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時代を解く第21回 世界を揺るがす難民問題 トランプ、英国EU離脱、中東危機

月刊『労働運動』34頁(0324号05/01)(2017/03/01)


時代を解く 第21回
世界を揺るがす難民問題 トランプ登場、英国EU離脱、中東危機の大波

※年間100万人をこえる戦争難民が

 難民問題が世界を揺るがしている。一昨年には、一年間で100万を超える難民がEUにおしかける事態になった。ドイツだけで110万人を受け入れた。この大波が昨年やや縮小したかのように見えたのは見かけだけだ。ドイツが昨2016年3月、トルコに対してシリア難民を一部送り返す、トルコで難民を収容する体制をとらせて援助を増やすという協定を結んだのだ。ヨーロッパを目指していた難民はトルコをはじめシリア周辺国にこれまで以上に滞留することになった。シリアやイラクの「戦乱」はなんら治まっていない。トルコは流入する難民とクルド問題、そして国内におけるIS系のテロ、クルド人民の武装闘争に揺るがされて軍がクーデターに走った。エルドアン政権はこれを押さえ込んで戒厳令的独裁体制を敷いた。EU・ドイツはヨーロッパが揺らいだことに慌てて、中東やアフリカに難民を封じ込めてごまかそうとした。しかし、問題は一段と深刻化しつつある。

※帝国主義の侵略と新自由主義

 難民を生み出す「戦乱」は、シリア・イラクだけでなく、パレスチナ・イスラエル問題そしてサウジアラビアとイエメン、さらにリビア・スーダンなどにも広がっている。アフガニスタン難民も多い。実はアフリカの難民が一番多いという。スーダンの破局は想像を絶する犠牲者と難民を生み出すのではないかと心配されている(自衛隊はそこに派遣されている!) 。「アラブの春」の頃、アフリカから地中海を渡ろうとして船が沈没、船倉に閉じ込められ死亡というニュースが連続した。15年には、シリア難民が陸路、EUに入るルートが中心となった。ハンガリーなどはこれに対してフェンスを設置し、入国を阻止しようとした。家族連れの難民は命がけで阻止線を破り、最終的にはドイツやスウェーデン、一部はイギリスを目指した。中東・アフリカの戦乱は歴史的にも現在的にもヨーロッパ帝国主義の侵略が原因であることを考えた時、こうした対応はあまりに非人道的だ。

※ファシスト運動の台頭、階級的決戦情勢

 こうした中、フランスでイスラム系の大規模なテロが起きた。フランス・オランド政権(社会党!)は「私はシャルリ」などと叫んで排外主義と反イスラムを煽りたて、シリア・イラクに空母を派遣する挙にでた。国内では非常事態宣言を発して戦時的体制を敷いた。そのなかでもフランス労働者階級は労働法制をめぐるゼネストで闘い続けた。重要なのはドイツだ。ドイツ経済は、移民労働力を追加しながら生きていく構造なのだ。これはEUにおけるドイツ一人勝ちの構図と関係している。資本と人・物の移動にかんする自由(EUのグローバリズム)は、ドイツのためにあるようなもの。ドイツは周辺・周縁を破壊し、それをエサにして肥え太っている。難民もドイツにとってはプラスと言われた。イギリスのEU離脱も保護主義を掲げるトランプ登場もこのような衝撃の中で起きた。トランプはフランスのルペンらファシスト勢力と連携している。難民問題は鋭く新自由主義の破綻を突き出した。1930年代を上回る階級的決戦情勢が到来している。
 藤村 一行(動労千葉労働学校講師)