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11月労働者集会・改憲阻止1万人行動の報告 訪韓闘争報告

月刊『労働運動』34頁(0333号02/03)(2017/12/01)


11月労働者集会・改憲阻止1万人行動の報告 訪韓闘争報告

(写真 アルバ労組とチョン・テイル烈士像)

ロウソク革命は終わっていない!―訪韓闘争報告

高橋 徳臣(沖縄労組交流センター)

全泰壱(チョンテイル)烈士の精神を継承

 青く澄み切った空を見上げる。雑踏を飲み込むように深呼吸をすると、うっすら淡い雲を伸ばす。本日のウェザーリポートでは一桁の最高気温。沖縄との気温差は20度余り、あまり経験しない寒さに気分も高揚する。
 11月12日15時に開催される韓国民主労総による労働者集会の時刻より、遡(さかのぼる)ること4時間前、私は神奈川県の仲間たちと東大門(トンデムン)市場周辺を散策していた。
 柳橋(ボドゥルタリ)を流れる清渓川(チョンゲチョン)を横目に、ゆるいスロープをあがると
広場の中心に、凛(りん)とした表情で遠方を臨むチョン・テイル烈士像。作業服を身に着けているが、顔にはどこか幼さを感じさせる。それもそうだろう。彼はこの広場で、22歳という若さで焼身自殺をしたのだから――。
 ――縫製工として働いていた彼は、勤務先の劣悪な労働条件を目の当たりにする。肺炎を患ったことで会社から解雇された幼い女性工員を助けようとしたことを理由として、チョン・テイルも解雇される。
 その後、独学で労働法を学び工場の実態調査をして、政府へ訴えるが全く改善されず、この現状を打破するために、抗議集会を開催。しかし、集会は権力に妨害され強制閉会されそうになったため、彼はガソリンをかぶり「われわれは機械ではない」、「勤労基準法を遵守しろ」と主張して焼身自殺したという。
 「僕の死をムダにするな!」と叫びながら死んだ彼は、軍事独裁政権下の韓国社会にとって大きな衝撃を与えた。彼の死によって労働者の過酷な労働の現実が報道されると、またたく間に労働運動が活発となった。韓国の労働者には「全泰壱(チョンテイル)精神」が、継承されている――。
 ――碑文に記されたメッセージに思いを馳せながら、ふと閑散としたチョン・テイル烈士像を賑やかす一つの集団。組合旗を持つ若人。旗には「アルバ」の文字。アルバイト労組のメンバーで、10代を中心に組織されている。
 民主労総の集会前にチョン・テイル烈士の精神を学ぶために訪れたようで、あどけなさを残す顔つきではあるが、表情は真剣そのものだ。アルバ労組の簡易集会は各々の発言に移る。言葉は分からないが、恐らく戦争反対、労働法制改悪にNOと言っているのだろう。10代の若者が、自身とその仲間の労働と誇りを守るために闘う。日本では考えられない光景に激しい感銘を受ける。こうしてチョン・テイルの精神は脈々と受け継がれているのだろう。
 通訳を通して神奈川の仲間と、嬉しいことに私にも、発言の機会を設けてもらいました。「今日はみなさんと連帯するために、沖縄から来ました。沖縄には日本の米軍基地のほとんどが密集していて、毎日が戦争です。国際連帯の力で戦争を止めるためにやってきました。そして、その力は非正規職撤廃の力にもなります。闘争!」短い発言でしたが、歴史散策で訪れたチョン・テイル烈士像前で、しっかりと国際連帯を韓国の青年に訴えることができて幸運でした。
 清渓川から吹き抜ける風が無人のシャッターを揺らす。商店街は日曜日だというのに、人の気配は眠りについたようにまばらだ。いつもなら華やぐ場所らしいが、どうにもこうにも閑古鳥が鳴いている。どういうワケなのか、アルバ労組の仲間たちを思い浮かべることで、解答へたどり着く。
 もちろん労働者集会に出ているからというのも一つあるのだが、私は率直に「土、日、祝祭日は労働者が休む日」というのを徹底しているのだろうと思った。街角には集会参加者、観光客、休日を楽しむ労働者という感じだ。高いビルの中にも、人の気配は感じられないことが確信へとつながった。おかげで昼食の場所をさがすのも一苦労ではあったものの、労働者本来のすがたと邂逅(かいこう)したようで心地が良かった。

(写真 11・12民主労総全国労働者大会【5万人】)

国境を越えた団結!

 天をつんざく怒声。たなびく無数の旗は烈火の揺らぎを思わせる迫力だ。――ここはソウル市庁前広場。民主労総の全国労働者集会は、開始20分前だというのに労働者で溢れかえっている。大型冷蔵庫を縦に2台並べたほどの大音響サラウンドスピーカーと、ディスプレイサイズが桁違いの、有機ELモニターを通して伝わってくるのは、「ロウソク革命は終わってない」という蜀台(しょくだい)をも溶かさん熱意だ。
 本集会でも中心となっているのは10代、20代がほとんどで、なかには小さな拳を突き上げる、小学生くらいの子もいた。韓国では本当に驚くことばかりだ。もちろんシニアな仲間たちも威風堂々とかまえ、青年には負けてられないと一緒にスクラムを組む。集会は歌とダンス、各産別からのアピール映像と解放的な雰囲気だ。
 宙に浮かぶアドバルーンに飲み込まれる斜陽。5万人の列がごうごうと大地を轟かせる。日本から来た100人の仲間たちも、いっせいに旗をなびかせデモへと出陣する。銀座大通りよりもはるかに広いソウル市内の大通りを、文字通りわれわれが占拠する。そこには権力の妨害もなければ、右翼のすがたも皆無。これが、これこそが力関係が逆転した世界なのか。そう感じずにはいられなかった。
 はじまりはみんな同じだ。何かを守るために闘った。疎外された労働に対して、自分のそして仲間たちの労働と誇りを取りもどすために闘ったチョン・テイル烈士。40年ものあいだ、彼の精神は継承されつづけ、波のように襲い掛かる労働者の怒りに、「国家」というものが打倒されつつある、労働者社会ともいえるこの世界の片鱗を示されて、旗竿を握る手も強くなる。
 見渡す限りのこの景色を日本でも反映させなければならない、私たちに突きつけられている課題は山積しているが、はじまりを思い出して、何かを守るための闘いが一人を、万人を獲得する闘いへと発展していくのではないか。その力には世界を変革させる力が、十二分にあるということ、やがて世代をこえて、言語をこえて、人種をこえて、国境をこえた団結を生み出します!
 労働者よ団結せよ! 闘争!