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2018年日韓労働者理念交流の報告

月刊『労働運動』34頁(0345号02/04)(2018/12/01)


2018年日韓労働者理念交流の報告 ★11・5日韓労働者理念交流
日韓労働者が組織拡大にむけて真剣に議論し、交流を深めた

(写真 チャジンガク団長)
(写真 日韓理念交流する参加者)



 11月5日千葉市内で日韓労働者理念交流が行われました。理念交流は、2008年ソウル本部の要請から始まり、今年で11年目となります。組織拡大にむけて民主労総から学ぶ意義深い交流でした。(敬称略・文責は編集部)

○司会(動労千葉大竹副委員長) 理念交流会を始めていきたいと思います。通訳は、金元重先生と沖山さんです。

※講演

●チャジンガク団長(民主労総ソウル本部・訪日団団長)

 2018年下半期韓国情勢と民主労総の闘いを報告します。

1 下半期情勢と課題

(1)韓国社会の誤った社会構造

 第一に、ムンジェイン政権は、財閥中心の成長をまず実現するために、労働者を排除した成長体制を進め、労働者民衆の権利を侵害し、労働者民衆の権利侵害と生活の犠牲を強要し、労働基本権を侵害し、不法派遣を蔓延させ、殺人的整理解雇、後進的な労働環境を持続させているのが現状です。

 第二に、財閥独占・両極化・不平等構造の拡散、さらに、低賃金、非正規職、長時間労働と多段階の下請け搾取構造に基づいた財閥中心の利益独占体制によって、賃金・雇用なき成長と労働階級内部格差を含む社会構造での労働者間の格差と不合理な差別拡大ということです。
 低成長基調の長期化は、製造業の深刻な後退の中で財閥主導体制の成長動力が弱まっていることと、政府の代案的産業政策がないことがあります。
 社会安全網システムが不十分な福祉後進国です。財閥中心の成長優先政策を施行しているために、共に生きていく雇用・分配・福祉構造確立と生活の質のための努力がおろそかにされた結果だと思います。

(2)ロウソク革命以後の労働者の要求と闘争

 労働者の要求と闘争は九つあります。労働・司法積弊清算、最低賃金1万ウォン、非正規職撤廃、労組する権利の保障、産別交渉の制度化、国民年金・雇用保険など保障性の強化、両極化の解消、財閥改革、分断積弊清算、朝鮮半島平和定着など多様な要求と闘争が進行中です。
(3)執権2年目、後退するムンジェイン政府の経済労働政策
 ロウソク政権を自認するムンジェイン政府は、労働尊重社会を国政運営基調として出発したのですが、執権初期には、①公共部門・非正規職ゼロ時代宣言、②最低賃金16・9%引き上げ、③労働改悪二大指針廃棄、④パリバケットなどに対する不法派遣判定など、労働尊重社会公約に対するそれなりの積極的な履行意志を持って、労働政策を具体化させていきました。
 しかし、公共部門非正規職の正規職化など主要政策の本格履行段階に入ってからは、実行力に対する疑問が大きくなってきました。そして執権2年目を迎えて、所得主導成長政策などの顕著な成果が具体化されず、主要経済指標が下降曲線を描いていることが確認され、それを契機にムンジェイン政府の経済労働政策基調は後退の兆しが歴然となり始めました。
 特に経済活性化や働き口など顕著な経済成果が急がれたムンジェイン政府は、所得主導の代わりに、革新成長に対する強調点を押し出し始めました。ところで、これは財閥の投資に依存する経済活性化や働き口創出のために、財閥の歓心を買うための規制緩和と労働権縮小、様々な特典につながる点で、経済民主化や財閥改革で親財閥、親企業で政策基調の右傾化を意味する他はありません。実際に本格化し始めた規制フリーゾーンなど財閥規制緩和特恵立法の動きはこれを立証しています。
 しかも、経済政策基調上のこのような後退は、最低賃金算入範囲改悪と1万ウォン公約廃棄を筆頭に労働政策全般の後退まで続き、今でも現在進行形で進行中です。ムンジェイン政府の経済・労働政策後退に対して、労働者階級はどのように対応すべきか。これが2018年下半期情勢を規定する核心要因の一つになっています。

2 民主労総の闘い


(1)労働者の対応原則

①労働者の要求と権利は、政府と資本の恩恵授与ではなく、闘いを土台に勝ち取ることが基本です。政府と国会に対する期待を超えて、私たちの正当な要求を闘いを通じて堂々と勝ち取っていかなければなりません。

②ムンジェイン政府の経済・労働政策の去就も、闘いを土台にした階級の力関係と情勢の流れの中で規定されます。ムンジェイン政府の正しい政策基調定立のためにも、政府の善意にだけ寄り添ったり、あきらめたり、傍観するのではなく、交渉ともかみ合わさった闘いを通じて、労働者階級の闘争で牽引していかなければなりません。

③労働者は当面の闘争を勝利的に展開する中で、社会大改革の主体として、効果的に立ち上がっていくことができます。今後、財閥体制全面改革のためにも、当面の情勢の中で提起される要求を中心に闘争を強化しながら労働者の結集力を高めていかなければなりません。

(2)主要細部情勢展望と細部対応方向

①2019年ILO総会(4月)の大統領出席(演説)を控えて、ILO基本協約批准および関連法改正のための議論が本格化しています。労働・司法積弊清算と共に、ILO基本協約批准および労組法改正を下半期闘争の核心課題として、現局面を私たちの希望である労働組合を組織する権利を勝ち取る契機としていかなければなりません。

②8月17日国民年金第4次財政秋季結果発表後、国民年金改革関連議題がすでに全社会的議論の局面に入っています。これは組合員と国民の老後所得保障と関連がある重大な議題なので、国家支給保障明文化、所得代替率削減中断など、国民年金保障性強化を下半期闘争の核心議題として、組合員と国民が参加する社会的闘争の緊急性を高めていかなければなりません。

③2018年上半期最低賃金法改悪に続き、公共部門非正規職の正規職化の矛盾、規制フリーゾーンなど立法推進などムンジェイン政府の改革後退の流れが続いていている状況です。司法壟断と関連した労働積弊精算も遅れています。ムンジェイン政府の経済・労働政策基調全般は今、重大な岐路にあります。総力闘争体制を超えて、ゼネスト決議に基づいた対応を通じて交渉と闘争をかみ合わせた強力な闘争戦線を作り出しながら、2019年以降まで見すえて社会大改革の流れを作っていく闘いを準備しています。

(3)11月ゼネスト闘争のイメージ

①名称は「積弊清算・労働する権利・社会大改革2018民主労総ゼネスト・総力闘争」です。

②ゼネストの意義および性格です。4点あります。
 第一は、財閥と財閥特恵同盟勢力の同盟を廃止して、労働者が社会大改革を音を立てて開始するゼネストという性格です。
 第二は、反対と阻止だけでない勝ち取るためのゼネストです。以下四つの枝です。
・財閥―財閥特恵同盟勢力が作った労働積弊制度の完全清算
・非正規職撤廃と労働基本権全面保障および安全社会構築のための労働関係法改正
・国民年金・健康保険・雇用保険保障性強化
・改悪最低賃金法原状回復
 第三は、財閥体制全面改革の礎石を据えるゼネストです。
 第四は、社会的論議の場に主導的に介入して、世論を主導しながら、社会的正当性を拡大していくゼネストです。以下、三つの枝が関連した議題です。
・労使政代表者会議に参加するか否かという議題です。業種特別委員会とは、トップレベルだけでなく各産業、業種別の労使政会議を作るということです。
・政府部署長官との定例労政協議とか、対国会および政党との政策協議をやりたいということです。
 民主労総は、上記の要求と内容で2018年11月ゼネスト闘争を行おうとしています。
 労働者が主人になる世の中に向かって闘いましょう!

(写真 田中康宏委員長)

●田中康宏委員長(動労千葉)

 私の報告は、大きくは二つのことを話させていただきたい。
一つは、安倍政権の労働者への攻撃という問題です。もう一つは、動労千葉の闘いの歴史です。

1 安倍政権と労働者への攻撃

(1)安倍政権と憲法改悪(特に9条改憲)攻撃

①「2020年新憲法施行」
 今、日本は、安倍政権の下で急速に右傾化が進んでいます。戦後73年、改憲を初めて具体的な政治日程にのせ「2020年新憲法施行」と言っているのが安倍首相です。一番問題になっているのが憲法9条を変えることです。「戦争は永久に放棄する、戦力は持たない、交戦権は否定する」を変えて、戦争をできる国にするのが目論見です。

②戦後日本の歴史における憲法9条
 憲法9条について、私は韓国や台湾の仲間たちを前にすばらしいとは言えません。憲法9条の背景には、天皇制を維持し、沖縄の施政権をアメリカに売り渡したことがあります。なによりも朝鮮半島の南北分断を認めることがあったからです。しかし憲法9条は、帝国主義的侵略戦争を行った現実から労働者が二度と戦争はしないと闘いに立ち上がった成果でもあったのです。戦後の日本労働運動の土台には、戦争だけは二度としない、憲法9条は変えさせてはいけないということがありました。憲法問題は条文問題ではなく、労働運動の土台を打ち砕く攻撃ゆえに立ち向かわなくてはいけないと訴えているわけです。

③改憲・戦争と労働運動再編攻撃
 憲法改悪攻撃と表裏一体で、日本の労働運動を戦前の産業報国会にする攻撃がかけられています。UAゼンセンという日本最大の178万人の労働組合は安倍政権が育成した組合です。9月に定期大会があり「武力攻撃を含めた行動ができるよう、憲法と法律の必要な整備を行っていくべきだ」という見解を打ち出しました。
 さらに、私たちと共に集会を主催した全日建運輸連帯労組関西地区生コン支部に23人の不当逮捕者を出す大弾圧、組合つぶし攻撃がかけられています。
 そして、私たちの職場であるJRは、30年前に国鉄分割・民営化を認めた御用組合が主流の組合ですが、これも解体して労働組合が存在しない企業にする攻撃が2月以降始まっています。JR東日本の社長が2月中旬に首相官邸に呼ばれ「組合を潰せ」と指示されたのです。わずか8か月で御用組合の組合員4万7千人のうち3万7千人が脱退しています。これが日本の労働運動の現状です。組合員300人の動労千葉が、昨日の集会を呼びかけるという事態です。でも必ず日本の労働者は立ち上がると信じて闘いを呼びかけ続けたいと思っています。

(2)安倍政権と労働大改悪

①「働き方改革一括法」の成立
 もう一つ、労働大改悪の攻撃がかけられてきています。今年6月「働き方改革一括法」という法律が国会を通過しました。安倍首相が「戦後70年で最大の改革だ」と言った内容です。

②その内容
 「高度プロフェッショナル制度」と言って、8時間労働制、週1日は公休を定める、残業代は割増賃金が必要という労基法上の基本部分を潰しました。
 労働時間の規制を受けない労働を合法化したのです。財界は年収400万円以上の労働者にも適用したいと言っています。
 もう一つの柱は、「同一労働同一賃金」として、最低賃金へ同一化する方向を定めました。
さらに「社会から非正規職という言葉をなくす」と言って総非正規職化しようとしています。
 もう一つは、「多様な働き方」「雇用契約によらない働き方」と言って、労基法も労組法も、最低賃金法も、年金や医療関係の法律も何も適用されない労働者を膨大に生み出すことを決めました。労働者の個人請負化です。戦後の労働法の解体過程が日本で始まっているのです。

③労働契約法の「無期雇用転換」(5年ルール)をめぐる事態
 さらに、非正規職が5年間継続して働いたら無条件で無期雇用に転換する法律が、4月1日から発効しました。4月1日の対象者は450万人です。しかし、無期雇用転換させないために無数の労働者が5年未満で解雇されました。無期転換した労働者も法定最低賃金ぎりぎりです。しかし、マスコミも「非正規職のジェノサイド(皆殺し)」と言っているのに、労働組合は闘わないのです。
 派遣労働者を3年間で正社員に登用する法律が10月から始まりましたが、同じことが起きています。
 動労千葉は、非正規職が8割を占めるJRの子会社で、非正規職の仲間の無期転換のためにJR本体の正規職がストライキ闘争を展開し、全員を無期雇用転換させました。提案された「5年未満で一旦全員雇用契約を解除した上で、誰を再雇用するか選別する」就業規則は粉砕しました。しかし、法定最低賃金ぎりぎりの無期雇用が現状です。

④「全世代型社会保障制度改革」、社会丸ごと民営化、入管法改悪―外国人労働力50万人導入国会では、社会保障制度の全面的破壊、社会丸ごと民営化が進められようとしています。50万人の外国人労働者を労働力不足のために導入する入管法改悪を強行しようとしています。全く無権利の労働者として、労働力を維持するためにだけ導入しようという悪辣な政策です。 これが日本の労働者に対する偽らざる攻撃の現状です。

2 動労千葉の闘いの歴史


(1)動労千葉の主な闘い

①闘う労働組合への脱皮
 60年くらいの歴史があります。
 鉄道で働く労働者にとって一番深刻な問題は事故問題です。動労千葉が闘う労働組合になったきっかけは事故に対する闘いでした。1972年、組合員が事故を起こし、多くの乗客が病院に入院している中で「事故の一切の責任は鉄道当局の合理化にある」と訴えて、ストライキを構え減速闘争をしたのです。当時は労使協調派の執行部で、現場の運転士が「事故は明日の自分の現実だ」と始めた闘争でした。これが闘う執行部が生まれるきっかけになりました。

②ジェット燃料貨車輸送阻止闘争と動労千葉結成
 三里塚農民の空港建設反対闘争をめぐり1977~81年、ジェット燃料貨車輸送を拒否して解雇者を出しながら闘いました。事故に対する現場の闘い、現場の気持ちを体現した闘いができていたからでした。1979年に三里塚闘争をめぐり動労本部から分離・独立しました。

③国鉄分割・民営化反対闘争(1982~1987年)
 国鉄分割・民営化反対闘争について話します。国鉄が民営化されJRになったのは1987年です。戦後日本の歴史で最大の労働運動解体攻撃でした。
 労働運動の中心だった国鉄労働運動を潰せば日本労働運動全体を潰せるという政府の重大な攻撃でした。何よりも戦後最大の首切り攻撃でした。民営化攻撃が始まった時に国鉄労働者は40万人いましたが、民営化後は20万人で、20万人の労働者が職場を追われました。
 その時、国鉄の大きな労働組合は国鉄労働組合でした。24万4800人の組合員が民営化後は4万400人まで切り崩されていました。しかもこれだけのことが起きていながら、国鉄労働組合も元々動労千葉が所属していた動力車労働組合も一切闘いを組むことができなかった。その結果、2年後には総評が自ら解散しました。こうやってできたのが今の連合です。
 動労千葉は国鉄の中では一番小さな1000人余りの労働組合でしたが、闘いに立ち上がることを決断しました。小さな労働組合が立ち上がって状況が変わるのか、組合員や家族とも繰り返し議論を重ねました。だけど黙っていても2人に1人は首になる。闘いの方針を出さなかったら組合員同士が足を引っぱり合う。団結を守るたった一つの道として闘う道を選びました。40人の解雇者が出て3600万円損害賠償など、大変な攻撃を受けましたが、団結は守りぬくことができました。こうして鉄道を越えて全国に闘いを呼びかけ民主労総の仲間たちと交流ができている。闘いの道を選んだことが正しかったと絶対的確信を持っています。

④JR体制下での闘いの継続
 1990年から国鉄1047名解雇撤回を闘い、2010年4月9日国労・全動労の「政治決着」という攻撃後も闘いを継続してきました。

⑤それまでの在り方からの脱皮
 動労千葉は、1989年のナショナルセンターをめぐる総評解散・連合結成という事態に直面して、「全国労組交流センターの結成」をよびかけ、さらに「全国にはばたこう」運動を始めました。2003年から国際連帯闘争が発展し民主労総とも連帯する取り組みをしてきました。

⑥業務外注化・非正規職化阻止闘争(第2の分割・民営化攻撃)
 分割・民営化と闘ったことが間違っていなかったと思ったのは、民営化攻撃はその時だけ乗り越えても終わらなかったからです。1999年から「第2の分割・民営化」という鉄道業務の外注化・分社化攻撃が始まりました。動労千葉は重大な決断を迫られました。攻撃は卑劣なやり方でした。年金制度が改悪され60歳で年金が受け取れないので雇用延長が必要でした。攻撃は「外注化を認めた者だけ雇用延長する」という提案でした。反対すれば60歳で首です。外注化を認めることは子どもたちの世代に非正規職しかいない社会を残すことです。組合員と真剣な議論をし拒否することにしました。60歳を迎えた組合員33人が首になりながら闘いました。その後12年間千葉だけは外注化を止めることができました。

(2)労働運動再生をめざして

 動労千葉は以下の理念、考え方を持つようになりました。

①どんなに小さな労働組合でも労働者階級全体の利益、労働運動全体の前進という観点を忘れない。「労働者は社会の主人公」「団結した労働者の力だけが社会を変革し、歴史をつくる」を建前だけにしないことです。

②資本と労働者の関係は非和解的な関係にあるという原点を絶対に忘れず、あいまいにせず、貫くことが大事だと学びました。それは戦術の問題ではなく、闘いと団結を持続することができるか否かということが絶対反対の意味だと考えています。そのためには職場の労働者の気持ちと深く結びついて怒りと力を引き出す以外の方法はない。だからすべての闘いを団結が強化したか否かで総括する。

③職場の問題を考える時にも時代認識が大事だと学びました。いつもいかなる時代に生きているのかを職場の労働者と共に考えることが、組合員の力を本当に引き出すと思います。それは労働者を徹底的に信頼することと一つです。

④闘いの路線や方針が正しくなければ、労働者は団結できません。だけど路線・方針だけでは団結できません。強い信頼関係と「路線と義理・人情」、この二つを兼ね備えた労働組合になることが本当に大事だと学びました。闘いの路線・方針が正しいか否かは職場の労働者が自分の経験に基づいて正しさを一人ひとりの組合員が納得することで検証されるのだと思います。

⑤闘いの展望ははじめからあるわけではありません。闘いの中で切り開くものです。
 生活を抱え、家族を抱えているがゆえに、確かな展望を求める職場の仲間と信頼関係をつくり、闘いの中から一緒に展望をつくりあげていく過程こそが闘いだと学びました。常に最も困難なのは、職場で団結と闘いを組織することで、それから逃げないことです。回答は職場の中にこそあると思います。

⑥常に問われるのは指導部です。動労千葉がずっと受け継いでいることは「魚は頭から腐る」こと、指導部・活動家が揺らぐことなく先頭に立っていれば、労働者は必ず団結を崩さないということを学びました。

⑦資本と闘うことは自らと闘うことです。労働者の組織化とは、自らが変わることによって仲間が変わることだと思います。

⑧「闘えば分裂する」「労働者は要求でしか団結できない」「現実路線という名の既成事実への屈服の連続」が日本の労働運動の「常識」でした。いつもそれを乗り越えたいと考え続けて闘ってきました。
 動労千葉が本当に組織を拡大し、日本の労働運動の再生を実現した時、今述べたことは本物になるのかなと思っています。

※質疑応答


○斎藤郁真(前全学連委員長)
 民主労総のゼネストについて「反対と阻止だけでない勝ち取るためのゼネスト」「そのための社会的論議の場に主導的に介入していく」と訴えられています。それを実現するために「ムンジェイン政府を乗り越えて、労働者の政治勢力化を」とのスローガンですが、どれくらい進んでいるのか、どういう挑戦や困難があるのか知りたいです。

◎チャジンガク
 民主労総は、かつて「民主労働党」を中心に労働者の政治勢力化ということで一定程度の成功を収めたと思います。しかしその後、「民主労働党」は解散して、いくつかの潮流の党派に分かれているのが現状です。
 民主労総の中央執行部でもこの点については悩んだのですが、「共に民主党」が労働者の政治勢力化の代案にはならないという点で悩んでいます。労政交渉をする場合「共に民主党」とやっても民主労総が思うような労政交渉はむずかしい状況です。2020年に韓国の国会議員選挙があります。それに向けて進歩陣営の政党をどう一つにまとめていくかを民主労総でも注意深く話を進めているところです。しかし、これは簡単な決定にはならないと思います。いかに労働者政党を一つにまとめていくかは2020年総選挙をめざして進行中だと言えます。

○パクヨンジク(民主労総言論労組MBCアート支部)
 私たち動労千葉訪問団に対して精密なスケジュールと歓待をして下さっている動労千葉に御礼申し上げたいと思います。
 田中委員長に伺いたい。世界の政治経済情勢は、多国籍企業が全世界で労働者を搾取しているのが現状です。多国籍企業の国境を越えた搾取が行われているのは、台湾の富士ゼロックスの同志たちが来ていますが、それが現実だと思います。
 労働者側にとっても、世界労連とか世界的規模の労働者組織はあります。毎年のように動労千葉と民主労総ソウル本部が国際連帯、交流の場を持っています。しかし、企業が多国籍的に展開し利益追求に走っている中で、国際的搾取に対抗する労働者側の国際的な教育、連帯、情報共有が求められていると思います。国際連帯をどう考え、今後どう発展させようとしておられるのか伺いたいと思います。

◎田中委員長
 多国籍企業が世界中の労働者を支配して分断している現実はおっしゃる通りだと思います。私たちも民主労総の同志たちと連帯が始まるとか、国際的な闘いが同時に始まるとかは、始めは思いもよらなかったのです。
 僕らは、国内的にも、鉄道という企業の壁を越えて、地域も産別も越えて、連帯を求めるようになったのは必要に迫られてのことでした。国鉄分割・民営化で多くの解雇者を出して、解雇者を守るために企業の壁を越えて連帯を求める以外になかったからです。国際連帯の原点はそこにあります。つまり労働組合の幹部同士が交流することは今までも多くありました。だけど本当に現場の一労働者が必要に迫られて連帯していく、ここに国際連帯の本当の芽があると思っています。民主労総とのつながりもそうでした。日本で国家主義や排外主義が蔓延し始め、日本の労働者がまた同じ道を歩んでしまうのではないかと危機感に駆られて、民主労総から私たちの集会に来ていただいたことがきっかけでした。そうしたら、民主労総ソウル本部が私たちを韓国に招いて下さり、総連盟にも連れて行って下さったのです。その時に事務総長をされていたのがイジェウン同志で「正式に動労千葉が民主労総ソウル地域本部と共闘関係を結んだらどうか」と言って下さったのです。できることは限られていると思いますが、遠征闘争などで要請があった時には、僕らでできることはこの間もやってきました。ハイテクコリア闘争、KEC闘争、旭硝子闘争などです。本当に切実な生きるために必要な闘争だったと思います。国際連帯はそういう形でつながっていくのが本当に大切なことだと思います。

○ホミョンド(民主労総公共運輸労組交通公社労組、整備士)
 午前に動労千葉や動労水戸の同志たちと懇談会を持ちました。動労千葉も動労水戸も人力削減に対する闘争をしていると話が出ました。人力削減に対する闘争をどのようにどういう内容で進めようとしているのか聞きたい。併せて組織拡大闘争をどのように進めようとしているのか、伺いたいと思います。

◎田中委員長
 私たちの一番困難な課題で、挑戦してもなかなかうまくいっていない課題です。民主労総は組織拡大が進んでいると聞いていて、私たちの方が教えていただきたい気持ちでいます。その上で、人力削減、日本で言えば要員削減ですが、動労千葉の闘いを少し話したいと思います。
 私たちのような小さな労働組合では限界があり思うように進んではいません。今、鉄道では外注化による要員削減です。鉄道のあらゆる業務を数百の子会社にバラバラにし外注化しようとしている。JR本体は持株会社で鉄道業務はしないところまで企業の「進化」をさせようとしている。この18年間は外注化反対闘争の継続でした。外注化は非正規職化ということです。
 闘い始めてわかったことは、日本の労働運動史で外注化攻撃に対抗した経験が一つもなかったのです。日本の2000万人を超える非正規職労働者は、法律が変わったからではなく、あらゆる企業が外注化を進める中で生み出されたのです。非正規職のひどい現実に対する闘争はいくつかあります。しかし労働者が正規職から非正規職に突き落とされる過程に対して闘わず、結果のひどい現実に闘っても本当に対抗できるのかという考えに思い至りました。
 2000年に組合員が首になっても外注化を認めず雇用延長を拒否したと話しましたが、そのことに気づいたからです。外注化は2012年に強行されましたが、12年間何十回もストライキを繰り返しました。外注化阻止が労働組合全体のレベルで闘われていたら、非正規に落ちていくことを止められるのではないでしょうか。
 闘いの過程を一番見ていてくれたのは、外注先のJR子会社の非正規の仲間たちでした。私たちが担っていた車輌の検査修繕部門の外注先は8割が非正規の企業でした。外注先の職場で動労千葉の副委員長が職場代表選挙に勝利しましたが、外注化反対闘争を見ていてくれたからです。動労千葉に結集するまでは壁がありますが、外注先で組合員を組織すれば外注化はできないのです。

○イグンヘン(民主労総公共運輸労組交通公社労組、教育部長)
 私は、ソウル交通公社の駅務員でした。今は労組の教育部長です。田中委員長に質問します。
 労働組合の中で教育する時に、歴史や賃金、資本とかいろいろあり、今、経済恐慌の教育をしているところです。
 動労千葉前委員長の中野洋さんは「労働者が社会を変えなくてはいけない」という観点から教育を行っていたと思います。社会を変える時には指導部が先頭に立って闘わなくてはいけない。そのためには組合の執行部が支配階級のイデオロギーに対して、労働者階級の考えを身につけていく必要があると思うのです。動労千葉の歴史を伺うと長い粘り強い闘いの原動力は、動労千葉の労働組合の思想にあるのではないかと、私は思うのです。動労千葉の労働組合の反帝国主義の教育はどういうふうに行われ、どのくらいの時間を配置しているのかお聞かせください。

◎田中委員長
 今、うちの組合員は耳が痛い気持ちで聞いていると思います。勉強の嫌いな人たちばかりです。それでも日本の場合は戦後、大学で教えるのはマルクス経済学で、御用組合でも『賃労働と資本』等のマルクスの勉強をするのです。しかし、労働組合がなぜこんな状況になってしまうのか。それで、前委員長の中野さんは「労働者の思想を身につけてほしい」と強調していましたが、組合員に話す時には、単なる理論として話すのではなく、労働者の思想は闘いの中で「あ、そうだ」と労働者自身の闘いの中で身につけていかなくてはいけない、教え込むものではないと言っていました。思想は闘いにとってすごく大事ですが、闘いの中で労働者が正しいと気づいて自らの力で身につけていくと思います。
 もう一つ、日常的な闘争の場面で、今、社会で起きていることを常に語ってきました。現場の組合員が、社会で起きていることはすべて自分に無関係のことはないという感覚を身につけると、組合員自身が自分の欲求として本質を知ろうとなっていく。そういう形で理論を学ぶことが大事かなと思っています。○イジョンヨル(民主労総公共運輸労組仁川地域機関支部)
 韓国には民主労総という闘うナショナルセンターがあります。日本にはそういう闘うナショナルセンターがないように見えます。しかし、資本と権力はガッチリと手を結んでいます。日本に民営化の嵐が吹き荒れている中で、憲法改悪の策動まであります。労働陣営はどう対応していくのか、共同戦線のような闘う連合体が作られているのかどうなのか。併せて、ナショナルセンター、この場合は闘うナショナルセンターを作るために、どのような展望があるのかお聞きしたいと思います。

◎田中委員長
 今、憲法改悪の事態に対して統一した闘いの呼びかけはなくはないのです。「総がかり行動」という運動団体が反対の声をあげています。労働組合やいくつかの市民団体が合流していて、昨日の集会前日に国会前に1万数千名が集まっています。ただ、それは力となる目標を実際には失っているのが現状です。唯一掲げている目標は「選挙協力で野党が3分の1以上の議席を占めれば、憲法改悪を止めることができる」ということです。改憲発議に3分の2以上の議席が必要だからです。だけど現状は野党も含めて改憲推進になっています。野党は「憲法問題に触れたら野党共闘が崩れるから、憲法問題には触れない」と本末転倒した事態になっています。集まっているのは真剣な怒りの声です。だけど行けば行くほど、絶望して帰ってしまうのです。その運動には、どんなに困難でも職場や地域から労働者を組織化する土台を作っていく発想がないことです。だから昨日の集会でも「職場で労働組合が力を取り戻す。職場と地域をつなげる運動体を僕らの力で作っていこう」と呼びかけたのです。
 今、本格的に闘うナショナルセンターを作ろうという運動は存在していません。昨日のような小さい努力も僕ら自身の力でせざるを得ない、これが日本の現状です。僕らはこの現状に絶望しているわけではなくて小さな火を灯し続ける。それがいつか時代と結びつき始めると思っています。

○木村郁夫書記長(動労水戸)
 組織拡大についての質問です。今、職場で苦闘しています。民主労総の同志たちは宣伝隊も持って展開されていますので、その対象は民主労総以外の労働者大衆にもされていると思うのですが、どういった展開の仕方をしているのか、職場や地域で組織していくためにも必要だと思うので、お願いします。

◎チャジンガク団長
 ソウル本部の非正規職の組織化について話します。今、民主労総は80万人の組織です。昨年から10万2千人増えました。組織拡大の対象は非正規職と未組織労働者です。大企業労組、大工業労組の場合は組織拡大というよりは組織維持が課題です。交通公社などでは、非正規職を正規職にすることが成功していますし、ソウル本部が力を入れているのは、靴の製造、雑貨を作って販売している労働者の組織化です。今、民主労総には16産別がありますが、それぞれの産別が組織拡大に一生懸命に取り組んで成果をあげています。ソウル本部は、非正規職の組織化に努めていますし、各産別がそれぞれの懸案を抱えながら、産別の特に非正規職の組織化に全力をあげています。日本と多少違いがあるかもしれませんが、組織対象としては、非正規職と中小零細企業の労働者たちを組織しています。民主労総は2020年までに200万組織にするという遠大な計画を立てています。ソウル本部は今、16万~17万人組織ですが、2020年までに30万組織に拡大したい。ただ接すればいいというのではなく、闘争の中で組織化する方針でやっていきたいと思っています。

◎イジョンヨル
 私の所属する全国公共運輸労組の組合員は、現在20万5千人です。公共運輸労組の組織化では、組織労働者の力で未組織労働者を組織する道をとっています。例えば、国民年金支部の正規職が国民年金支部の非正規職の闘争を支援するということです。私の隣に居るキムヒャンリさんは、公共運輸労組国民体育公団の非正規職ですが、組合の力が弱い時には正規職の組合員がそれを擁護するのです。例えば、私が所属している公共運輸労組のインチョン地域の公共機関支部は、学校ですが、非正規と正規が一緒に闘って成果をあげました。そういう闘いをやると、同じ地域の別の業種で起こっている問題、同じ業種だけれど他の地域で起こっている問題、そういったところがどういう闘いを進めたらいいのか連絡を取るのです。闘った経験、勝利した経験があると、そこに問い合わせをしてどういう闘い方をしたのかを共有することで広がっていくのです。
 私がいるインチョンに有名なインチョン空港がありますが80%が非正規職です。空港の正規職は税関の公務員ぐらいです。それ以外は、見える所も見えない所も働いている人はみんな非正規職です。インチョン空港の非正規職労働者たちをどういうふうに組織化したかについてお話したいと思います。
 ソウル本部と同じように、私たちも毎週インチョン空港に入って宣伝を行います。また、インチョン空港に一人の労務士と一人の常駐活動家を置きます。資本と政権はいつでも労組を分裂させようとしていますから、労組のやり口をよく知っています。結局そうした攻勢にあった労働者たちは「もうこれ以上は我慢できない」と言って、公共運輸労組を訪ねてきます。そういうふうにして、一つひとつ橋頭堡を確保しながら組織を拡大して、現在、インチョン国際空港の公共運輸労組の組合員は3500人に達しました。2000人組織までは苦労しました。しかし2000人の組織ができた時から、組織された労働者が未組織労働者を組織化するということが軌道に乗り始めました。始まりから現在まで闘いは二十数年かかりました。

◎クォンジョンファン(民主労総公務員労組ソウル本部)
 ムンジェイン政府がスタートしてから非正規職をゼロにすると言いながら、公約通りには進んでいません。正規職化したところも多くの問題点を抱えています。非正規職を正規職に転換する点で、韓国で「同一労働同一賃金」が非正規職の正規職化に関連して言われていますが、これを実現する方法として、ムンジェイン政府は「職務給の導入」と言っています。「同一価値労働同一賃金でやる」と言っていますが、同じ職務でも賃金格差をどうするのかという問題などたくさん問題があります。この職務分析が曲者です。その評価は資本家たちがするのです。例えば、清掃についてはいくら、食堂についてはいくらとやるのですが、こうしたことが労働者の団結を阻害する要因にもなってきます。資本家や政府が職務給を導入するのは、つまるところ賃金の引き下げをやるということです。非正規職をなくすのも賃金を引き下げるためです。非正規職の労働者が正規職化を望むのは、低賃金で生活がやっていけないからなのです。私たちはこの点についても騙されてはいけないと思います。

○司会 これで終わりたいと思います。(団結ガンバロー)