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労働組合運動の基礎知識 第11回

月刊『労働運動』34頁(0306号13/01)(2015/09/01)

労働組合運動の基礎知識 第11回


小泉義秀(東京労働組合交流センター事務局長)
「定年制」と中高年の賃金減額、再雇用制度

韓国の労働法制改悪の源は日本

 8・15集会参加のために来日した民主労総の仲間との交流会の中で、日本における定年制や、中高年層の賃金減額措置を実施している企業のことについて質問があり、討論になった。今韓国で問題になっている「賃金ピーク制」は日本の悪しき制度を模倣したもので、労働者派遣法、有期労働契約などの悪法・悪しき制度は全部、日本発のものだ。我々の責任を痛感せざるを得ない。
 日本において中高年層の賃金減額を実施している企業は34・5%に及ぶ(産労総合研究所調査、2009年10月)。現在はもう少し増えているかもしれない。基本給13・6%減額、一時金22・8%減額を、55歳で実施している企業が多い。これはあくまでも平均である。JR東日本では基本給10%以内の減額であるが、JR貨物は55歳で基本給が30%も減額される。
 定年とは、労働者が一定の年齢に達した時に労働契約が終了する制度である。高年齢者雇用安定法は、1998年より定年の定めをする場合には60歳を下回ることを禁止している(法8条)。その後、厚生年金などの支給開始年齢が段階的に引き上げられたことを受けて、2004年改正により65歳未満の定年を定めている事業主に対して、65歳までの雇用確保措置を義務付けることになった(法9条)。雇用確保措置としては、①定年年齢の引き上げ、②継続雇用制度の導入、③定年の定めの廃止、のいずれかの手段をとる必要があるということだ。

「定年制」の源は戦時体制

 民間企業の場合、60歳で定年になり再雇用される企業においては、それまでの賃金の60~70%に下げられて再雇用されるケースが多い。これを75%の減額に留めるために補てんする制度が「高年齢雇用継続基本給付金」である。再雇用の賃金が75%に満たない場合、その差額を雇用保険から支払う制度だ。2か月に一度、賃金とは別に雇用保険から振り込まれ、75%が維持される仕組みになっている。
 しかし、この雇用継続制度は、「希望者全員を対象としない制度も可能」(法9条2項)であり、雇用の形態も「労働者の希望に合致した職種・労働条件による雇用を求めるものではない」(職高発1104001号)とされていて、組合の活動家を恣意的に再雇用しないことも可能になる。
 定年制の起源は実は戦時体制にあった。「国民を戦争に動員するために、政府は労働統制を強化し、賃金統制令などで年功賃金と退職金支払い、55歳定年制を企業に強制。地方の産業報国会は『男の操だ 変わるな職場』という戦時スローガンを作り、転職を防いで生産効率を高めることで協力した。ただ労働力不足などで定年制はほとんど機能しなかった」(東京新聞8月10日朝刊)。戦後に労働統制はなくなったが、企業は戦時中の制度をそのまま上書きしたような雇用慣行を導入した。年功序列と55歳定年制は、高度成長期の企業にとっては都合が良かったのだ。米英では定年制は差別であるとして法律で禁止されているそうである。