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理論なくして闘いなし 第19回 「会計年度任用職員制度」とは何か

月刊『労働運動』34頁(0343号10/01)(2018/10/01)

理論なくして闘いなし 闘いなくして理論なし第19回
「会計年度任用職員制度」とは何か

山本志都弁護士

ユニオン習志野が主催した学習会(5月11日)の山本志都弁護士の講演「会計年度任用職員制度とは何か」を掲載します。

○はじめに

 非正規の公務員の実態、特に2020年から導入されることになった「会計年度任用職員」
については、なかなかどんなものか理解できない部分があるかと思います。公務に携わっている方や組合活動しておられる方は、言葉だけは聞いておられるでしょうか。昨年に行われた地方公務員法と地方自治法の「改正」により、2020年4月をめざして、野放図な状態になっている非正規公務員が「会計年度任用職員」というひどい名称の職員として統合されようとしている、ということなのです。
 私自身も非正規公務員の実情を知りませんでした。8年前に、非正規公務員集会で法律相談を
担当し、そこで実際に相談を受けてとても驚いたことを今でも忘れません。ある市で、1年更新で約21年間働いていた、「定年まで働いてね」と言われていた非正規職員が雇止めされた。民間であれば当然雇用が継続されることに対する期待権が発生して期限の定めのない労働者としての地位が認められるようなケースでした(現在では「無期転換権」が当然に発生します)。しかし、公務員だという理由、「雇用」ではなく「任用」だからという労働者側には関係のない理由でそれが認められない。
 今日は「会計年度任用職員」制度とはどういうものでどういう狙いのもとで導入されようとしているのか、それに対して組合はどう向き合うべきかについて、現状をふまえながら話をしたいと思います。習志野市の実態はどうなのか伺いながら、どういうことが課題になるのか、具体的に考えていきましょう。 第1節 1 「会計年度任用職員」制度導入の前提

(1)「官製ワーキングプア」とは

 ワーキングプアは、フルタイムで働いているのに200万円程度の給料しかもらえず(手取り月額15万円程度)、1人では自分の生活を維持するのが困難な人たちのことをさすといわれます。自治体と直接の関係がある公務員のみならず、民間委託、指定管理などの形でも、役所がワーキングプアを作っているという意味で「官製ワーキングプア」という言葉が使われています。
 先ほどの例から分かるように非正規公務員は法制度の谷間にあり、身分保障のなさは民間以上です。
 実際に私が相談を受けた公立病院の食堂で働いている人の例をみると、委託で働く労働者の状況が窺えます。食堂業務が民間委託されA社が請け負っていた。毎年競争入札が行われており、B社がA社より低い値段で仕事をとる。当然人件費はA社より低く想定されています。B社は現場を知っている労働者をそのまま使いたい。会社どうしは労働者をそのまま移動する形を準備する。
 A社は職場がなくなることを理由に労働者を切り、B社はより悪い条件を提示して「これでやりますか」と「選択」させる。同じ仕事をしてスキルは上がるにもかかわらず賃金は下がる。こんな不条理が起こっています。

(2)臨時・非常勤職員の現在の状況

 少しデータを見てみます。地方の正規公務員の数は1994年の328万人からずっと減り続けています。警察や消防以外は軒並み、教育部門でも2割減です。
 2006年から2016年の10年間で、正規は26万人減り、非正規は21万人増えたといわれています。総務省の実態調査では(必ずしも正確ではない部分もありますが)非正規公務員の数は全国で64万3000人です。4年前の調査より約4万5千人増えています。正規職員が非正規職員に置き換えられているのです。
 非正規の人は短い時間しか働いていないわけではありません。また、臨時的な業務に従事しているわけでもありません。一般事務のみならず、役所の窓口業務、それから、保育、給食調理、図書館職員、看護師・看護補助員、学童保育、ケースワーカー、消費生活相談などの職種に広がり、むしろ、私たちが日常的に接する公務員の多くが非正規化されているのです。
 本来、公務には恒常性があり、簡単になくなることはありえず、臨時的に任用された職員が公務に従事することは予定されていません。つまり「任期の定めのない常勤職員が公務に従事する」というのが公務員制度の基本とされてきたわけです。しかし、労働運動が弱体化する中で、コスト削減が推し進められて、現在のような状況に陥っています。公務員の半数以上が非正規という自治体まで生まれています。
 非正規公務員はまず、その地位が不安定です。事実上繰り返しの任用は行われてきているけれど、法的には雇い止めに歯止めがないのです。争う方法も限定されています。正規公務員であれば地位を争うための制度が準備されています。非正規の場合には制度が使えず、また裁判を起こした場合でも「任用」の壁によって期待権の侵害が認められても、地位確認されないというのが判例になってしまっています。
 雇用が不安定ということは、処遇が劣悪ということに直結します。雇用が不安定だと闘うことは難しい。ある自治体の臨時職員が、セクハラを受けて、組合に相談して問題にしてもらった直後、それまで繰り返し任用されてきたのに雇い止めにあったという例がありました。権利主張をすること自体が嫌われるということがあります。
 賃金も最低賃金プラスアルファ程度、昇給制度のある自治体は多くなく、何年働いても賃金が上がりません。地方公務員法で非常勤職員については「手当は支給できない」と規定されています。「費用弁償」はできるので通勤にかかった費用は出すべきなのですが、「通勤手当」というのはここにひっかかりうる。また「期末手当」の支給も問題になりうる。フルタイムの4分の3以上になっていれば、常勤と変わらない実態があるから手当を支給してもいいという判例があり、実際にわずかであっても支給している自治体も多いのです。しかし一時金が払われていない人も6割もいます。その結果、正規と同じ仕事をしても給料は2分の1から3分の1という事態が生じてしまっている。
 総務省の調査によれば、夏季休暇がない人は5割で、私傷病休暇(自分が病気になった時に、有給以外の休みがとれる制度)がない人は3~4割です。正規公務員の場合は有給の私傷病休暇と無給の私傷病休暇があるのです。
 労働安全対策からも排除されています。私が担当した事件では、森林の調査をする臨時的任用職員が、傾斜が45度くらいの森林で滑落してケガをした。自分の担当業務を全うするために休みをとらず、2週間後には無理して現場に復帰した。その後、さらに転び、症状がひどくなって公務災害の申請をしようとした。非正規公務員のための制度はほとんど使われておらず、自治体内で審査することになっていて、担当職員すら手続きに習熟していない。上司からは申請に際していろいろ妨害をされる。労災も一部しか認められず、あげくに雇い止めにあってしまったというケースがありました。命と健康は差別・区別することが許されない領域ですが、非正規は異なる取り扱いを受けています。

(3)職員の地位の法的根拠

 現在の非正規の公務員は以下の4種類のいずれかに位置づけられるとされています。ただし、
一般職任期付職員はほとんど使われていないので、①特別職非常勤職員、②一般非常勤職員、③一般職臨時的任用職員の3種類について知っておけばよいと思います。ただし「官製ワーキングプア」という言葉が広まる前は、根拠条文を意識することすらなく漫然と非正規雇用を繰り返していた自治体すらありました。
 特別職非常勤職員(地公法3条3項3号)は、制定当時は、学校の校医とか調査員とか、ある特定の時期に短期間だけ公務をやる人たちが想定されていました。しかし、一般事務職員、消費生活相談員など本来はここに入るはずがない人に対して適用してきました。全国で約22万人です。
 一般職非常勤職員(地公法17条)は約17万人、臨時的任用職員(地公法22条)が最も多く約26万人です。臨時的任用職員については、法律上任期に6か月以内という制約があり、更新は1回限りです。6か月で1回更新ができるから継続して任用できるのは1年が限度。空白期間を入れ、つながっていないという形をとって、「再度の任用」を行う。そんな形で、1日から数週間の空白期間を置くという運用をしている自治体が多かった。保険も一回切れてしまい、いったん国保に切り替える。年金の手続きも面倒になる。年休の扱いも様々。不利益を働いている人に押し付けるわけです。
 特筆すべきは、特別職非常勤職員が労働三権を有していることです。任用だが民間とそれ以外は同じように扱うとされ、組合を作ることも団交することもストライキをすることも労働委員会を使うこともできる。

(4)現状のようになった原因

 なぜ、このようなひどいつぎはぎのおかしい仕組みになったのか。
 まず行政改革によって、常勤職員が大幅に削減されたからです。一方で、行政需要がどんどん変化しています。業務の多様化が進み、相談業務、窓口業務は増えていますし、子どもや家族に関する仕組みも20年前から比べるとずいぶん変わった。そういうところに、本来は人を配置しなくてはいけないのに、それに対応できる体制が整っていない。そこで自治体は非常勤職員をどんどんつぎはぎ的に入れていく。必要だから入れるのですが、その人たちを今後長い間どうやって雇っていくのか、どうやって人材育成していくのかという観点がないまま、そして職員組合もそれに対抗できないまま、非正規の人数がふくれあがっていった。
 本来公務は全部正規でやることが想定されているわけです。非正規は特別な時、選挙で選ばれた人とか、産休代替とか病欠代替とか必要な時だけ臨時的に補充するという考え方だったのです。本来的な仕事、公務からなくなることのない仕事、必ず毎年発生する仕事に非正規の人がつくことは想定されていませんでした。
 ここからひねり出されてきたのが、今回の「会計年度任用職員」です。この点でバラバラの状況を、総務省の方でも困ったことだと思っていた。同じ仕事をしている公務員が、ある所では特別職で働いていて、ある所では一般職で働いている。手当もまちまち、処遇もばらばら。裁判も散発的に起きる。それをまとめてやれというのが、総務省の考えです。
 同時に、特別職のようなストライキをすることができる、組合をつくることができる公務員は本来、総務省にとっては存在してはならないものです。そういう「特別職非常勤職員」が全国に22万人いる。それを無くしたい。「会計年度任用職員」に非正規公務員64万3000人をみんな押し込んでしまえば、統一的に全国の制度を考えていくことができるというのが総務省の法改正の狙いだったわけです。決してこの制度は働く者の立場から考えられたものではありません。
 【以下、次号に続く】