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労働組合運動の基礎知識 第48回「早出残業」について

月刊『労働運動』34頁(0343号12/01)(2018/10/01)


労働組合運動の基礎知識 第48回
「早出残業」について


 ある職場で始業時間が8時30分からとなっているのに、8時15分から仕事を始めていることが明らかとなり、この15分の早出残業時間の未払い残業代を請求することになった。毎日15分でも3年も働けば20万円を超える金額になる。一般的には2年間の請求しかできないが、団体交渉次第ではさかのぼって3年分支払わせたいところだ。
 こういう職場で団体交渉を行い、問題になるのが資本の側は「8時15分から仕事を始めるようにと会社は指示はしていません。自主的に15分前から仕事をしていたわけでしょう。だから超過勤務には当たらない」と言う。
 しかし「労働時間」というのは「雇い主が雇い主の必要に応じて、労働者に対して求める行動に労働者が従事しなければならなかった時間」を言う。裁判所の判例で有名なのは「労基法上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいう」(三菱重工事件、最高裁2000年3月9日判決)。
 ここで重要な点の第一は、会社が早出残業の勤務を命令したか否かではなく、8時15分から仕事をしなければ回らない仕事をしているということだ。そうなると、8時15分からの仕事は雇い主が求め、それに従事しなければならない性格があることになる。こういう実態がある時は「自主的に来ている」とは言えない。
 第二に重要なことは、「労働時間の把握と管理」は使用者が講ずべき措置なのである。厚生労働省が2001年に発表した資料として「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準について」というものがある。
 ここでは「(1)始業・終業時刻の確認及び記録 使用者は、労働時間を適正に管理するため、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、これを記録すること。
(2)始業・終業時刻の確認及び記録の原則的な方法 使用者が始業・終業時刻を確認し、記録する方法としては、原則として次のいずれかの方法によること。
ア 使用者が、自ら現認することにより確認し、記録すること。イ タイムカード、ICカード等の客観的な記録を基礎として確認し、記録すること。」と記されている。
 証拠という意味では「(4)労働時間の記録に関する書類の保存 労働時間の記録に関する書類について、労働基準法109条に基づき、3年間保存すること」となっている。
 ドライバーの仕事では配達先の入構時間が決まっている場合、遅れないように到着するためには早めに出発しないと道路状況に応じて遅延する可能性もあるのでドライバーは早い時間に出発する傾向がある。1時間も2時間も前に到着するような早出残業が労働時間に入るかどうかは交渉事項になるが、ここの職場の場合は8時30分から仕事をしたのでは仕事が間に合わないのだから15分の時間は早出残業時間として支払わなければならない。そうしてそのことを管理者は把握していなければならず、3年間はその記録も保存していなければならない。

小泉義秀(東京労働組合交流センター事務局長)