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理論なくして闘いなし第21回 憲法審査会、国民投票法とは何か

月刊『労働運動』34頁(0345号03/01)(2018/12/01)

理論なくして闘いなし 闘いなくして理論なし 第21回
憲法審査会、国民投票法とは何か


川添 順一(「とめよう戦争への道!百万人署名運動」事務局 「改憲・戦争阻止!大行進」事務局)

「とめよう戦争への道!百万人署名運動」「改憲・戦争阻止!大行進」事務局の川添順一さんに「憲法審査会、国民投票法とは何か」を書いていただきました。

●はじめに

 労働者民衆の怒りと闘いは、安倍の改憲プランを破たんさせ、断崖絶壁に追いつめています。安倍政権は11月下旬になっても臨時国会で憲法審査会を開くことができず、もがきあがいています。12月10日までの臨時国会を延長した上で、年明け早々に通常国会を開くとも言われており、2019年はまさしく〝改憲国会〟決戦とならざるをえません。闘う労働組合が先頭に立つ「改憲・戦争阻止!大行進」運動の拡大が本当に求められています。
 改憲国会はさしあたって国民投票法改定と憲法審査会の開催をめぐる与野党の駆け引きとして進行します。「大行進」運動を発展させるために、私たちは国会情勢にもっと敏感になる必要があります。改憲国会がどのように進もうとしているのか、憲法審査会や国民投票法の問題は何なのかを考えてみましょう。

●労働者の怒りが改憲を阻む

 9月に「念願の総裁3選」を果たした安倍は、党・内閣人事で「改憲シフト」を組みました。自民党の憲法改正推進本部長に下村博文を、衆院憲法審査会の与党筆頭幹事に新藤義孝を配置しました。両者とも安倍の側近で、極右の改憲強硬派です。この露骨な「改憲シフト」は、安倍の焦りの表れでした。
 安倍は改憲突撃体制を敷いたのですが、改憲に突撃できてはいません。その直接的な理由の一つは、与党内の公明党が「壁」になってしまっているからです。公明党の山口代表は、「9条を変える必要があるか、よくよく慎重に考えるべきだ」(11月17日)とか、「国会では合意らしきものは全然できていない」(11月1日)と発言し、慎重姿勢を強調しています。
 公明党幹部がこのように反応せざるをえない原因は、昨秋の衆院選で6議席も減らしたこともありますが(自民党と一緒になって戦争法を強行したことへの離反)、なにより今秋の沖縄県知事選や那覇市長選で公明党支持者の3~5割(推定)が公明党推薦を拒否したことに大打撃を受けているからです。「首相が公明党を無視するように改憲発議に突き進めば、連立崩壊の危機につながる(自民長老)という声も少なくない」(時事通信)。沖縄県民を先頭とした労働者民衆の怒りと闘いが、改憲をしっかり阻んでいるのです。

(写真 安倍首相と握手する玉木代表)

●国会情勢

 このような状況の中で、安倍・自民党に救いの手を差し伸べているのが国民民主党です。国民民主党は、9月に大会を開いたUAゼンセンに支持を表明されました。その国民民主党の玉木雄一郎代表が、「円満な議論ができる環境が整うのであれば、(改憲)議論を拒否するものではない」、「CM規制の議論を行うと約束してもらうことが、(憲法審査会の)審議を進めていく条件だ」とはっきり述べています。
 「円満な議論ができる環境」とはどういうことでしょうか。9条改憲案づくりを与野党が仲良くやれる環境のことでしょうか。
 玉木代表は臨時国会の代表質問(10月29日)で、「自衛権の範囲を憲法上明確にし、平和主義の定義を国民自身で行う〝平和的改憲〟の議論を行うべきだ」と主張しています。そして翌30日には独自の「国民投票法改正案」をまとめています。このような動きに対して下村博文・自民改憲推進本部長は、「国民民主党は玉木代表が『平和的改憲』と発言し、政党によるテレビCMを規制する国民投票法改正案も準備しています。話し合えると期待しています」(11月16日の産経新聞)とラブコールを発しています。
 安倍にとっては来年7月の参院選が、改憲発議の事実上のタイムリミットです。現状では参院選で、「改憲勢力3分の2」を失う可能性が大きいからです。
 だから下村が「安倍色を払拭し」と言ったり、自らの失言に対して憲法審査会の委員を辞退すると表明して、必死に「環境」を整えようとしているわけです。

●「改憲手続き法」とは何か

 以上のような国会情勢を念頭に置いて、憲法審査会と国民投票法の問題を見てみます。
 日本国憲法の第96条には「改正の手続き」が明記されており、その手続きは、①「各議院の総議員の3分の2以上の賛成」による国会からの発議と、②国民の投票の「過半数の賛成」による承認という、2段階として規定されています。しかしこの2段階の「手続き」をどう進めるかは、戦後長らく定められてきませんでした。
 そこを一気に突破してきたのが、第一次安倍政権でした。安倍は2007年5月に「日本国憲法の改正手続に関する法律」を制定しました。その過程で、当初は自民・公明・民主の3党で「改憲手続き法案」の共同提出が目指されていたこと、法案提出の最終局面で民主党が「違い」を強調したため、与党案と民主党案の二つの法案が提出されたという経緯がありました(対決を装いながら、野党も改憲体制づくりに協力してきたのです)。
 さて、その「改憲手続き法」ですが、じつは国会法改正と改憲国民投票法がワンセットになったもので、前者が憲法審査会の設置および国会発議の仕組みを定め、後者が改憲国民投票制度を定めました。よく「国民投票法」と表現されますが、そうすると憲法審査会の問題が抜け落ちてしまうことになります。

●改憲の第一段階

 この「改憲手続き法」は、一般的に改憲の手続きを定めたものではなく、改憲派が改憲をしやすくする仕組みが組み込まれたものです。
 改憲の第一段階である「国会の発議」において、「3分の2以上の賛成」という高いハードルを越える仕組みのポイントは、憲法審査会が国会に設置されたことにあります。
 憲法審査会のどこにその仕組みがあるのか。それは、憲法審に「議案提出権」という権限が与えられていることにあります。具体的には、憲法改正原案や改憲手続きに関する法律案をつくって国会に提出する権限を持っていることです。この議案提出権は、法務委員会や安全保障委員会など、国会の中のほかの委員会は持っていません。
 ちなみに通常の法律案は、閣法か、衆法または参法という形で国会に提出されます。閣法とは、閣議決定され内閣によって提出された法案です。衆法または参法とは、国会議員が集まって共同提出した法案です。この行為を議員立法と言います。
 では、議案提出権を持つことにはどのような意味があるのでしょうか。憲法審査会の場で与野党が改憲原案づくりを一緒にやることで、原案が国会に提出される前から、与野党の基本的な合意が図られていくということです。
 具体的に考えてみましょう。自民党が9条「改正」案を提示します。それに公明、維新、希望が賛成を表明します。しかし立憲民主が批判し、国民民主が対案を出します。自民がその批判と対案を受け入れて修正します。それで立憲民主と国民民主が概ね賛成と表明します。共産・社民は反対を唱えますが、憲法審査会長がこの最終案で国会に提出しますと宣言し、両院の審査会で調整が図られ、審査会長名で改憲原案が国会に出されるわけです。
 審査会長名での提出が困難な場合、例えば野党第一党の立憲民主が反対し国民民主が賛成したような場合、衆議院では100人、参議院では50人の議員による議員立法という形で改憲原案を国会に出すこともできます。その場合の改憲原案も憲法審査会での一定の討議(一定の与野党合意)を経て作成されることになります。

(写真 自民党憲法推進本部で挨拶する下村博文)

●改憲の第二段階

 改憲の第二段階は、国会が発議した改憲案の承認をめぐる国民投票です。改憲手続き法で定められたこの制度のどこに「改憲派が改憲をしやすくする仕組み」があるか。
 一つは、発議されると「国民投票広報協議会」が設置されますが、選挙の選管とは違い、改憲案を発議した国会の議員によって構成されるため、「改憲案に賛成させるための広報」になる可能性が大きいという点です。
 二つめは、国民投票運動の過程(60~180日間)に行われる有料宣伝に制限がないことです。テレビCM等には巨額のお金がかかりますが、資金力のある改憲派が圧倒的に有利だということです。
 三つめは、改憲国民投票法で「公務員等及び教育者の地位利用による国民投票運動」が禁止されていることです。罰則に「買収及び利害誘導罪」を設け、違反した者は「3年以下の懲役」「50万円以下の罰金」としています。教労や自治体をはじめとした労働組合の闘いを封殺することが狙いです。

●「国民投票法改正」案とは

正案」に戻します。
 継続審議の「国民投票法改正案」は、6月27日に自民、公明、維新、希望の4会派が共同して衆議院に提出したものです。共同投票所の設置など2016年の公職選挙法改正に合わせたもので、与党には、憲法審査会の開催に応じない野党側をテーブルに着かせる狙いがあったのですが、その政治がうまくいかず、臨時国会に継続審議となりました。
 そこで「国民民主が独自にまとめた国民投票法改正案の審議を呼び水とする」(11月5日の読売新聞)案が与党内に広がりました。
 国民民主党独自の「国民投票法改正案」とはどういう内容か。それは①政党によるスポットCMの禁止、②国民投票運動等に関する支出額が1千万円を超える団体の届出及び収支報告書提出の義務づけと支出限度額の規制(上限を5億円とする)、③国政選挙と重なる時期の国民投票の禁止などです。
 直対応的に批判すれば、この案は何ら「公平性」を実現するものではなく、改憲派の有利性を保障するものでしかないということです。政党によるスポットCMが禁止されても、届出を行った団体は5億円を上限に国民投票運動を展開することができ(スポットCMも流せる)、改憲派が億単位の資金を調達する団体をたくさん登録すれば、圧倒的な改憲賛成宣伝が可能になってしまうからです。

●野党の改憲論への批判

 最後に、立憲民主の「立憲的改憲」論と国民民主の「平和的改憲」論を弾劾します。
 立憲民主党・憲法調査会事務局長の山尾志桜里が打ち出した「立憲的改憲」論の主な内容は、①9条2項の改正。個別的自衛権に限定することを明記し、その範囲で戦力を認める。②憲法違反をただす憲法裁判所の新設。③首相の衆院解散権の制約。④同性婚をする権利の保障。⑤臨時国会の召集要求に応じる期限を明記。5つあげていますが、主張の核心は①にあります。
 これに対して枝野幸男・立憲民主党代表は、「ほぼ憲法論は、山尾さんが言うことと私の言うことは一緒だ。私は立憲的改憲論の立場だ」(5月3日の討論会)と述べています。
 この①は、最初にあげた玉木・国民民主党代表の国会発言と同じです。つまり、立憲的改憲論と平和的改憲論は核心部分において同じなのです。自衛隊の明記に賛成であり、個別的自衛権を9条に明記しろと要求しています。
 自衛の名で行われてきたのが戦争の歴史です。アメリカのイラク戦争も個別的自衛権の発動として実行されてきました。私たちこそ「自衛隊明記絶対反対」論を貫き、憲法審査会での改憲議論を認めない、改憲発議も国民投票も許さないという立場で闘い抜いていきましょう。