のご支援を宜しくお願いします。

正規・非正規の壁を越えた労働組合「ユニオン習志野」

 さて、解雇撤回闘争の話に入る前に「ユニオン習志野」について少しご紹介したいと思います。昨年7月、習志野市役所で働く仲間なら正規でも非正規でも入れる労働組合として「ユニオン習志野」を結成しました。それ以前から習志野市役所には正規労働者だけが入れる「習志野市労連」(以下「市労連」と言う)という既存の組合がありました。共産党系の「自治労連」に属しており、とことん「労使
協調」路線をとってきた「御用組合」です。長年職場闘争に取り組まず当局の言いなりになってきたため、組合員からも見放され、現在は組織率も2割ちょっとに激減しています。
 今回「ユニオン習志野」を結成した仲間の多くも以前は市労連の組合員でしたし、市労連の執行部経験者もいます。「腐っても鯛だ、何とか市労連を変えよう」と数十年市労連の中で頑張ってきましたが、「もう今の市労連に再生の見込みはない。きちんと闘える労働組合らしい労働組合が必要だ」と次第に考えるようになっていきました。

当たり前の労働組合つくりたい

 開店休業状態の市労連とは違う「力のある団結体が必要だ」と考える職場の仲間が集まり「動労千葉を支援する会・習志野」を数年前に結成しました。当時はまだ職場有志の集まりに過ぎませんでしたが、雇止め問題、下請け労働者の死亡事故など次々と発生する職場問題に精力的に取り組んでいきました。一方既存の組合、市労連はこれらの問題に一切取り組まないどころか、一言も組合機関紙に書かない、という形で当局の攻撃を後押ししたのです。

給食受取調理員雇止めとの闘い

 7年前、給食受取調理員の全員雇止め攻撃がありました。小学校受取調理員さんの仕事は、給食センターから送られてくる給食の各クラスへの配膳ですが、長い人は10年以上働いていました。本来は正規にしなくてはいけないのにずっと非正規で働かせた上、今度はコストダウンのため全員雇止めにし、短時間パートに置き換える、という悪らつな攻撃をかけてきたのです。私たちは市労連に、雇止め阻止に向けて動くよう要請しましたが、一切取り組まない。この攻撃は単に受取調理員さんたちだけの問題ではなく全職場に広がっていくだろうと私たちは考え、独自のビラをまき、当局とかけあいました。完全に食い止めることはできませんでしたが、希望者には同じ労働条件で働けるよう他の職場を確保する、などの形で一定程度雇用を守ることができました。

再任用職員雇止めをはね返した

 その後、ある再任用の職員(定年後5年間勤務できる制度)に対し、本来は定年後1年更新で5年間勤務できるはずなのに、その人にだけ6か月雇用や3か月雇用を繰り返す、という「異例の」嫌がらせを行って退職に追い込もうとする攻撃がありました。このことを職場にビラで訴えると「一人の職員にだけそんな嫌がらせするなんて許せない」という声がまき起こり、私たちも人事課に乗り込んで撤回
を要求しました。そしてついにこうした嫌がらせをやめさせ、他の職員と同じ1年更新の雇用に戻す、という勝利を勝ち取ったのです。

下請け労働者死亡事故「労災隠し」との闘い

 さらに一昨年10月、市役所のゴミ収集下請けをやっていた委託業者が資源ゴミを収集車で回収中、作業員が車から振り落とされて死亡する、という事故が起こりました。その業者は、市長の後援会長で習志野市防犯協会の会長でもあり、市をゆるがす大問題だったため、労災死亡事故をひた隠しにしていました。私たちが「労災隠しは許せない」とビラで訴え、新聞にも報道され、市議会でも問題になりました。結局その業者を追いつめ労災手続きをとらせることには成功しましたが、刑事事件としては「不起訴」でウヤムヤにされてしまいました。市と業者と警察が一体となったブラック・トライアングル。これが習志野市政の腐敗の最大の原因になっています。

昨年7月ユニオン習志野結成

 こうした問題が次々と起きる中「やはり有志での運動には限界がある。職場で問題が起こればすぐに取り組めるような労働組合がどうしても必要だ」ということで意見が一致し、数か月の準備期間を経て、昨年7月「ユニオン習志野」を結成しました。
 今は非正規の職員がたくさんいるのに、到底食っていけない超低賃金。清掃労働者死亡事故でもわかるとおり、市の仕事に携わっている下請け労働者がたくさんいるのに、労災隠しまでやられてしまう。正規の労働者も人減らしやくだらない人事評価、サービス残業で苦しめられている。それぞれ立場は違っても労働者は一つ、みんな仲間だ。市役所の仕事に携わっている労働者なら誰でも入れる組合、一人の仲間も見捨てず、とことん守り抜く組合にしようというのが「ユニオン習志野」の出発点です。結成後ただちに賃上げや人員補充要求の闘いを開始しました。

障がい者不当解雇に取り組む

 今年の3月16日、ユニオン習志野に1本の電話がかかってきました。「昨年6月習志野市役所に正規職員として採用されたが、今年の2月末で解雇された。話を聞いて欲しい」という相談でした。私達がまいていた職場ニュースに書いてある「ユニオン習志野」の電話番号を見て電話してきた、ということでした。昨年6月「障がい者枠」で習志野市役所に採用されたその青年は、6か月の「条件付き採用期間」終了後も3か月間「条件付き採用」を延長された上、今年2月末、「能力不足」を理由に不当解雇された、ということでした。

「障がい者枠」で採用した青年を「能力不足」で解雇

 相談をしてきたAさんは、現在4級の身体障害者手帳を持っています。昨年の6月習志野市役所の「身体障害者枠」で正規職員として正式に採用されました。
 初めて社会に出たAさんは、とまどいながらも仕事に慣れようとしていましたが、どちらかというと不器用なAさん、課長に同僚の前で怒鳴り飛ばされたりしてストレスがたまり、体調を崩してしまいました。人事課にパワハラを訴えても取り合ってもらえませんでした。
 市役所に「障がい者を職場で受け入れる」研修も受け入れ態勢もない中で、管理職との関係もギクシャクしていきました。
 そして6月の条件付き採用(民間でいう「試用期間」)が終了する11月30日当日、「正式採用は保留。条件付き採用を2月29日まで延長し、総務関係職場に異動させる」と、突然通告されたのです。Aさんはショックを受けながらも新しい職場で黙々と仕事をこなしていきました。
 そんな矢先の2月12日人事課長がAさんとの面談で「苦渋の決断をしなければならない」と解雇をにおわせました。不安に襲われたAさんに追い打ちをかけるように「しばらく実家(関西方面)に帰って休むように」という指示が出されました。仕方なく実家に帰っていたところ、2月18日に当局から電話がかかって来ました。電話を受けた母親に当局は「22日に息子さんと一緒に習志野市役所に来るよう」指示したのです。母親はその日は予定がある旨答えましたが、受け入れられず、2月22日、遠路はるばる習志野市に来た本人と母親に言い渡されたのは、「能力不足による解雇」という非情な解雇予告通知でした。「解雇予告通知は、本来30日前までに」と労基法に定められているのに、わずか1週間前の通告でした。更に解雇日(2月29日)までに支払うべき解雇予告手当も3月18日にやっと支払われる始末でした。法令違反だらけです。

解雇の根拠を示せず墨塗りに

 不当解雇されたAさんが、解雇の根拠になった課長の評価を公開するよう求めたところ、評価欄はすべて墨塗りでした。課長の評価だけをもとにでたらめな不当解雇を行った上、解雇の理由を知る権利さえ本人に認めない。許せません(これについては墨塗り部分も公開するよう審査請求中です)。

「障がい者への特別な配慮はしない」と公言し、労使交渉を拒否する当局

 Aさんとユニオン習志野は習志野市当局と2回労使交渉を行いましたが、総務部長は「法定雇用率をクリアするために身体障がい者枠で採用したのであり、他の一般職と同じ能力が求められる。障がい者だからといって、特別の配慮はしない」と驚くべき発言を行い、また「解雇については習志野市の管理運営事項(裁量の範囲)であり、これ以上の交渉には応じない」と、交渉拒否を宣言したのです。

習志野市民や全国から宮本市長に抗議が殺到

 新聞にもこの問題が30回以上報道され、全国に衝撃を与えています。労働組合、障がい者団体、個人、市民団体から抗議電話や手紙・メールが殺到し、抗議の市内宣伝活動や市役所包囲デモが行われ、6月議会では8人の市議がこの問題で質問する、という異例の事態になりました。しかし宮本泰介習志野市長は、「障がい者を差別したのではない。能力不足で解雇しただけ。顧問弁護士に相談して出した結論だ」と、かたくなに解雇撤回を拒否しています。

障がい者法定雇用率を守らず、労働局から指導された習志野市

 「障害者雇用促進法」では自治体の障がい者法定雇用率は2・3%となっていますが、習志野市は2008年以降ずっとこれに違反し、2014年には県下最下位の1・58%、「あと5・5人障がい者を雇わなければ法令違反」という異常事態でした。
千葉労働局から是正指導が行われ、2015年4月には非正規で4人雇用、6月には「障がい者枠」で正規2人を雇用し、やっと法定雇用率をクリアしたものの、2人のうち1人は退職、もう1人のAさんも不当解雇されてしまったのです。

闘いの拡大を恐れて委員長らを不当逮捕!みんなの闘いで奪還

 そして驚くべきことに、この闘いの拡大を何とか押さえこもうと、7月12日、「ユニオン習志野」の2人(委員長の菊池と執行委員S)を「詐欺罪」でデッチあげ逮捕し、労働組合の旗や腕章、組合関係の書類を押収する、という労働組合弾圧が行われたのです。「書斎や職場・地域の話し合いとして使う、ということで了承をもらい、入居者2名(菊池とS)の名前を契約書に記入して借りたアパートなのに「大家に断らず勝手にSさんが泊まった」などと100%の言いがかり、デッチ上げを行ってきたのです。解雇撤回闘争に対する労働組合弾圧であることは明らかです。闘争の拡大に追いつめられた習志野市のブラック・トライアングル(市長と業者と警察)と安倍政権による組合つぶしの攻撃でした。
 こんな非道は絶対に許せない! ユニオンの組合員も、多くの労働組合・市民も、ビラまきや市役所・警察・裁判所への抗議行動、傍聴に立ち上がって習志野市当局と警察を徹底的に追いつめ、7月22日にはついに2人とも不起訴・釈放を勝ち取りました。全国の皆さんのご支援に心から感謝申し上げます。

相模原事件と障がい者不当解雇事件は同根

 日本中に衝撃を与えた「相模原事件」の「障がい者なんかいなくなればいい」との考え方と「能力不足の障がい者はいらない」という習志野市長の考え方は同根です。    
 大きな希望を持って社会に飛び立った青年の未来を奪うこの事件。労働者への不当解雇であると同時に、障がい者を差別し排除する、という問題でもあります。今後、裁判闘争も含めた大きな闘いになっていきます。勝利の日までご支援をお願いします。