月刊『労働運動』34頁(0309号10/01)(2015/12/01)
時代を解く
藤村 一行(動労千葉労働学校講師)
「イスラム国」(IS)による仏同時テロ 何が始まったか

11月13日、パリ市内と近郊のサッカー場で大規模な同時テロが発生。直接の犯行グループは8人、それ以上とされている。作戦規模と犠牲の大きさなどから今年1月のシャルリーエブド社襲撃事件を超え、01年9・11のアメリカ同時テロに匹敵する衝撃で世界を震撼(しんかん)させている。直後にISが声明を出した。
このテロは、無差別テロである以上、闘う労働者の立場から断じて容認できない。革命や社会の変革、労働者の解放、帝国主義打倒につながるものでない以上、全面的否定の対象である。
事件は現在進行形である。フランス警察と軍隊は各所で「アジト」を襲撃、殺害や逮捕を行っている。ベルギーでも、「犯行」グループとみなされた青年ら多数を殺害した。さらに地下鉄など交通機関を止め、追跡戦を展開している。難民問題と結びつけて新しい大規模テロが準備されていると喧伝(けんでん)され、フランスでは非常事態宣言が出され、全ヨーロッパが戦場と化した。労働者に対する恫喝(どうかつ)が加えられ、イスラム系の人々は無差別弾圧や逮捕攻撃にさらされている。逮捕者はすでに1000人を超えた。中東で戦争が激化・泥沼化するだけでなく、ヨーロッパ社会全体が戦場化してしまった。だが同時に、難民に対する人間的対応を要求し戦争宣言を拒否する労働者の行動も展開されていることを確認しよう。
※仏やEU各国、米とロシアの 動き 中東支配の全面的破綻
フランスは、ISに対する「全面戦争」に突入した。ロシアはシリアにおける空爆をさらに強化した。米オバマは、アサド後のシリアについてロシアも含めた協議を受け入れようとしている。トルコはこの危機に全面的に巻き込まれつつある。この瞬間、イスラム「過激派」に対する帝国主義国家とロシア・中国まで含めた「連合」が形成されているともいえる。イスラムに対する全面戦争に労働者を引き込む中で彼らは末期の体制延命を探ろうとしているのである。フランスには、全人口の1割を超えるイスラム系の人々が生活している。旧植民地を出自とする人々は、第二次大戦後も貧困と差別に苦しんできた。今世紀に入って、新自由主義的な格差拡大と米のアフガニスタン・イラク戦争による中東支配の全面的破綻、また2011年「アラブの春」以後の変革運動に対する弾圧と挫折。その中でイスラム系の青年労働者が現状に対する我慢のできない怒りを爆発させ、IS的なものとも結びつくようになった。