韓国鉄道労組の民営化反対ストライキ
金 元重 (韓国労働運動史研究家)
昨年12月、韓国の全国鉄道労働組合は、朴槿恵(パククネ)政権が進める鉄道民営化に真っ向からストライキ闘争で立ち向かった。ストは当初の予想をはるかに超え、12月9日から30日まで22日間の歴代最長記録をもって打ちぬかれた。この新自由主義=民営化の潮流に敢然と立ち向かった韓国鉄道労組の闘いに対し、日本の動労千葉をはじめ、各国の闘う労働組合から熱い連帯が送られるとともに、なぜ韓国でこのような民営化反対鉄道ストを長期にわたって打ち抜くことができたのか、驚嘆の声があがった。われわれはこの闘いのなかに反民営化闘争の反転攻勢の手がかりを探ることができるかもしれない。
2013年鉄道ストライキの背景と対立構図
民営化の流れはすでに金泳三(キムヨンサム)政権期にまで遡る。はじめて「鉄道民営化」案が登場したのは金大中政権期のいわゆるIMF危機のなかでだった。鉄道庁を含めた公企業の民営化を積極的に推進しようとしたその骨子は、鉄道庁と高速鉄道公団を統廃合した後、施設と運営部門を分離し、施設部門は韓国鉄道施設公団が、運営事業は民営化した韓国鉄道株式会社が受け持つ方式。しかしこれは2002年、強力な鉄道・電力・ガス民営化反対共同闘争で阻止された。
盧武鉉(ノムヒョン)政権になって、民営化は「鉄道庁の公社化」に軌道修正された。2005年韓国鉄道公社(コレイル)が発足、鉄道公社は鉄道運営部門を専担するために設立された機関となった。李明博(イミョンバク)政権では、従来のソウル発KTX(高速鉄道)と分離して2015年開通予定の水西発KTXを子会社として分離することを打ち出したが、任期末に大企業特恵批判を受け頓挫した。当時、大統領選挙を控えた朴槿恵候補は「国民の同意のない民営化はありえない」とこの案に反対を表明していたにも関わらず、政権につくや否やこれは「民営化ではなく、コレイル子会社を通じた鉄道競争体制の構築である」と糊塗したのである。
鉄道労組は現在、民主労総傘下の全国公共運輸社会サービス労働組合連盟に所属しており、組合員数は21,963人、全国に5つの地方本部と130の支部を持つ。組合費は毎月の賃金のうち基本給の1.8%とし、うち0.8%は一般会計に、1%は争議基金及び犠牲者救護基金としている。鉄道労組は韓国労総から民主労総に上部団体を変更する以前にも、1988年と1994年にストライキ闘争を経験している。2002年のストライキ(3日間)は上記の金大中政権の鉄道民営化方案を阻止するためであったし、2003年の4日間にわたるストライキはいったん盧武鉉政権との画期的な4.20合意を取り付けたが、その直後の6.28ストライキでは弾圧により手痛い敗北を喫した。2006年のストライキ(4日間)は鉄道公共性保障を要求したストだったし、2009年ストライキ(8日間)は李明博政権が公企業先進化を掲げて一方的に団体協約解約を通告したことに対するものだった。 第2章 2013年民営化反対ストライキの経過
6月末に政府が水西発KTX子会社運用案を盛った鉄道産業発展案を発表すると、鉄道労組は7月に入ってから闘争突入時期を伺うと同時に、民営化反対闘争の正当性を周知させる組合員指導と教育に入った。この入念な教育によって組合員たちは鉄道公共性にたいする信念を強固にすることができたが、それは今回のストの核心である機関士たちのストライキ隊伍離脱者がもっとも少なかったことにあらわれている。11月22日には争議行為決議がなされ、投票率91.3%、賛成率80%だった。12月9日、水西発KTX株式会社設立を鉄道民営化の第一段階と見た鉄道労組は、午前9時を期して全面ストに突入した。この日キム・ミョンファン鉄道労組委員長が示した指針は、①全組合員は2013年12月9日09時を期して鉄道民営化阻止と2013年闘争勝利の全面ストに突入せよ、②鉄道労組は国民の不便を最小化するために、必須業務指名者は該当業務に臨む、③必須業務指名者を除く全組合員は12月9日に各地方本部争議対策委が主管する地域別全面スト出征式とロウソク集会に参加せよ、というものであった。組合員2万1千余名だが、鉄道運営に必要な最小人員を除外した1万3275人のうち1万150人がストに参加したと明らかにした。(スト参加率76.5%)。ここで注目すべきは、2009年ストに参加して懲戒を受けた組合員たちは今回必須維持業務に就き、当時必須維持業務を引き受けた組合員たちが今回ストの前面に立った。鉄道労組の組織力を物語るものといえよう。
一方、政府と鉄道公社は合法的手続きを踏んだストであるにもかかわらず、「政府の政策変更を要求することは交渉対象ではない」として不法ストと規定し、鉄道公社はスト突入と同時に、キム・ミョンファン委員長はじめ194名の労組幹部を業務妨害などで刑事告発するとともにスト参加組合員4356名に対し、職位解除した。職位解除された組合員はすべての職務から排除され、各種手当をのぞく基本給だけを支給され、スト終結後に懲戒審査に回付される。
12月10日、鉄道公社臨時理事会は、水西発KTX分割法人の設立を議決した。民主労総と鉄道労組は記者会見し、スト収拾のための5方案を政府と国会、鉄道公社に提示した。①水西発KTX株式会社設立決定の撤回、②国土交通部の該当株式会社免許発行中断、③国会国土交通員会傘下に鉄道発展小員会構成、④当事者が参加する社会的議論機構構成、⑤告訴・職位解除など労組弾圧の中断。
14日のソウル駅前での鉄道労働者総力決意大会に2万余人が結集し、キム・ミョンファン委員長は政府と使用者に17日までに労組の要求に対する回答を要求。夕方から同じ場所で官権不正選挙糾弾・鉄道民営化阻止ロウソク集会が開かれ、鉄道労組が合流した。大字報「アンニョンハシムニカ」の大学生200人も参加した。
スト1週間目の16日、朴槿恵大統領は、「鉄道ストは国民経済に被害を与える不法ストであり、名分のない集団行為だ」と非難し強硬姿勢を続けた。裁判所は鉄道労組執行部10名に逮捕令状を発布した。18日スト10日目。
民主労総の貨物連帯(組合員1万2000人)が鉄道ストにともなう貨物代替輸送の拒否を発表。鉄道ストによる貨物輸送率が39.4%台に落ちた段階で貨物連帯の代替輸送拒否は物流輸送に打撃を与えた。貨物連帯は「労組弾圧中断」「鉄道民営化反対」の横断幕1000枚を組合員に配布し、貨物車に取りつけて輸送拒否に突入した。
12月22日、警察は鉄道労組幹部9人を逮捕するとして、5500人を動員してソウル貞洞所在の京郷新聞社社屋にある民主労総事務室に押収捜索令状もなしに強制突入(侵奪)した。スト指導部はすでに退避した後で、代わって侵奪に抵抗した民主労総幹部、組合員136人が連行された。この民主労総本部に対する未曽有の強制突入は、労働界と市民運動、国民世論の公憤を爆発させる契機となった。民主労総はただちに「朴槿恵政権退陣を求める実質的な行動に突入する」として12月28日に全面ストライキ闘争に突入すると宣言。韓国労総も政府の暴挙に抗議し、民主労総支持と政府との一切の対話断絶を宣言した。
12月28日午後、ソウル市庁前広場での「民営化阻止、労働弾圧粉砕、鉄道ストライキ勝利第1次全面ストライキ決起大会」に民主労総と韓国労総の旗の下に組合員と市民あわせて10万人が集まった。2008年狂牛病ロウソク集会以来の大規模集会となった。民主労総と韓国労総の二つのナショナルセンターがともに全面ストライキ集会を開いたのは、1997年の労働法改悪阻止闘争以来16年ぶりだった。
こうしたなかで鉄道労組の要請を受けた野党民主党を仲立ちとした仲裁の試みが重ねら
れ、結局12月30日、国会で与野党議員の仲裁により一定の合意が実現した。内容は△国会の国土交通委員会傘下に鉄道産業発展小委員会を設置する、△同小委員会の活動の支援に必要なら与野党、国土交通部、鉄道公社、鉄道労組、民間専門家などが参加する政策諮問協議会を設置する、△鉄道労組は国会で鉄道産業発展小委員会の構成に加わると同時に、即ストライキを撤回して現業に復帰する。
30日午後、キム委員長はストライキ撤回を公式に宣言し、国民へのメッセージで「皆さまの支持により22日間の厳しい弾圧と逆境のなかでも組合員は固くストライキ隊伍を守ることができました。この場を借りて2万1千組合員と10万鉄道家族に代わって心から感謝の言葉を申し上げたい」と述べた。
鉄道民営化反対ストライキの成果と課題
今回の鉄道ストの成果と教訓を考えるにあたってまず銘記すべきことは、それが鉄道民営化阻止を掲げて闘われたストライキ闘争であった点である。そして今回の鉄道ストの評価として多くの人が異口同音に指摘するのは、「民営化はよくないことだ」という共通認識が国民の間に浸透したという点である。「単一労働組合が起こしたストライキによって民営化全般に対する国民的世論が形成されたという点で驚くべき事件だった」、「2008年のロウソク集会のときは、李明博大統領に対する政治的反対が主たる動力だったとすれば、今回はストライキを中心に世論が形成された」(亜州大・チェヒガプ)。またダンビョンホ元民主労総委員長は「鉄道労組の闘争は民営化、社会公共性の問題を社会の中心議題に転換させた。また国民が民営化問題を労働者の雇用、労働条件の問題を超えて国民生活の問題であると考えるようにした」とその意義を強調した。
民主労総のヤンソンウン首席副委員長は「鉄道労組の闘争は止まっていた民主労総の心臓を蘇らせた」と高く評価した。民営化反対の鉄道ストが新自由主義政策をひた走る朴槿恵政権の正体を暴きだし、それとの対決を鮮明にし、朴政権の反労働組合政策に対する反攻の契機をつくりだしたのである。
さらに今回の鉄道ストで注目すべきは、これまでのストライキとの違いとして、その終結において「崩れ」がほとんどなかった点である。組合員たちはスト突入時から「一緒に闘い、一緒に(職場に)戻ろう」を合言葉に闘った。政府から「不法」と誹謗され、政府・鉄道公社の厳重対処の脅しのなかでも、鉄道労働者がストライキ隊伍を守って最長期のストライキを打ちぬくことができたのは、鉄道民営化阻止の信念とそれを支えた周到な組合員教育、指導部への信頼が作られていたからだと言える。
「鉄道労働者として闘争に参加して幸福だ」という明るい声が多く聞かれた。組合員たちのこうした闘争への自信の根底には、民営化反対という闘争目標の正当性の認識と同時に合法ストライキであることの自信もあった。労組のスト権を制約していた職権仲裁制度が2008年に廃止され、必須維持業務制度が導入されたためスト自体が不法だった過去とは異なり合法ストとなったことが76.45%というスト参加率の向上をもたらした。
闘いは続く-解雇、重懲戒、損賠、強制転出
12月31日、現場復帰に当たってキム・ミョンファン委員長は闘争指令で「鉄道分割と民営化阻止闘争は終わっておらず今後も続く、各支部ごとに当面の懲戒、および現場弾圧粉砕、民主労働組合死守のための闘争計画を共有して力強い闘争を決意する」と宣言した。
予見されていたとはいえ、政府・鉄道公社はなりふり構わぬ報復的な組合弾圧に乗り出した。4月9日現在、労組幹部130人を解雇し、
404人を重懲戒し、162億ウォンの損害賠償請求訴訟を提起した。そして3月下旬ころから「地域・所属間循環転補(転任)」という人事異動を発表し、4月7日、726人に対して断行した。鉄道労組は希望しない者までも転補の対象としており、組合を無力化させるための「強制転出」であると反発。イ・ヨンイク前鉄道労組委員長と強制転出の対象者となったソウル車両支部のユ・チサン組合員が9日朝、ソウル雲平区のスセク駅にある高さ45㍍の鉄塔にのぼり鉄塔籠城に突入した。また鉄道労組の現場幹部80余人も同日ソウル駅でハンスト籠城に入った。鉄道労組はこうした大規模配置転換を阻止すべく再ストライキをも視野に入れて対抗することを明らかにしている。