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労働組合運動の基礎知識第25回 三六協定について

月刊『労働運動』34頁(0320号12/01)(2016/11/01)


労働組合運動の基礎知識 第25回
三六協定について


小泉義秀(東京労働組合交流センター事務局長)

 安倍首相は「働き方改革」に関連して「長時間労働を抑制することは非常に重要と考えております。…三六協定の在り方を含め…長時間労働抑制策を取りまとめていきたいと考えています」(2016年3月14日 参議院予算員会における総理答弁)、「三六協定において、健康確保に望ましくない長い労働時間を設定した事業者に対しては指導強化を図ります」(同年3月25日 第6回一億総活躍国民会議における総理発言)などと述べ、長時間労働を是正していくかのような発言を繰り返している。しかし、安倍が進めているのは残業代ゼロ法であり、長時間労働推進なのである。核心は、8時間労働制の解体である。その手法は三六協定を細分化して幾つもの例外規定を設け、青天井の三六協定を容認するということである。
 労働基準法は1日8時間労働を原則として、それを上回る場合は労使による協定を義務づけている。労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその組合、ない場合は過半数の労働者を代表するものと結ばなければならない。その代表は事業所の労働時間を管理する管理監督者であってはならないと定められている。問題はこの労働者代表選挙の方法であるが、投票、挙手、起立による選出や回覧も含めた信任投票も認められている。また行政通達は「労働者の話し合い、持ち回り決議」等での信任決議も認めているので民主的とは言えない。しかし、使用者による指名や役職者の互選は認められていない。従業員の親睦団体代表を自動的に代表とした協定を違法・無効と判断している(トーコロ事件判決 最二小判平13.6.22)。したがって、この労働者代表選挙の方法を巡っての攻防が問題となる。
 ここで重要なのは、就業規則の場合10人未満の労働者しか使用していない事業所は労基署に届け出義務はないが、三六協定は10人未満
でも労基署への届け出義務がある。三六協定が存在していても労基署に届け出がなされていない場合は、三六協定は無効であり、使用者は労働者に残業を命令することはできない。使用者が三六協定の存在を明らかにしない場合は、労基署での閲覧を求めることができる。
 しかしながら、三六協定があっても労働組合が長時間労働規制のために闘わない場合は、三六協定が長時間労働推進のお墨付きを与えることになる。
 日本経団連の会長や副会長を出してきた大企業の労使で結んでいる三六協定は凄まじい。
 キヤノンは1日15時間、1カ月90日、年間1080時間の特別条項付きの三六協定を結んでいる(2008年8・29)。パナソニックは1日13時間45分、1カ月100時間、年間841時間。東レは1カ月160時間、年間1600時間である。(『過労死は何を告発しているか』森岡孝二著 岩波文庫 2013年8月20日第1刷 293頁)
 三六協定が超長時間を合法化している例である。安倍が進めようとしているのはこの三六協定の更なる形骸化である。